第23話 一休み――チャイナタウンの食べ物
今回は経済ネタなしです。
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中国系の皆さんは、とても元気だ。チャイナタウン(※1)を訪れる度にそう思う。ニューヨークに引っ越してきたばかりの頃はその迫力に圧倒され、一人では行けなかった。でも今は、物価の安さと美味しい餃子につられ、ほぼ隔週で通っている。
地下鉄をCanal Streetで降りて、有印良品へ。こんなところに出店してくれているとは、ありがたいことだ。日用雑貨を買うのに便利。ミッドタウン(※2)にもあるけれど、最近はもっぱらこの店舗を利用している。
さらにまっすぐ歩いて、お洒落なフードコートを通過。ここにはなんと、かき氷屋さんが入っている。夏になったら
通り沿いには古びた建物が多く、たっぷり落書きされているものが目立つ。壁、シャッター、ドアetc. このあたりには、路上で偽ブランド品らしきバッグを売っている人達がいて、けっこうな賑わいだ。
初めて見た時につい、
「バレないなら買ってみようかなって思っちゃうかも?」
と言ってしまったが、瑞樹に
「やめて下さい」
と冷たく返された。
さらに進むと、徐々に漢字の看板が増えてくる。そして赤と黄色。この配色を見れば中国を連想させる、というのはすごいと思う。
このあたりに来ると、米国資本の会社の看板まで漢字になってしまう。モクドナルドとか、West East Bankなど、全部。英語も併記されているから、読み比べてみると面白い。
もう少し進むと、辺り一面「ザ・中国」になる。中国に行ったことはないけれど、きっとこんな感じなんだと思う。通りには果物を沢山積み上げた露店がいくつもあって、行き交う人はほとんど全員が中国系と思われ、話している言葉は中国語のようだ。雑然とした雰囲気があたりを覆っている。
私はいつも、Mott Streetにある大きなスーパーに立ち寄る。入口付近に餅家(ベーカリー)があって、餡パンが安くて美味しい。小さめサイズだけど、三個買って二ドル以下。今日は小豆と蓮、カボチャ餡を買った。
ここにはエッグタルトも売っていて、絶品。
私は自称・エッグタルト研究家。日本にいた頃から大好物で、見つければ必ず試してきた。なかなか「これは!」というものに出会えなかったけれど。
あっさりしたカスタードとサクサクのパイ生地の組み合わせは、単純そうでいて奥が深いのだろう。ここに来たら、必ず一箱(八個)買うことにしている。五ドル六十セント。温かいままでも美味しいが、冷やして食べるのが好きだ。
ベーカリーの向かいには、お総菜屋さん。餃子や韮まんじゅう、魚のから揚げやお肉、野菜炒め、さらには、それらをいい感じで詰め合わせたお弁当まで扱っている。夕食用に魚とお肉のお弁当を一つずつ購入。
奥に入って、魚屋さんのカエルを見物する。床に置かれたバケツには、
スーパーを出たら、通り沿いの餅家(ベーカリー)で肉まんと餡まんを調達する。餡は複数の種類がある。一パック六個から八個入って、五ドル前後。お得だ。冷凍しておけるから、二、三パック買う。
あとは果物や野菜で美味しそうなものがあれば購入し、買い出し終了。すっかり重たくなったカートを引きながら、最後のお楽しみ、Eldrigde Streetに向かう。この通りには餃子屋さんがいくつかあって、私のお気に入りは角にある一軒。店内は十二畳くらいかしら、本当に狭い。
レジで食べたいものを注文して、席に着いて注意深く待つ。なぜなら、運んでくる順番やメニューを間違えたりするからだ。そのあたり、客がちゃんと把握しておかなくてはならない。
もちろん相席だし、すごく清潔とはいえないけれど、安くて美味しいから全く気にならない。十ドルあれば満腹間違いなしだ。
私は餃子ともう一品を頼むことにしていて、今日は、豚肉・白菜餃子とシンプルな麺にした。合計で五ドル。
麺は、平たくて細くて縮れている。それにアーモンドペーストと醤油のような調味料、申し訳程度の葱がかけてあるだけ。ところが、これが美味しいのだ。モチモチツルツル。箸が止まらなくなる。初めて食べた時は驚いた。
餃子はもちろん美味しい。程よい厚さのつるっとした皮に、味付けされた餡。タレなしで食べられる。口に入れると、中から汁が溢れ出す。
本当は、テーブルに置いてある調味料もかけてみたい。だけど躊躇してしまう。どの入れ物に何が入っているか、ラベルがないから判断がつかないのだ。
思い切って試しても良いのだけど、せっかくの美味しい餃子にそこまでの危険を冒すのものなあと、つい何もかけずに食べてしまう。
店員さんに訊けたらと思う。だが悲しいことに、私の英語はチャイナタウンではほとんど通じないし、何より向こうの返事を聞き取るのが難しい。そして店員さんは慌ただしく狭い店内で料理を運び続けていて、声をかけるのもはばかられる感じ。
お客さんもほぼ中国系、身内のためのお店にお邪魔している感じがして、つい遠慮してしまう。
でも居心地は悪くない。私のように、一人で来て気ままに食べているお客さんが多いから。二種類頼む人が多くて、メインの一皿に、魚の骨のスープを合わせるのが人気のようだ。見た目はややグロテスクだが、次回チャレンジしてみようかな。でもワンタンメンも食べたいしな。
考えながら餃子を味わっていると、店員のお姉さんに中国語で何か言われた。笑っているから多分、「美味しい?」と訊いてくれたのだと思う。何度か通ううちに顔なじみになり、私が中国人でないことは分かったと思うが、それでも中国語で話しかけてくる。
そういうわけで、私の密かな目標は、彼女と中国語で話せるようになること。先週から中国語の勉強を始めた。私は知っている。自分の母国語を話す人間に、人は親近感を抱きやすいことを。
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※1
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%B3_(%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%83%83%E3%82%BF%E3%83%B3)
※2
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%89%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%B3
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