第88話

 アンテロッティ、ローグ、コステリッツが続く。


 自然とシフォン班の魔法少女達が、欧州カルテットの後を追う。


 何人かは、成長した命が棲まう鏡花の腹部に触れ、胎動の温もりを感じ「女」を共有し、安堵の表情で教室を出てゆく……。




「んじゃ、私達も行こうかね」


 キャサリンが飛び出す。


 まじないの様に鏡花に「触れる」魔法少女達。


「行って来ます……」


 ひばりの手が、命の鼓動から離れ「お約束」な立場でりおんはひとり、鏡花と対峙する。




「頼みますよ、ポーターさん……」


「うむ、わかっている……」


 複雑な鏡花の「想い」を読み解き、簡素に応えるステッキさん。




「では鏡花先生……」


「はい、行ってらっしゃい」


 微笑む鏡花……その表情に取り繕いはない。


 りおんの手が伸びる。


 が、絶ち切る様にりおんは全身を支配し、無意識な行動を制した。


 なにも仰々しなくてもいい。


 戻っていくらでも触る事ができる。


 りおんの「適当」が「恐れ」を凌駕し、まじない行為を抑制した。


 そう……


 わたしは、還る……。


 この世界に。


 何事もなかった様に、りおんは教室を後にする。


 鏡花は黙ってりおんの背中を見送った。


「必ずみんな無事に還ってきて……」


 我が子をさすり、鏡花はなにもできないもどかしさを誤魔化しながら、全員の帰還を祈る。鏡花の中の忘れ得ぬ人物と重ね合わせながら「あれが、りおんさんよ……」と自身の分身である「少女」に言い聞かせ……。




 かの、広くない屋上では、シフォンを先頭に空へ旅立つ魔法少女達。


 彼女達の魔方陣……そして、姿が消える。


「光学迷彩か」


 サイレントモードを理解したりおん。


「くれぐれも、しくじらない様に……テキサスの田舎娘さん……」


 浮いたリンスロットが、キャサリンを見、言う。


「こまっしゃくれこそ、ヘマすんなよ」


「ふっ……」


 柔らかい笑みを残し、リンスロット率いる欧州カルテットが「消える」。


「必ず、還ってきてね」


「わかってるよ」


 気恥ずかしさを覆い隠す「文脈」の真意は、きっとこうなのだろうと、空を見上げるキャサリンの佇まいから、りおんは読み解き、そのふたりの関係性を心で微笑んだ。


 それじゃあ、私達も行きますよ。


 本当に3年生……と「疑わしい」低身長に幼い風情のエリザベスが宙に浮き、上昇しながら姿を消すと、彼女に続いて次々と魔法少女となり、旅立つクラスメイト達……。


「ひばり、クラッシャーりおん、先に行くぜ」


 キャサリンが気を利かせて言い、隣に控える同国の物静かでお嬢様風なドロシーと空に消える。

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