第50話

 最初は、テーマに沿った言い争いが展開されるのだが、互いに気持ちが加熱されると容姿や性格、国の習慣、文化などの非難合戦に論点が変容してゆく。


 それぞれのお国柄らしく、思った事をフィルターに通さず、直線的な物言いのキャサリン……。


 シニカルという薄皮を言葉にくるみ「ひと手間」加えるリンスロットの表現……。


 年端もいかない少女達による「代理戦争」……。




「んでひばり様、どっちがどっちなの……」


「キャサリンさんがソース、リンスロットさんは醤油だと思うでしょ……」


「まぁ、対立の図式から言えば……」


「でもね、リンスロットさんったら、塩コショーが1番だって……」


「あぁ、なる程……」


 腑に落ちた様にりおんは頷き、リンスロットの性格を理解した……。


「醤油……と言わないところが、リンスロットさんらしいわね……」


 ひばりが補足し、性格の真意を深めた。




 睨み、対峙し続けるふたり……。


 膠着した状態に、タイミング良くチャイムが鳴る。


「鏡花がもう来たよっ……」


 見張り役が言うと「観衆達」は素早く自分の席に戻り、あどけない少女を演じ始める……。


 公の場においても「先生」と呼ばないところが、このクラスの性質の一部を物語る……。




「ちっ……鏡花はいつも早いんだよなぁ……」


 熱した空気と雰囲気が冷えてゆくのを惜しむキャサリンが言い、唇の端を噛んだ。


「決着はいつもの時間、いつもの場所でよろしいですわね……」


 慣れた仕草と言葉で第1幕の終了を宣言するリンスロット……。


「いいだろう……」


 キャサリンが、すかさず応じた……。




「ひばり様……決着って……」


「まぁまぁ、そのうちわかりますよ……」


 面倒な事にならなければと、りおんはひばりに問うが、曖昧な言葉と麗しい笑顔でかわされる。


 既に、かのふたりは何事もなかったかの様に「正しい」姿勢で鏡花を待つ……。




 空気の流れが止まる……。


 鏡花が教室に入る……止まっていた空気がまた流れ始める……。


 出席を確認する前、鏡花は含みを持たせた視線をリンスロットとキャサリンに送り、仄かに笑う……女と少女の駆け引きに、ふたりの背筋は否応なく寒気を帯び、それを悟られまいと笑顔を鏡花に返す。






「それでは今日はここまで……」


 授業終了のチャイムと同時に、初老の男性教師が名残惜しそうに言い、教室を出てゆく……。


 静寂……教師が去って1分が経過した……。




「表へ出ろっ、こまっしゃくれロンドン女っ……!」


「望むところですわっ、テキサスの田舎娘っ……」


 待ってましたとばかりに歓声、奇声を上げるクラスメイト達……。

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