第4話

「その……魔法遺伝子?それがわたしにあるのは嬉しいけど、地味で眼鏡っのわたしよりもっと可愛いがなるべきものじゃないかなぁ……」


「うっ……」


「だってそうでしょ……モブ的なわたしなんか、主役に向かないよ。それに、眼鏡をかけたヒロインなんてアニメだったら途中で打ち切り必至だよっ」


「…………」


「だから、他の女の子を探してよ……少しの時間だったけど、夢を見させてくれて感謝してる。まぁ色々きつい事を言ったけど、モブ娘の戯言とスルーしてよ……」


 言いながらりおんは黙っているステッキさんを両手に取り、対峙してゆっくりと瞼を閉じながらステッキさんを自身の顔に近づけた……。


 この方が記憶を消しやすいだろうと……。


「さぁ……ステッキさん……」


「さようなら……」


 安堵、切なさ、嘘、後悔……少女の複雑さが組み合わされた別れの言葉……。




「チュッ……」


 柔らかい感触が、りおんの唇に伝わる……。




「契約完了……」


「ちょっ……」


 咄嗟にステッキさんを突き飛ばすりおん……。


「な、な、な、な、何してるんですかぁ!……キ、キ、キスしたよね、今っ!」


 激しく動揺し、顔を赤らめる……同世代の女の子の気質とはやや異なるりおんだが、意識に潜む「女」が一瞬姿を現し、この年頃に適合する表情と言葉となって、りおんの心を震わせた。


「ふふふ……キスしたさ。あぁそうさ、キスしましたよ……甘かったな、隙を見せたりおんの負けだよ」


 開き直った口調と浮遊態度で、ステッキさんはりおんを見つめる……。




「う、うぐぅぅ……」


 可愛いらしく唸るりおん……。


「キ、キスしたね……まだ誰にもキスされた事なかったのに……」


「それが甘ったれだと言うんだ……キスもされずに一人前の魔法少女になったヤツが、何処にいるものか!」


 ネタを、ネタで返す……。


 互いに何も言わなくなり、時が過ぎてゆく……。


 少女としての恥じらいを晒したりおん……。


 その後で、人としての正論を説いても説得力など皆無……本心が漏れたりおんは、ああ言う事で心を落ち着かせ、恥部を覆い隠そうと必死だった……。


 ステッキさんも「それ」をわかっていた。だからこそ、りおんの「渾身」のネタに「あの」ポーズでネタを返し、りおんを受け止めた。


 静かに流れる時間は、互いの想いをそれぞれに理解するのに必要なものであり、空にそびえる下弦の月も、ふたりの想いが熟成されるのを待つ。




「なんか、不思議だよ……」


 再び時が流れ、りおんが呟いた……。

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