lesson.10 それぞれが出来ること

「すみません、遅くなりました」

「やあセイラ、もう全員揃ってるよ」


、ね」


「あーあ、新曲は『あの人』の発案で先に作曲からってことでなほ張り切ってたんスけどねぇ。昨日なんか『神曲できた!』なんて夜中に電話してきたんスよ?」

「ちょっ、美玖ちゃん、バラさないでくださいっ」

「恥ずかしがることは無いさ。その張り切りはボクら全員が持っている。そうだろ?」

「私達は大敗を喫した。歌もダンスも荒削りすぎたのよ。そして、大きな勘違いをしていた」

「勘違い、ですか」

「経験を含め何もかも違うのに、『タニンノソラニをライバル視していた』ことよ」


「緊張故に集中力が途切れたら情報が一気に入ってくることがあるっス。ウチや玲奈先輩はその状態だったっス」

「ボクもだよ。……美玖、君は気付いたんだね」

「はい。玲奈先輩は諦めつつも次へ繋がる何かを探していたっス。恐らく負けた後のことっスね」

「くく、恐ろしい娘だよ玲奈は」

「『負けたらスタブルへ武者修行だから、そこで学べるものは全部持ち帰ろう』ってことですか?」

「なるほど、通りで玲奈は泣かなかったのか。泣いてる暇なんてないから」

「一週間ですか……長いです」

「たかが一週間さ。ボクらはボクらで備えよう。玲奈が帰ってきた時に笑って迎えられるよう」


「――神ファイブの何かを授かった玲奈に、ボクらが置いて行かれないように」


 ────────


「泉野玲奈です。今日から一週間、よろしくお願いします」

 都内某所、神ファイブ専用の収録スタジオを兼ねたトレーニングルーム。宿泊可能な部屋が神ファイブ全員分と、客室が6つあるからかなり広い


「妹の涙が世話になってるわね」

 姉妹揃って凛々しいお顔立ち。青みがかった黒髪のポニーテールが素敵です

「なんや、あっすーの妹の友達なん?」

 ベージュ色の編み込みロングストレートって、なんかギャルっぽいよね

「彌生さん、アイキン見てないの?明日香さんの妹とアイドルグループやってるのよ」

 ショートヘアとメガネの組み合わせって最強だと思うの

「そんなことより、Nice to meet you! 会いたかったよ!」

 鳶色の髪がとても艶やかなハーフが握手してきた


 今話をした順に敬称略で、氷室ひむろ明日香あすか岩村いわむら彌生やよい草壁くさかべりん木多村きたむらエレナ。偶然か否か、人気順に話しかけてくれた。因みに、このはさんは撮影の関係で少し遅れるそうだ

 私のことで雑談をしているだけなのになんというかオーラが違う。エレナさんは私に興味があるっぽいけど、蚊帳の外というか、モニター越しに雑談を聞いている気分だ


花咲はなさきこのは、到着〜♪遅くなってごめんね、玲奈ちゃん」

 来た。私達6ix waterの最終目標、花咲このは。彼女が入ってきただけで部屋の雰囲気が引き締まったのを肌で感じる

「明日香ちゃんの妹……涙ちゃんとアイドル活動してるんだよね?楽しそう!」

 涙先輩は神ファイブの間では有名人だね。明日香が妹自慢するタイプのシスコンなのか、アイキンのプロフを見たのか……どっちだ

「花咲、整列」

「はーい。玲奈ちゃん、また後でね」

 男性の号令に大人しく従うこのはさん。見覚えがある気がするけど何者だろう

「今日から一週間、泉野玲奈の神ファイブ体験と、それのドキュメント番組の密着取材が始まる。だが、普段と変わらないレッスンを心掛けるように」

『はい!』

「ああそうだ、泉野、自己紹介が遅れたな。俺は加古川かこがわ脱兎だっと。STAR☆BLUEのプロデューサーだ」

 そりゃ従わなきゃ駄目だ

「6ix waterの泉野玲奈です。一週間という短い期間ではありますが、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」

「ガッチガチに硬い挨拶をどうも。さて今日のレッスンだが、基礎体力の上限突破を目標に、コーチにメニューを組んでもらっている。コーチ、後はよろしくお願いします」

「へいへい、じゃあやってくぞー神ファイブども」

『よろしくお願いします!』

 ……ん?え、ちょっと待って、コーチってまさか

「シズネ先生!?」

「おー、泉野!今日からか!」

「れなちん、知り合いやったん?」

 れなちんってなんだ、れなちんって。れなぴょんならあるけどさ

「はい、私が通ってる学校の養護教諭です」

「詳しく言うとアタシは姫野里学園の非常勤養護教諭で泉野の主治医。それ以外の時はこうやってスタブル専属のコーチをしてるってわけさ」

「すごーい!一体何足の草鞋をはいてるのかな?」

「少なくとも三つ……いや、不知火コーチのことだからそれ以上か」

「ん?Hey coach!少し質問いいかしら?」

「時間押してるから一つだけな」

「玲奈ちゃんの主治医ってことは、なにかillnessを患ってるの?」

「どっちかというとdiseaseだ。原因はわからんが、とりあえず酸素ボンベがあれば動ける」

「Hmmm……じゃあ玲奈ちゃん、倒れない程度に頑張ろうね!」

「は、はい!」


 このはさんと明日香さん、彌生さんと凛さん、そして私とエレナさんでペアを組んで今日のレッスンをこなすことに。さっき加古川さんが言ってた通り基礎体力の上限突破が目標ということで、内容的には筋トレ各種に重きを置いているようだ

「とりあえずアタシが合図するまで腹筋だ。まずは花咲、草壁、泉野!相方は回数を数えとけよ。それじゃ、よーい……」

「始めッ!」


 私が中学に入る頃、アイドル文化が廃れたことがあった。焼津くんが加入する前のBURN-AGEが最後だったかな。そんな中鳴り物入りでデビューしたのがSTAR☆BLUE。厳しすぎるルールや音楽への真摯で情熱的な姿勢は、私にとってとても衝撃で、病気になる前の私にはファンにならない理由が一つもなかった

 その頃の私に、今の私はどう映るだろう。アイドルになって、憧れた場所にいる人と歪んだ関係ではあるけど筋トレしてるんだよ!?

 これを幸せと呼ばずして何と呼ぶって感じだよね。でも幸せを噛み締めるだけじゃダメだ、ちゃんと頑張らないと

 腹筋で上体を起こす度にエレナさんの顔が迫ってくる。ニヤけそうになるのを必死に堪える


 ……あの、デカすぎません?なほちゃんも大概だと思うけど、エレナさんその上を行くレベルでデカイですよ


 え、何がって?そりゃあ決まってるじゃないですか


 おっぱい

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