2-5
東京に帰ってから、早速おれは夏帆にLINEした。
『テニス大会お疲れ様でした! 夏帆と組めて楽しかった。もしよかったら、今度二人で飲みに行かない? 再来週の土曜とか』
何度も書いては消し、書いては消しを繰り返して、えいや! と送信したのがこれだった。テニス大会のお礼から始まり、さりげなく二人で会いたいと誘う。我ながら、なかなかにスマートなLINEではなかろうか。
すぐに既読がついた。そして、すぐに返信が来た。
『再来週ですか。随分早いですね。こちらになにか用事があるんですか?』
『夏帆に会いに』
『あーハイハイ。なんか変な虫がついちゃったなぁ』
『なに!? 夏帆に手を出すとはどこの不届き者だ』
『あなたですよ、変な虫の筆頭は』
それから、夏帆からもう一通連投された。
『齋藤さん、どういうつもりなんですか? そういうつもりだったら、二人で会うのはお断りします』
おれは、スマホを一旦テーブルに放って、座椅子の背もたれに大きく寄りかかった。
さて、どう返信したものか……。
夏帆の言う『そういうつもり』とは、あのテニスコートでのプロポーズを念頭に置いたものだろう。つまり、おれと付き合うつもりはないと言ってきたのだ。
だが、おれは夏帆ともっと仲良くなりたい。このままだと、来年のテニス大会まで会うことはないかもしれない。それは嫌だ。
おもむろにベッドの上で裏返しになっているスマホを拾った。
『わかった。それでもいいから飲み行こ。その週、日曜にサークルで芋煮あって顔出すんで、どうせそっち行くし』
芋煮とは、東北ではお馴染みの行事で、簡単に説明すると、河原に集まって芋を煮て食う会である。味付けについては、山形と宮城が喧嘩を始めるのでここでは言及しないこととする。
再来週の日曜日、サークルの芋煮の案内が回ってきていたのは事実なのだが、わざわざ芋を食うためだけに新幹線の距離を移動するつもりはなかった。
なにかしら理由をつけて、どうせそちらに行くのでついでに会おうよ、くらいにしておいた方が夏帆も応じやすいだろうというわけだ。
『ならいいですけど』
夏帆からの返事。
あなたとは付き合うつもりはありません。でも、ただの仲良しとして飲みに行くのは別に構いません。
夏帆はこう言っているのだ。
こっちとしては、付き合いたい気持ちは溢れんばかりなのだが、正直にその気持ちを伝えたら会うことすらできなくなってしまう。
『ありがとう! 店どっか希望ある?』
店はおれに合わせるとの返信。決まったらまた連絡する、と返して、再びスマホを放り投げた。
まずは、会い続けることが肝心だ。
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