第5夜 鯨

 防波堤に立っていた。

 大きな防波堤は今にも結界しそうで、私は早く渡らなければと焦っていた。

 波も荒いのだが、それ以上に防波堤の決壊を速めているのは、大きなクジラ。

 クジラは波に合わせてその巨体を防波堤に打ちつけている。

 最初は怖いだけのクジラ、私は早く渡らなければと大きな亀裂を飛び越えようとしていた。

 タイミングが計れずに、落ちれば死ぬと思うと、どうしても飛び越える勇気が出ない。

 足元には大きなクジラの大きな目。

 黒い巨体がうねる波を押しのけるように暴れまわる。


 飛び越えることを諦めて防波堤に座り込む。

 足元のクジラがぶつかる度に防波堤は少しずつ振動で崩れていく、そのうち、この波の中に沈むのかと思うと、クジラが急に憐れに思えてきた。

(なんのためにコンクリートに身を打ちつけているのか?)

 それは、とても意味のあることのように思えて、私はクジラの目を見る。


 狂ったように暴れ回るクジラの目は、泣いている様に思え、私は崩れゆく防波堤で泣いていた。

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