第12話

 サンプル動画3番


 いつか訪れる未来のりおん……。




 猥雑、私欲、混沌、冷酷、恩情……人々が醸し出す香り、念が混じり合う夜の繁華街……。


 これまで、その世界に触れる事のなかった女が、行き交う人の中に紛れ……彷徨う……。


 偽りで彩られた世界を浄化する様に「降臨」するゲリラ豪雨……。


 ゆらゆらと揺れながら、人通りが途絶えた道を女は歩く……。




「わたしは、りおん……何処にでもいる普通の家庭で、普通の生活を営む、普通の主婦で、普通の女……」


「ごく普通の家庭に生まれ、ささやかな恋に胸焦がし、数少ない恋愛を経て結婚……息子と娘を授かって、小さいながらも家を建て、家族4人でいつまでも幸せが続くと信じていた賑やかで慎ましいわたしの家庭……」


「それが、いつから歯車が狂い始めたのか……夫は仕事に、子供達はそれぞれの世界に没頭し、家族の絆は徐々に失われていった……わたしは掃除、洗濯、食事の支度そして、苦しい家計の足しにと始めたパートに追われながらも幸せの城を守ろうと懸命に躰を心を尽くした……けれど、幸せの城は少しずつ崩れてゆく……」


「綻びをわたしは必死で埋めようとして、全てを家族に捧げた……パートのシフトを増やし、家事もおろそかにせず愛情を注いだ……」




「それが、わたしの身勝手で自己満足な振る舞いに映ったのか、仕事で遅くなる……食事はいらない……先に寝てろ……いつの頃からか、夫はわたしを受け入れなくなった……」


「部活で忙しい……バイト始めたから……息子と娘も次第にわたしの愛情を拒み、わたしの家庭は各々の私欲によって分解された……」


「深夜に帰宅する夫が、帰ってこない日がぽつぽつと出始めた時、わたしは確信した……他に女がいる事を……でも、ぼろぼろの城を守る為、知らぬふりを貫いた……」


「友達と食べた……ダイエットしてるからいらない……そう言って、自室に籠もる子供達……わたしの配慮を利用した夫の暴走……」


「ラップに覆われ、冷えたまま棄てられる渾身の料理……報われる事のない……愛……」




「ひとつの家族の崩壊……」


「もう限界だった……とある夜、わたしはふらりと家を出た……わたしが家にいなくても、あの人達はきっと気にも留めないでしょうね……」


「わたしの滑稽なひとり芝居……観客など、始めからいなかったのだ……」


「それなら……わたしはわたしの、わたしだけの幸せを追求する……」


「さようなら……砂上の楼閣……」


「さようなら……偽りの幸せ……」

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