第15話 ヨムカク小説コンテストとクラスタ(ゲーム理論・その5)

 ここまで話してきて、私はふと気になった。


 A、Bだけが戦略的に動いているのであれば、AとBの両方に★が付いたら予選突破確率は100%じゃないのかしら? どうして表では50%なんだっけ……。



            作者B

         ★付ける   ★付けない

   ★付ける (50%,50%)(15%,60%)

 作者A

   ★付けない(60%、15%) (20%,20%)



 早速瑞樹に聞いてみたところ、回答はこうだった。


「それは、読み専の存在も考えたから」


「えっ? 読み専は無視するって言ってなかった?」


「……言ったっけ? ええとそれは、詳細な検討から除外するっていう意味で、『読み専からの★がどのプレーヤーにも入る』、という可能性は残している。だから、A、Bで★を付け合っても、もしかしてCに読み専から★が二つ入ったりするかもしれないから、作者のみの協力・非協力によって変動する一次予選突破確率は、最大で50%にした」


「そっか。わかった気がする」


「ここまで大丈夫?」


「うん」


「じゃあ、もう一段階話を進めてみよう。これまで作者の中では、AB。ということは、ABということ。この設定を外して、A、B以外の作者も戦略的に動き、他の作者に★を付けることにしよう。この場合、どうなる?」


「A、B以外でも★の付けあいが発生する」


「もっと具体的に」


「うーん……」


「ヒントは、ヨムカクでは誰が誰に★を付けたかわかるってことと、このゲームの参加者は十人だということ」


「えええ? ますますわからないよ。答えは?」


「コンテストに参加している作者二人ずつで組む同盟が五つできて、全員が★を一つずつ付け合う可能性が高くなる」


「ええー?」


「だってそうだろ。一次予選を突破できるのは二人だけ。だったら、同盟の最大人数は二人だ。もし三人で同盟を組んでも、そのうち一人は一次予選を突破できないから。そして、ヨムカクでは、★のやり取りはみんなに見える。その状態で作者が合理的に動けば、二人ずつの同盟を組む可能性が高まる。十人全員が『トリガー戦略(※1)』や『しっぺ返し戦略(※2)』をとるのであれば、二人の同盟が五つだ」


「これは作者の人数が増えても同じで、千人が参加するコンテストなら二百人が一次予選突破人数だから、二百人の同盟を組めば有利になる。クラスタっていう言葉の方がふさわしいかな。同盟とはちょっと違うもんな」


「そんなに沢山で? 無理でしょ?」


「全員が★を無制限に持っていて、★のやり取りが公開されているんだから、不可能ではない。まあ、二百人はさすがに難しくても、小規模なクラスタがいくつも発生する可能性は十分ある」


「でも、合意の上での★のやり取りは禁止だよ」


、ということを検証するために、これまでゲーム理論で考えてきたんだよ」


 そうだった。AB、という話なんだった。


「……じゃあ、作者が無制限に★を持っている状態での一次予選は、自然発生的に同盟……じゃなくてクラスタができて、その中で★のやり取りが発生しやすいってこと?」


「俺が考えたモデル内では、そう。ここまでが、ゲーム理論にヨムカク小説コンテストを当てはめた検証だ。ヨムカクのすべての条件を盛り込んだモデルを作って計算したわけではないから大まかな内容だけど、それでもある程度、ヨムカク小説コンテストを客観的に検討する材料になると思う。結論をさっきのメモに書いておこう」


 そう言うと瑞樹は、さっき私がまとめたメモに下記を追加した。


『ヨムカク小説コンテストは無期限繰り返しゲーム。よって、コンテストに参加する作者同士で★の付けあいが発生する可能性が高い。そのことにより、作者間のクラスタが発生してクラスタ内で★を付け合う可能性も高くなる』


 そうか。そういうことなのか。わかった気はする。


 だけど、もしこの結論が実際のヨムカクにも当てはまるのであれば、ヨムカク内に仲良しさんのいない新参者のオレンジさんは、とてつもなく不利だ。


 たとえ「市長の恋(※3)」がどんなに魅力的な作品だとしても。


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 ※1

 最初は協力し、相手が協力する限り協力を続けるが、相手が1度非協力の態度をとれば非協力に切り替え、以後永久に非協力をとる。  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B9%B0%E3%82%8A%E8%BF%94%E3%81%97%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0


 ※2

 1手目は協調を選択する。

 2手目以降のn手目は、(n-1)手目に相手が出した手と同じ手を選択する https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%97%E3%81%A3%E3%81%BA%E8%BF%94%E3%81%97%E6%88%A6%E7%95%A5


 ※3

 宣伝ですみません。『市長の恋』は実在します。バツイチ子持ちの市長が過疎都市を立て直すために奮闘する、というストーリーです。恋もしますが、作中の市長は、真剣に市政に取り組んでいます。2018年3月5日現在、★がちょうど100付いています。気になった方はこちらへ。https://kakuyomu.jp/works/1177354054884294547

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