第19話

 もう、空を自分の「庭」としていたりおんは、当り前の様に上昇を始め、その質はエレベーターのスムーズさを凌駕していた……。


「凄いな……」


 りおんに悟られぬ様、静かに言う。


 雲を突き抜け、滞空するりおんに、ステッキさんはいよいよ魔法少女たる醍醐味を説く……。


「うむ、このあたりでいいだろう……」


「りおん……変身だ!」


 ニヒルで低い声が、冷えた空気と融合した……。


「何か呪文を唱えろ、りおん……」


「呪文……?」


「そうだ……得意な適当な呪文でもいい。私が変身シークエンスのサポートをしているから、心配するな」


「うぅ〜ん、何にしようかなぁ……」


 腕を組み、思案するりおん……。




「よしっ……あれでいこう……」


「それとステッキさん、在庫は見つかった?」


「んっ?……あぁ、なんとか見繕ったから大丈夫だ」


「ふ〜ん」


「じゃあ、変身するよ……」


 ステッキさんを天に高々と突き上げたりおん。




「星の力を秘めし鍵よ……真の姿を我の前に示せ……契約の下、りおんが命じる……レリィー……」


「ち、ちょっと待ったりおん……さすがにその呪文は如何なものかと……」


「えっ、そうかな……じゃあ……」




「ムーンクリスタルパワー……」


「おいおい、おいっ……りおんさんっ、わかっているよね……」


「ん〜……じゃあわたしに向かって、ボクと契約して魔法少女になってよ……って可愛く言ってみ」


「それも却下だ……大御所魔法少女様達相手に、我々が勝てる訳がないだろう……下手をすれば、社会的に抹殺されるぞ……」


「しょうがないなぁ……」


 頬が少し膨らんだ……。


「ちょっと言ってみたかっただけだよ……魔法少女に憧れる女の子の夢を代弁したの……」


「そ、そうか……それならいいが……」


「じゃあ……本当にいくよ……」


 気を取り直し、りおんは更に天高くステッキさんを掲げた……。




「レッツ……コンバインっ……!」


 重低音が波紋の様に周囲に拡散し、変身シークエンスモードが起動する。


「あ〜あ、やっちゃったよ……」


 心が脱力するステッキさん……。


「もう、それでいいです……」


 悟り、変身シークエンスを進める……。


 お約束の通り、勇壮な音楽が奏でられ、またもりおんの全身が輝く……。


 ゆっくりと回転を始め、服が消失してゆき、りおんの裸体が顕になる……裸体の描写は、健全と淫らの狭間に存在する「奇跡的」な領域内に留まっており、青少年健全育成条例を逸脱するものではない。


 その筈である……。


 いや、そうであって欲しい……。


 変身は続く……。

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