第3話

「今の私は、賢者タイムさ……断わられたら、魔法を使って私との記憶を消すだけさ……」


「それだけ?」


「あぁそうさ……魔法少女にならないからって、その娘をどうこうするなんてしない。私との遭遇も忘れ、日常の生活に戻る……それだけだよ。あくまで、こちら側が無理にお願いしている事だからね」


 何処か寂しく、ステッキさんは言った……。


「で……そのお願い事をどうしてわたしに……」


「禁則事項ですっ!」


「またネタですか……あまりやり過ぎると、各方面から圧力がかかるよ……」




「魔法遺伝子……」


「えっ?」


「人間には、魔法遺伝子を持つ者がいる……その遺伝子を覚醒させ、魔法を有効化しサポートするのが私の役目。魔法遺伝子はごく限られた女性のみに存在し、能力が最大限に発揮されるのが、ちょうど今のりおんの10代前半から後半までという、短い期間なのだ……」


「それじゃあ……」


「その通り……りおんも魔法遺伝子を持つ特別な少女なのさ……」


「わたしが……魔法遺伝子を……」


「はぁ……なんか……」


 伏し目なりおんは、更に床に声を落とす。


「普通がいいな……」


「そ、そんな事言わないでお願いしますぅ……」


「頭」を下げるステッキさん……。


「魔法少女になって、何するの?まぁ、何かしらの敵と戦うくらいは想像できるけど……」


「その通りです、りおんさん……」


「で、敵って……」


「禁則事項ですっ!」


「お帰りはあちらです……さようなら……」


 窓を指差し、質問をはぐらかすステッキさんに、退室を促すりおん……。


「ああっ、冗談ですって……そんな冷たくしないでよぅ……」


「あんたがそうさせてるんでしょうがっ……」


「敵……そう、敵だな……しかし、色々入り組んでいて上手く説明できない……」


「ふーん……」


 ここでりおんは、一連の問答を打ち切った……。


 のらりくらりと、はぐらかしながらも上手く説明できないというステッキさんの声色と表情に、振る舞いとは真逆の深い真実の背景を感じた為だった。そして、敵が何であるかなど、ステッキさんが知らない筈などない事は、りおんもわかっている……。


 記憶を……消して……。


 りおんの気持ちは決まった……。




「ま、まずい……」


 問答に乗らなくなり、どうやら自分の意図に反する結論に傾きつつあるりおんに、ステッキさんは焦る。


 何か……何か打開策を考えなければ……追い詰められ、滴り落ちる汗……。


「ステッキさん……わたし、やっぱり魔法少女にはなれないよ……」


 りおんの最終決断……。

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