第11話
「どうするの……カネを受け取るの、受け取らないの……何処のどのつてで私に辿り着いたのかは知らないけれど、早く決めないとそのカネが消えてしまうわよ……」
「痛えぇ……痛えぇよぅ……」
「あら、激痛でそれどころじゃないかしら……隣の女はもう我を忘れて使い物にならないようね……」
「桃迦……そろそろ行こうぜ……」
豹の言葉に、桃迦は少し落胆した瞳でふたりを見下ろし自身の長い髪をすいた……。
「もう少し愉しんでいたかったけれど、仕方ないわね……カネはあげるわ、好きに使いなさい……」
「でもね、こうなった原因はお前達ふたりにあるのよ。自堕落生活のツケが廻ってきた……ただ流されるままに時間を無駄にし、平気で家庭ゴミを分別もせずにコンビニのゴミ箱に押し込み、歩くのが面倒だからと身障者優先駐車場に下品な車を長時間駐車して迷惑をかける……猛暑の車内にふたりの娘を置き去りにして賭け事にのめり込み、借金を重ねる……負けた腹いせに他人の車を煽り、凄む。そんなしょうもない人生……」
「うるせぇ……痛えぇ……」
「愛情を放棄した、毎日の半額弁当の食事……いたわりのない所構わずの喫煙……ただ、感情の赴くままの無責任な労働……そして、快感に入り浸る雄と雌の行為……」
「お前達の全てが半端、無計画、無慈悲、戯言の垂れ流しの人生……愚かな魂……」
「くううぅ……テメェ……残虐、残虐だぁ……」
「ふふっ、本望だわ……ついでだから言ってあげる。娘達の事は心配しなくていいわ……お前達よりずっと価値があり、そして需要がある。私は彼女達から実る果実を好きに味わい、飽きたら棄てる……」
「…………」
「お前達はそのカネで借金を返し、偽りの人生を続けるがいい……だが覚えておきなさい、私が手を差し伸べるのは今日が最後……また私に縋ろうと考えているならやめる事ね……もう手首だけじゃ済まなくなるわよ……」
「うぅぅぅぅぅぅ……」
「もう頃合いね……」
「死して……生きなさい……」
「あぁそれから……お互いに秘密にしているそれぞれの愛人達によろしく……」
満月が瞬間、狂おしく発光して桃迦を、艶やかな長いプラチナ色の髪を絶望的に照らす……その無垢で幼げな瞳は、快楽とまさに残虐な潤いで満たされ、彩られていた……。
突然、強く吹きつけた風……その跡に桃迦達の姿はなかった……。
ふたりの「愛人」に対する詰り合いはしばらく続いた……。
その後のふたりの消息を知る者はいない……。
人の魂が深く漆黒の闇に堕ちた時、桃迦は現れるだろう……。
少女の可憐さを纏い……真紅の瞳を輝かせ……残虐をもたらす為に……。
「痛い……心が痛い……」
胸を手で押さえ、呟いたりおん……。
「ステッキさん……」
なんてものを観せてくれたの……そんな思いを視線に乗せ、送る……。
「ぷ、ぷいぷいっ……」
「はぁ……」
胸に詰まった重い空気を吐き出し、最後の枠をりおんは切なくタップした……。
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