lesson.9 ライバルの実力
「は?タニンノソラニとライブ対決?正気かお前」
言うと思ってたけどそこまで言う!?
「……無茶なのは分かってますよ。格上にも程がある」
MV部門、タニンノソラニがアップロードしている複数のビデオのうち、一番順位が低いものでさえ6ix waterとの差は歴然だ。なんで沙織先輩はそんな人達に喧嘩を売ったのか
「そういえば、焼津くんはライバルとかいるんですか?」
「お前らとは成り立ちが違うから一概にとはいかないが……メンバー間でもいるけど、目の敵にしてるグループも複数あるぜ」
「例えば?」
「ドントブリーズ。アイツらは曲やダンスの雰囲気が被ってるんだ」
「そうなんですか」
「まぁとりあえずアレだ、今回お前らの場合は先攻を取ったほうがいいかもな。気圧されて納得のいくパフォーマンス出来なかったら嫌だろ」
「あら、アイドル二人が内緒のお話?スキャンダルの匂いがするワッ!」
「店長!」
「そんなんじゃないっスよ、泉野の相談に乗ってただけです」
「必死に否定するとホントにそう見えるわよ?」
「だから違いますって」
「ふふ、ジョーダンよ、冗談。それよりアッシュくんは接客を、レオンくんは今日は厨房ね」
『イエス、マイロード』
うーん、もう少しお話したかったかな。……緊張しない方法とか教えて欲しかったし
「生徒の呼び出しをします。1年C組の
昼休みに突如として鳴り響く沙織先輩のアナウンス。部外者だけ呼ぶとは思えないし、私も行かなくちゃダメないんだろうな
「玲奈、どこ行くの?」
「部室だよ。安城羅さん、一緒に行こう?」
「え?あ、うん」
たまたま一緒に駄弁ってた安城羅さんの手を繋いで案内を兼ねて部室棟へ。お互いアイドル故か付き合ってるだの何だのとヤジが飛んでいるが、そんなことは無い。やましい気持ちなんて一切ない
……ホントだよ?
部室に着くと私達以外全員いた。ふとスマホを見ると涙先輩から部室に集合するようメッセージが来てた。気が付かなかった
そしてなほちゃんの隣に安城羅さんそっくりな人がいる。安城羅さんに比べてタレ目っぽい感じ。この人が夢奏エルさんだね
「よし、全員揃ったね。では話を始めよう」
さすが生徒会長、その一言でピリッとした空気感に変わる
「単刀直入に言うよ。本日の放課後、君達タニンノソラニとボクたち6ix waterで、オリジナル曲のみのライブ対決をしてほしい。お互い一曲しかないし丁度いいと思うのだが……どうだろう?」
「いいよ、断る理由ないし。ね、メル姉……ううん、ふわり?」
「うん、楽しそう」
「じゃあ決まりね。対決方法は生徒に良かったと思ったグループの色のプレートを掲げてもらって、その総数で決着をつけるってことで」
「プレートの準備や設営はウチらがやるっス」
「了解です」
「エルちゃん、何か質問はありますか?」
「んー……勝った時のメリットがわかんないな、報酬とかは?」
「そうね……私達は経験不足も甚だしい。だから、私達が勝ったらタニンノソラニのライブに呼んでもらえないかしら?」
「おっけ、マネージャーに話しておくね。じゃあ代わりと言っては何だけど、私たちが勝ったら――」
────────
「皆さんこんにちは、6ix waterの泉野玲奈です!放課後に集まってもらってごめんね!」
「今日は私達タニンノソラニとライブ対決をするんだよ。あ、きらりだよ、よろしく」
センターの私と夢奏エルこときらりの2人でMCを。そういえば他ユニットとこういうことするのも初めてだ
「先攻は私達6ix waterです。楽しんでってね!」
一度緞帳が降りて体育館全体的に暗転する。その間に夢奏さんが舞台袖に捌けて、代わりに6ix waterが入る。ゆっくりスポットライトが点いて、いよいよ私たちの時間だ
軽快なギターの前奏が始まる。前は良くも悪くもただのお披露目だったから、肩の力は入らなかった。でも今日に限って緊張してる自分がいる
皆は経験あるかな?緊張しすぎると集中力が切れて視野が広がりまくって情報が一気に入ってくるの。今の私がそう
観客一人ひとりが何をやってるのかわかる。オタ芸してる子もいるし、合いの手を入れてくる子もいる。退屈そうにしてる子もいる
だめだ、集中できない。何より驚いたのは私と同じ状況のメンバーが6ix waterの半分くらいはいるということだ
それが意味するものはただ一つ。最低限のパフォーマンスしかできないまま、最高のパフォーマンスとは程遠いものを皆に見せてタニンノソラニの出番を迎えるということだ
「僕の心を君に届けたい♪」
焼津くんに心配されたのとは別の理由で納得のいくパフォーマンスが出来なかった。だから今届けたい心は、こんな諦念じゃない
『ありがとうございました!』
手を繋いでお辞儀。そんな諦めた状況でも笑顔でMCをしなきゃいけないよね
「次はタニンノソラニによるパフォーマンスです。どうぞ!」
暗転。6ix waterとタニンノソラニが入れ替わり私はボンちゃんを手に舞台袖から2人のライブを見守る
そうして始まったライブは、いつだったか同じように舞台袖で見たBURN-AGEのライブに引けを取らないほどの完成度だった
タニンノソラニは、まさに文字通り「他人の空似」で、一卵性双生児のようなルックスと息の合ったダンス、綺麗なハーモニーが特徴のSTAR☆BLUEから派生したユニットだ。壁の高さを改めて感じた
────────
「私達が勝ったら、この中の誰か…そう、なほちゃんか泉野先輩にSTAR☆BLUEの神ファイブの練習を、一週間体験してもらえるかな?」
『ええええええええええ!?』
何そのサプライズ、ぶっちゃけいらない
「実はね、泉野さん。今度神ファイブのドキュメント番組で、素人の女の子はどれだけ神ファイブに近付けるかっていうテレビの企画があるの。そしてその素人の子が選出される条件は1度スカウトを断ったことがあるってことなの」
その条件は確かに私達なら全員当てはまる……のか
「スカウトを断っただけでなくグループ内のユニットにライブ対決を挑み敗北した問題児を神ファイブ風に仕立て上げる。なるほど素晴らしい物語だね」
「この条件が呑めないなら、ライブ対決はナシで」
「――引き受けよう。なほ、玲奈、どうしようか」
「私行きます」
「玲奈先輩、大丈夫なんですか?」
「うん。ゴールがどれだけ高い壁か確認したい。それにそのテレビ番組が本当に放映されるなら、6ix waterの名前が知れ渡るまたとない機会だから」
「じゃあ決まりだね。私達が勝ったら泉野玲奈はSTAR☆BLUEに体験入籍する」
────────
『ありがとうございました!』
プレートを掲げてもらうまでもない
「くく、圧巻のステージだったね。さあ皆、良かったと思うグループのプレートを挙げてもらおうか」
「6ix waterなら青、タニンノソラニなら赤ッスよ」
やめて、虚しくなるだけだから
先生や生徒会役員が数をチェックする。無駄だよ。ほとんどの生徒が赤いプレートを掲げてるのだから
「825対170で、タニンノソラニの勝利ッス!!」
この瞬間、私のSTAR☆BLUE送りが決定した
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