第89話

 残されるひばりとりおん……。


「りおん、変身のネタは……あれで」


 横目でりおんに意思を伝える。


「わかったひばり、あれだね」


 ステッキさん、月下美人を空に掲げるふたり。




『トリガー、オンっ……』


 こんな時に……いや、こんな時だからこそ「いつも通り」に……。


 ステッキさんも、月下美人も粛々と変身シークエンスを遂行する。




 誰もいなくなった屋上は、降り注ぐ太陽の光が照射され、少女達の存在を蒸発させ、いつもの寂しい日常を紡ぐ。




「表組、裏組の皆さん、活動限界の高軌道で迎撃してもらいます」


 あの「進路指導室」から全員に鏡花の指示が伝わる。


 進路指導室は、監理局の分室……。


 表と裏……。


 真逆の方向から、ダークエネルギーが迫る。


 表組にシフォン班。


 裏組にエリザベス班が配置される。




「うえぇ……人型がいる……」


 魔法少女のひとりが呻き、吐いた。


「監理局からの情報を伝えます……人型、キューブタイプ、ウェーブタイプ、その後ろに衛星型が観測されています……」


「人型、キューブタイプは不規則に動き回り厄介です……それらに足止めされない様に……あくまで本命は衛星型です。なんとか高軌道上で壊滅して下さい」


『わかりました』


 シフォンとエリザベスの声が緊迫する。


「不測の事態に、予備役の皆さんにも召集をかけています……ですから、決して無理はしないで下さい」


 物腰柔らかく、鏡花が言う。


 無理をする……。


 それは「死」と同義。


『私達で決着をつけます……』


 シフォンが懸念を祓い、エリザベスが魔法少女全員の意思を総括する。


「わかりました」


 鏡花が決意に応え、静かに言った。


 ふと、りおんは振り返る……。


 地球が……遠い。


 魔法で「どうにか」なっているとはいえ、こんなにも離れて還れるのだろうか。


 しかし、これが現実。


 あり得ない事があり得て、24人の少女が宇宙に舞う。


 魔法、不安、恐れ、そして……適当……。


 りおんの中でひしめくそれぞれの感情と折り合いをつけ、最も都合のいい「適当」な感情を魂から放出させ、りおんは戦う。


 それがりおんの「本質」である。


 地球を眺めながら、りおんは淑やかに自身の魂に微笑んだ。




「目標が迎撃ラインに達しました」


 鏡花が告げる。


『攻撃開始っ……!』


 シフォンとエリザベスが、戦端を開く。


「欧州カルテットの皆さんは、衛星型をお願いします。人型、キューブ、ウェーブはできるだけ私達で壊滅します」


 シフォンがリンスロットに告げる。


 ひとつしか歳が違わないのに、それ以上の「差」を感じさせる大人びた趣と声……エリザベスとの明確な差違。


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