第73話

 今も少女にあるまじき「下品」な仕草を続けているこの年齢でモデル体型のアンテロッティでさえ、普通のりおんにとっては自分よりも遥かに制服を遊び、言葉と仕草とは裏腹に完璧に着こなしているとも思える……。


「これ、冬服ってヤツだろ……夏服になったら思い切りスカートずり上げてやるっ……」


 大袈裟に疑問を呈し、きたるべき季節を想い、アンテロッティは意気込む。


「なぁんて、小粋な会話を楽しんでいるけど、リンスロットはあれはあれでりおんを気にしている訳よ……それだけはわかって欲しい……」


「わたしはリンスやキャサリンの事、嫌いじゃないよアンテロッティ……こんな事になったのは自分のせいだし、ましてさっきの出撃でリンス達を見ていたら、わたしなんて……」


「そう落ち込まないで、りおん……私達は日本で言う小学生時代からこのメンバーで組んでいたから、他の人達が入り込む隙がないのかもしれないわね」


 碧い髪をなびかせ、ローグがりおんを気遣う……。


「鏡花が、欧州カルテットって言ってだでしょ……現状、ヨーロッパの魔法少女は私達しかいないから……」


「カルテットぉ……つまり……」


「そう……リンスロット、アンテロッティ、ローグ、そして私だけ……こんなに少ないのは初めて事なんだよね……」


 独特なコステリッツの物言いが、欧州の切迫した「事情」を滲ませる……。


「北欧、東欧、全部ひっくるめて私達だけって……かつては各国に最低ひとりは魔法少女がいたってのに、寂しくなったもんだねぇ〜」


 瞼を閉じ、両手を広げてアンテロッティが嘆く。


「そうなんだ……わたし、その、ヨーロッパの事情とかよくわからなくて……ごめんなさい」


 縮こまるりおん……。


「いやいや、落ち込まなくていいよりおん……あぁは言ったけど、大人達が過剰に気にしているだけだから……魔法少女の増減なんて珍しくもないのに」


「でもアンティ、ロナール家が過剰な反応の中心だから……」


「それで、リンスロットや私達に重圧が……」


「それがくだらないってんだよっ、ローグ、コステ……」


 ローグとコステリッツの懸念にアンテロッティは声を荒げたが、りおんを「置き去り」にすまいと、これまで散々繰り返してきた議論を強制終了し、息を吐き、自分を取り戻し、そして言う……。


「関係ないよ……大人達の勝手な事情なんて……文句があるなら、お前らがダークエネルギーを壊滅してみろってんだよ……どうせ何もできやしないのに……そうだろ、ローグ、コステ、りおん……」


 生ぬるい空気の気流にアンテロッティの声が混ざり、射し込む夕日に彼女の蒼い眼、ローグの髪、コステリッツの無垢な瞳が煌めき、妖艶さを纏い、りおんに迫る……。


 生まれも国籍も異なる「個」……しかし、同じ少女が醸し出す「悲哀」な気を嗅ぎ、見つめられたりおんの感覚器官は「快」の方向に振れる……。

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