第46話

「終わりだぁ〜……わたしの人生、もう終わりだぁ〜〜っ……!」


 りおんは床に崩れ、自らの運命を呪った……。


 ざわつく教室……。


「その、何の妄想かはわかりませんが、春日とか裏番十人衆なんて人達はここにはいませんし、蘭塾にも連れて行きませんから安心して……」


「さぁ、立って下さい……」


 りおんに細い腕を差し伸べるひばり……。


「嫌だ……嫌だよっ……」


 ひばりの優しさに尚も抵抗し、ごねる。




「その振る舞い……見苦しい……」


 パイプオルガンを主とした荘厳な音楽を背景に、静かにかつ、高貴にひばりは言い、とうとうりおんを蔑み、見限った……。


 同時にひばりは、縁に刺繍が施された白い楕円形のテーブルクロスの様な物を、りおんに向かって舞い滑らせた……。


 崩れるりおんに、ひばりの「指示」が届く。


 お人形の顔、筆記体でひばりの頭文字の「H」が印されたそこに……




「りおん追放……」


 ひばりの最終宣告……。




「あああああぁぁぁ〜〜〜〜っ……!」


 絶望するりおん……。




「あらあら、私ったらつい調子に乗って……ごめんなさい、りおんさん……」


「えっ……?」


「ふふふっ……ひばりという名前もあって、ついあのネタでからかってしまったわ……」


 ひばりは口に手をあて悪戯っぽくはにかむと、りおんの身を起こし机を並べ直し、椅子に座らせ、自身も何事もなかった様に座り、教室を見回してクラスメイト達の「ざわつき」を鎮めた……。




「な、なぁんだぁネタかぁ〜……まさかあのひばり様が繰り出されるなんて思ってもみなかったよぅ」


「ひばり……で食いついてくる人って今までいなくて寂しかったのよ……このクラスだと尚更に……」


 悲しげに視線を落とすひばり……。


「ひばり様……」


「でも、りおんさんは違った……ちょっとマイナーなネタをちゃんと知っていた……そして私にぶつけた……」


「いやぁ、わたしも賭けだったよ……」


「りおんさんが来てくれて、私の前に明るい世界が広がった……同じ世界を共有する友を得た……私はそれが凄く嬉しいの……」


 落とした視線を「未来」に向け、頬を赤らめたひばりは悦びの感情を紡いだ……。


 古風な容姿、丁寧な言葉遣い、厳格かつ物静かな趣を「強要」する家業……。


 その「既定路線」を外れた趣味を心の内に閉じ込め、相応しい「役割」をこれまで演じていたひばりの前に現れたりおん……。




 りおんは、ひばりに福音をもたらした……。


 心の内に封印していた「想い」を解き放てる友を得た……。


 たったひとつ交わしたネタの「想い」で、ひばりとりおんは打ち解けた……。

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