第15話

 再びステッキさんからタブレットが「出現」、融合した新形態の彼の画面に、魔法遺伝子覚醒承認メッセージが表示された……。


「タップしろ、りおん」


「うん……」


 決意の指先が、画面に触れる……。




『魔法遺伝子覚醒承認シークエンスを開始します』



 画面が数種類のパラメータ表示に切り替わると同時に、女性のアナウンスがりおんを少女から魔法少女へと導いてゆく……。


『魔法監理局ホストサーバーにログイン……ポーター登録コード及びシンセティックパスワード入力……承認……』


 この間にも、画面のパラメータは変化し、デジタルカウンターがランダムにカウントしたり、円グラフやバーグラフが上下に踊る……ただの綺麗なグラフィカルイルミネーションなら、いつまでも眺めていたい……りおんはそんな眼でこの非現実的な光景を黙って受け入れる……。




『ポーター宣誓……』


「魔法遺伝子を保有する少女、りおんのポーターである私は、いつ如何なる時も彼女をサポートし、護り、平穏なる世界の為にこの命を捧げる事もいとわないとここに誓う……」




『ポーター宣誓……承認……』


 固い決意の込められた、ステッキさんの力強い宣誓。


『魔法遺伝子覚醒を開始しますか……』


 アナウンスが告げ、ディスプレイが「はい」と「いいえ」の二択画面に変わる……。


「りおん……決断の時だ……」


「うん……」


 不思議とりおんに迷いはなかった……ステッキさんも驚く程にすんなりと右手が画面に伸びてゆき、りおんの本能が集約された指先が「はい」を選択し、タップする……。


『両手でしっかりポーターを握って下さい』


 りおんは従い、ステッキさんを握る。




『脈拍、心拍数……正常値……脳波……安定値』


 握った部分が発光し、りおんの手から全てが明らかにされ、計測された数値が画面に示される。


『体内スキャン完了……異常なし……』


『魔法遺伝子覚醒促進剤……投与開始……』


 発光部が別の色調に変化し、輝きを増すとともに、部屋の灯りは徐々に絞られ、消えてゆく……。


 促進剤といっても、液体でも錠剤でもない。痛さも痒さも感じない……全ては握った手を介して粛々と行われ「魔法」というくくりで納得しろ。そうステッキさんなら言うだろうと、促進剤投与開始から瞼を閉じていたりおんは意識の中で笑う……。


『促進剤投与に伴う拒否反応……なし』


『促進剤浸透率……10、15、20……』


 こうしている間も、ステッキさんは一言も発しない。意識さえ、ここに留めているのかもわからない……それがりおんには不安でもあり、寂しくもあった……。


『浸透率30、40、50……』


 ほわっ……。


 手のひらから、仄かな温もりが全身へと広がる。


『浸透率……90、95……100……』


『魔法遺伝子覚醒促進剤投与完了……遺伝子保有者の生体、意識レベルのダメージ……異常なし……』


 これで終わったのか……と、力を緩めたりおん。


『魔法遺伝子覚醒率……計測開始……』


「あわわ……」


 アナウンスに少し驚いたりおんは、かしこまって再び手に力を加える。

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