第28話

「う〜んなんか含みのある言い方……でも、わたしだって卵焼きとかカレーとか、やっぱりね、そういう母親の味っていうのに憧れはあるよ……」


「お父さんが嫌いって訳じゃないよ……色々やりたい事を諦めて、生まれたばかりのわたしをここまで育ててくれたんだから」


「りおん……」


「顔も知らない……写真一枚残ってないんだよ。母親の話になると、歯切れが悪くなって病気で死んだの一点張り……写真嫌いだったなんて誤魔化して、御墓参りにも行くけれど、ここには眠っていないなぁって……成人したらホントの事を話してくれるかなって、だから今はこのままでいいかなって……」


「だから……殴るという事か……」


「そうだね……生きていたら正直嬉しいけど、やっぱり殴っちゃうかな……まさかとは思うけど、ステッキさんが母親の生死や居所を知ってるとか、そういうオチじゃないよね……」


「りおん……そんな都合の良い展開がある訳がないだろう。私は何も知らんのだよ……」


「だよねぇ……」


 りおんの表情に涙はない……ある種の覚悟と確信が、瞳の潤いを支配し、無意識の領域で唇を動かして、蒼い惑星と広大な宇宙の海に言葉を漂わす。




「さあっ、鬱展開にはまりそうな話はここまでっと……」


「んで、ステッキさん……被ってないよね……」


「何をだ……りおん」


「いやぁ、なんかキャラというか、設定がねぇ」


「な、何も心配するな……」


「う〜ん、なんか英霊達で聖杯戦争を繰り広げるあのアニメの、スピンオフ魔法少女ものに微妙に似ている様な……もしかして、ステッキさんのその声も関係しているのかな……」


「りお〜ん、自虐的になる必要はない……魔法少女ものの設定など、どれも似たり寄ったりだ……異世界、勇者、ハーレムものよりはまだましだ。我々は隙間の隙間を突いてゆく。問題はない……それと、私の声はただ似ているというだけだ……他意はない」


「まぁ、ステッキさんがそこまで言うなら、もういいけど」


「うむ……」


 冷や汗を拭い、ステッキさんは安堵した。




「あっそうだ……願いが叶うなら、手近なものでいいかな……」


「いいだろう……」


「ぐへへ……」


 怪しく笑うりおん……。


「バイト代を下さい……」


「何を言っている……りおん」


「いやぁ、現実的な話だよステッキさん。ある意味お金を貰わないと割に合わないよ……下手をすれば死んじゃうんだしね……」


「りおん……魔法少女はいわば、名誉職なのだ」


「いや、名誉とかそういうのはいらないから……それに中学生になったばかりの幼気な未成年少女を、深夜労働させた挙げ句、危険な作業を強要する。これって明らかにコンプライアンス違反だよねっ」

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