*第1部・完……〜そして〜……。

第87話

「皆さん、ダークエネルギーの接近が二方向から観測されました……」


 鏡花が、自らの授業の冒頭に感情を控え、言った。


 いつも、ダークエネルギーの襲来が「ひとつ」とは限らない。


 二方向……聞きなれないその言葉に、少女達の瞳は研ぎ澄まされ、鏡花を見つめる。




「監理局から全員に出撃要請がありました」


 重みを増す鏡花の声色。


 冬服から夏服へ変わり、アンテロッティが「宣言通り」制服をアレンジし、りおんも何処かふっ切れた様に他の魔法少女同様に「適当」に「お仕事」をこなし、そろそろ夏休みに季節が差し掛かる夏の入口……。


 ここは、亜熱帯地帯なの……りおんとひばり以外の少女達は、想像とかけ離れた日本の暑さに早くもへばる。


「じめじめ、べたべたと気持ち悪いですわ」


 尖るリンスロット。


「ぐずぐず天気のロンドンこまっしゃくれお嬢様は、御注文が多いですねぇ……」


 キャサリンが嫌味を飛ばす。


「いえいえ皆さん、ここからが本番ですよ」


『あうぅぅぅ〜……』


 ひばりがはにかみ言うと、クラスが鎮む……。




「2年生シフォンさんと、3年生エリザベスさんの班に分かれて出撃してもらいます」


 鏡花が、有無を言わさずカナダ出身のシフォン班のメンバー11名と、ニュージーランド出身のエリザベス班の11名のメンバーを告げる。


 シフォン班に欧州カルテット。


 エリザベス班にりおん、ひばり、キャサリン。


「複数方向からの襲来は、皆さん初めてでしょうから、シフォンさん、エリザベスさんの指示に従って下さい……監理局も最大限のバックアップをします」


「それと……屋上からの出撃の際は、サイレントモードを起動して下さい」


 緊迫感を増した鏡花の表情と言葉に、少女達の躰は「引き締まり」、瞳は更に鏡花を凝視する。


 少女達の反応は、素直なものだ。ダークエネルギー壊滅に「手練れている」とはいえ、今回に勝手が違う。


 ひとり、もしくは3、4名で迎撃していた相手に、今回は現役魔法少女の全員出撃……最悪の場合は、予備役、退役組の投入もあり得る監理局のバックアップ体制。


 事の深刻さは「幼い」彼女達にも、鏡花を「透して」理解し、ある種の覚悟を決める。


 死という「現実」と「概念」が、少女達に貼りつく。




「誰も欠ける事なく……無事に還って来て下さい」


 自らはなにもできないもどかしさを含んだ鏡花の想いが、教室に漂う……。




「皆さん、行きますわよ……」


 リンスロットが斬り込み、教室を出てゆく。

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