第30夜 手の先

 廃墟のような建物に住んでいた。

 そこが私の家らしい。

 家には手首から先だけで動く化け物がいた。

 掌に大きな口があり、何事か喋りながら指で走り回る、これが早いのだ。

 壁から天上へシャカシャカと動きまわり、隙あらば私を食おうと襲い掛かってくる。

 誰だか解らないが、女性が1人一緒に暮らしているようだ。

 私は飛びかかってくる化け物を足で踏んで押さえつけては、塩酸のような液体で少しずつ溶かしていく、それでも化け物は器用に足の下からスルッと抜け出し、壁に飛びつき天上へ逃れ、動き回り襲ってくる。

 なかなか死なない化け物に嫌気が差して、扉を閉めて一息つく。

 扉の向こうでバンバンと音がする。

 化け物が扉を叩いているのだ。

 女性が不用意に扉を開けた。

 その瞬間、化け物は私に向かって飛びかかってきた。

 慌てて手で払いのけるが、私は手の一部を食われてしまった。

 私の肉をグチャグチャと音を立てて食う化け物に怒りを感じ、今度こそ逃がすまいと足で踏みつけ、女性に塩酸を掛けろと指示する。

 女性は塩酸ではなく洗剤を一生懸命、かけ始める。

 それじゃないと思うのだが、化け物を抑えるのに必死で声にならない。

 しだいに滑ってきて、化け物がズルッ…スルッと足の隙間から抜け出そうとしている。

 それ以上かけるなと叫ぶのだが女性は必死に洗剤を、かけ続ける。


 よく見ると、女性の右腕は手首から先が無く…口も無かった。

 あぁ、この化け物は、彼女だったのだと気が付き、私の足からヌルッと化け物が這い出てきた。

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