第18話

 すうっ……。


 左右にブレながらも、ゆっくりと上昇してゆくりおん……更に感覚を研ぎ澄ませ、イメージを精錬する……。


 すぃーっ……。


 速度が上がり、ブレもなく安定した姿勢になり、エレベーターの様なスムーズな上昇感覚にりおんの躰は「快」という衣に包まれ、意識が火照っているのが、繋がっているステッキさんにも伝わる……。


「わぁ……」


 700メートル程上昇した頃、りおんは「地上」を見下ろした……。


 家やビルから放出される営みの輝き……車のライトが光の筋となって夜の世界を構築している……。


 見下げる対象の高層ビル達が、眼下にかしこまって佇む……。


「綺麗だね……」


「そうだな……まぁ、初めて飛んだ魔法少女は、異口同音にそう言うがな……」


「もう……」


 ステッキさんの素っ気ない返しが不満なりおん。


「怒ったか……」


「いいよ……別に……」


 ステッキさんが、りおんに素っ気なくしているのには理由がある……こんなにも簡単に空を飛び、楽しみ、慣れたりおんを見て彼は胸の内で感嘆した。しかし、あからさまに感情を表に出すのが少し悔しかったのだ。


 一般的事例として、魔法少女の初飛行は心許ないものに終始する……怖さ、動揺、叫び……「足場」を失うと人間達はたちまち弱くなるのだ……それが証拠に、ごく一部の魔法少女は、飛行技術を習得するのに一カ月を費やす事例も存在する。


 空を飛ぶ……非現実的な行為……人間の憧れ。


 魔法少女でさえ、通常は飛行訓練を経てから実戦を迎える……。


 ポーターが浮遊、飛行、姿勢制御魔法をステッキの姿を介して魔法少女に供給する……そうして彼女達とポーターは信頼関係を築き、飛行魔法を体得してゆく……。


 しかし、りおんはどうだろう……始めこそは不安定な飛行だったが、今ではあたかも生まれた時から備わっていたかの様に「普通」に飛行し、上昇し、スキルの高い水平飛行までも身につけている……。


 さっきから夢中で躰を回し、宙返りを試みたりするなど、地上とは異なる世界で自由を謳歌するりおん。


 無論、魔法供給は行なっている……しかし、それはごく微量に過ぎない……。


 だから……悔しかったのだ。


 りおんが悪い訳ではない……ポーターとしての自分にあまり頼らずに、自由に飛び回っている彼女の魔法少女としての「適性」と「才能」に驚いた故の気持ちも含まれてはいる……。


 いわゆる「適当」なりおんの性質に「懐かしい」風景がステッキさんの魂の片隅で映し出され、疼く……。




「りおん、あの雲を突き抜けるぞ」


 悶々とした想いを吹っ切るかの様に言い、りおんを促す。


「あっ……うん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る