第17話

『登録完了……』


『認識番号……11777番……』


『魔法少女……りおん』


『おめでとう……そして……』




『おかえりなさい……』


 感情を帯びた声で女性アナウンスが祝福し、りおんの発光現象が収束してゆくのに合わせ、部屋の灯りが通常に戻ってゆく……。




「りおん……」


「ステッキさん……わたし、魔法少女になっちゃったよ……」


「そうだな。りおん……その……」


「大丈夫だよステッキさん……ちょっと感傷的になってただけだから。それに、わたしが自分で決めた事だし……ステッキさんのせいでも何でもないよ」


「そ、それならいいのだが……」


「なっ、なんか湿っぽくて嫌だなぁ……とにかく、これからもよろしくね……」


 しおらしくりおんはステッキさんに告げ、彼は黙って頷いた……。




「ではりおん……敵を倒しにいくぞ……」


 危機迫った声色での仕切り直し……。


「すまないが着替えてくれ……部屋着では何だからな……」


「わかった……」


 クローゼットへ歩を進めるりおん……。


「見ないでね……」


「勿論さ……私は紳士だからね……」


 と言いつつ、りおんを凝視する。


 りおんは構わずに部屋着を脱ぎ、今時の女の子にしてはバリエーションが豊富ではない洋服達を眺め、しばらく下着姿で立ち尽くす……。




「ボルトテクスチャ……装着」


「違ぁうっ……内輪もめメインとか、接触禁止の女王でもリミッターでもないからねっ……」


 すかさずステッキさんがツッコむ……。


「うん、ステッキさんはそうでなくちゃね……」


 カジュアルな服装に着替えたりおんが、笑顔で言う。


「飛ぶぞ……りおん……」


 ステッキさんは窓辺に移動する……どうやらバルコニーから飛び立つつもりらしい。


 窓を開け、バルコニーに出たふたり……。


「私を持て、りおん……」


 左手でステッキさんを持ったりおん……本来、右利きのりおんだが「潜在的」な利き腕は左利きなのかと伺わせる行為……。


「飛行モードシークエンス開始及び、戦闘態勢へ移行……」


 ステッキさんが簡素な術式を唱えると、彼の「身長」が伸び、佇まいにも若干の精悍さが加えられた。


「怖くはないか……」


「う、うん……」


 手摺りによじ登ったりおんの答えと手が、震えていた……。


「行くぞ……」


 威勢のいいかけ声とステッキさんの誘導で、身を前方へ投げ出すりおん……しかし、眼を閉じてしまう……「飛べない」人間の当然な反応。




 ふわり……。


 空気の薄い膜に、ちょこんと乗っかっている感触。


「うわぁ……」


 眼を開き、感嘆するりおん……。


「浮いてる……浮いてるよステッキさん!」


「そうだりおん……よし、空を上昇する自分をイメージしろ」


「上昇……上昇……」


 まだ浮いているだけのりおんは、星空を見上げながら空を飛び、星達と踊る自分を想像しながら呟き続けた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る