第29話

 語尾を可愛らしく仕立て、ふんわりと自身の優位さを説くりおん。


「うぐっ……」


「電卓出して……」


 身を捩って「出現」させた電卓を掴み取り、軽やかに数字を打ち込むりおん……。


「え〜っと、基本時給はこんな感じで……」


「ええっ、この額は……もうちょっと勉強して下さいよダンナぁ……これじゃぁこちとら商売になりませんぜ……」


「しょうがないなぁ……じゃあこれで……」


 再び電卓を叩き「勉強」した時給額を提示するりおん。


「ん〜ん……まぁ、これならいいだろう」


 りおんの条件が、なんとか許容範囲内に落ち着いた額を確認したステッキさんは渋々ながら了承した。


 渋々……実はステッキさんの演技であり、許容範囲などと繕い「嘘」隠蔽していた。


 いわゆる「バイト代」を請求している魔法少女は、りおんだけではない……そのほとんどが、ダ一クエネルギ一を倒す対価としてお金を受け取っている。


 基本時給額は個人で差があるものの「非現実的」な労働、命を脅かされる危機、秘匿義務等の肉体的、精神的負担を考慮すれば、彼女達の要求は至極全うな権利である事は明らかだ……。


 しかしながら、ステッキさんの言う「名誉職」を選択し、魔法少女としての誇りを重んじる少女らも少数ながら存在はしている。


 かつては名誉職の比率が高かったが、時代、世代の遍歴と共に魔法少女の気質も変化して、現在の比率に至っている……。


 魔法監理局の立場からすれば、名誉職の比率を増やしたいというのが本音ではある……給与制は否定しないが、監理局にも予算があり拠出は最小限に抑えたい……故に、先のステッキさんの名誉職発言に繋がる。


 一応、情に訴え「名誉職」に誘導する……しかし今となっては「形骸化」した作業ではある。




「それと……夜8時から朝7時までは時給2割増しだよっ……」


「ちゃっかりしてるなぁ……」


 呆れ気味にステッキさんが言う。


「いやいや、わたしなんかまだまだ緩い方だよっ。今時の女の子は、もっとしっかりしてるからね」


「しかも、この先どうなるかわからないし……」


 圧をかけるりおん……。


「わ、わかった……了承しよう」


「むふふ、ステッキさん甘いね……」


「んっ……?」


「今回は、わたしの裸見物料プラス、デブリ除去手数料が加算されまぁ〜す」


 りおんが悪戯っぽく笑い「特別手当」の金額をリズミカルに打つ……。


「むぅ……」


 提示された金額に詰まるステッキさん。


「りおん……その……」


「この金額、目一杯勉強した額だからねっ……」


 先手をりおんが打つ……。

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