バレンタイン(コミックス発売記念SS)
朝食を終えた私は、食後のお茶を飲みながらお城の私室で考え事をしていた。
(ん~この時期って何かあったような……)
朝起きてからずっと引っ掛かりを覚えていたが、それが何かわからず難しい顔を浮かべている。
「セシリア様? どうかなさいましたか?」
ダリアは心配そうな顔をして尋ねてきたが、突然ハッとした顔になり私に詰め寄ってきた。
「もしやどこかお体の具合が悪いのですか!? 大変です! すぐに医師を……」
「ダリア待って!」
駆け出して行こうとしたダリアの腕を、慌てて掴んで引き止める。
「どこも悪くないから落ち着いて! ただちょっと考え事をしていただけよ」
「そうでしたか……私の早とちりでした。申し訳ございません」
「いいのよ。心配かけてごめんなさいね」
「いえ、ですが何か悩み事でも?」
「……いいえ。多分気のせいだった思うから。さて、本でも借りに図書室でも行ってくるわね」
私はそう言って立ち上がり、部屋から出るため扉を開けた。
しかしその扉の先に人が立っていたため、私は驚いて目を瞪ってしまう。
「カイゼル!?」
「やあセシリア、おはようございます」
「お、おはようございます」
「丁度今、扉をノックしようと思っていたところでした」
確かにカイゼルの右手は、ノックするように上がっていた。
その手をおろしカイゼルはちらりと部屋の中を確認すると、嬉しそうに微笑む。
「どうやら私が最初のようですね。セシリア、これを受け取ってください」
「え?」
カイゼルが差し出してきたそれは、綺麗な包装紙に包まれリボンの付いた小型の箱だった。
私はそれを受け取り、首を傾げてカイゼルを見る。
「これは?」
「ふふ、開けてみてください」
「??」
意味深な笑みを浮かべられ、全く意味がわからないと思いながらも言われた通りに包装紙を外し現れた高級感のあるシックな箱の蓋を開けた。
「……薔薇の形をした……チョコレート?」
「ええそうです。ほんのりと薔薇の香りもするのですよ」
「そうなのですか……ん? チョコレート……」
なんだか嫌な予感を感じ、恐る恐るカイゼルに問いかける。
「カイゼル、どうして私にチョコレートをプレゼントしてくださったのでしょうか?」
「ああ、実はニーナにお聞きしたのです。ニーナの住んでいた地域では、今日は好きな人にチョコレートを贈る日だと」
「……」
カイゼルの話を聞き、私は心の中で叫んでいた。
(もしかしなくても、これはバレンタインイベントかぁぁぁ!!)
前世でやっていたゲーム内で、ニーナが意中の相手にチョコレートをプレゼントしに行くイベントがあったのを思い出し唸る。
(ちょっと待ってよ。確かバレンタインイベントって、ニーナだけが贈る側だったはずだよ? カイゼルから贈られる描写なんてなかったはずなんだけど……)
カイゼル達から告白をされているので、ゲーム通りにいかないのは百歩譲って認めるが……なぜ男性であるカイゼルが私にチョコレートを贈るのか意味がわからなかった。
「えっと……私が知っている内容と、少し違っているように思うのですが?」
「違っている?」
「ええ。私が間違っていなければ、今日は女性から男性にチョコレートを贈る日だったはずです」
「確かにニーナも、今日は女性から男性に贈る日だと言われていましたね。ですが、絶対そうでなければいけないわけではないそうですよ。中には同性同士でチョコレートを贈り合う人もいれば、私のように女性へと贈る男性もいるそうです」
「そう、なのですか……」
カイゼルの言葉を聞き、前世のバレンタイン時期の記憶を思い起こす。
(そういえば、女性同士で贈り合う友チョコや自分のご褒美のために買う女性もいたな~。あ、テレビでは外国で男性から女性に贈るところがあるとやってたわ)
とは言えカイゼルの気持ちを知っている身としては、これを受け取っていいものか悩みだす。
しかしその気持ちに気がついたカイゼルが、にっこりと似非スマイルを浮かべて話しかけてきた。
「そこまで開けられたのですから、要らないとは言われませんよね?」
「え? でも開けるようにとカイゼルが……」
「開けないという選択もできたはずです」
「いや、それは……」
「セシリア、受け取ってくださいね」
「うっ……はい。ありがとうございます」
完全にカイゼルにやられたと思い、ガックリと肩を落として渋々お礼を言った。
「ふふ、セシリア好きです」
「……っ!」
カイゼルの言葉に、私は顔を熱くさせて目を見開く。
「ニーナからチョコレートを贈る時に、一緒に愛の告白をするとも聞いていましたので」
「そ、そうかもしれませんが!」
「ニーナには後でお礼を言っておきましょう。セシリアのこのような表情が見れたのですから」
カイゼルはいい顔で微笑むと、スッと一歩後退した。
「名残惜しいですが、この後公務がありますので。またあとで会いに来ますね」
そう言ってカイゼルは足取り軽く去っていってしまった。
残された私は呆然と手に持つチョコレートを見つめ、顔を引きつらせる。
(まさかバレンタインイベントが起こるだなんて……)
しかしそこでハッと気がつき、カイゼルが部屋の中を見て言っていた言葉を思い出した。
(私が最初のようですねって、まさか他の皆も!?)
考えれば考えるほどあり得る現実に、私はダリアにカイゼルのチョコレートを預け急いで部屋から飛び出したのだ。
「部屋に居たら確実に次もくるから今離れておかないと! とりあえずどこか見つからない場所で、今日一日をやり過ごそう」
ぶつぶつ言いながら早足で廊下を曲がったところ、そこで誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさ……」
「セシリア!?」
「……アルフェルド皇子」
私を呼ぶ声に顔を上げ、ぶつかった相手がアルフェルド皇子だと気づくと自分の運のなさに嘆く。
「急いでいるようだけど、どこかへ行くところだったのか?」
「え? あ、そうなのです。だから私はこれで……」
「待って」
アルフェルド皇子の横を通り過ぎようとしたが、私の腕を掴まれ引き止められる。
「なんでしょう? 急いでいるのですが」
「少しだけ。ただこれを受け取って欲しいだけだよ」
そう言ってそっと私の手のひらにリボンの付いた小箱を乗せる。
「……」
「その反応からすると、すでにこれが何か知っているようだね。遅れを取ったようだけど仕方ない。セシリア、私の愛が詰まったチョコレートを愛しい貴女に贈るよ。ああ、受け取り拒否は受けつけないからね」
アルフェルド皇子は妖艶に微笑み、私の手ごと小箱を包み込むように両手で握ってきた。
「さてこのままここにいると、無理にでも返されそうだからね。私は去ることにするよ。セシリアまたね」
「ちょっ、アルフェルド皇子!」
チョコレートの入った箱を私に押しつけ、アルフェルド皇子はヒラヒラと手を振っていってしまった。
「くっ、断る隙も与えないなんて!」
悔しさに耐えながらも私は再び歩きだす。
しかしまるで待ち伏せされているのでは? と錯覚するほどに、私の視界の先にはレオン王子の姿が。
(なんでこう続くの?)
うんざりしながらもくるりと回れ右をしてその場を離れようとした。
「セシリア姉様~!」
「うわぁ!」
レオン王子は背後から私に抱きついてきたのだ。
「セシリア姉様、見つけた! 部屋に行っても居なかったから、僕探したんだよ?」
「えっと……何かご用でしょうか?」
顔を引きつらせながら後ろを伺い見ると、頬を膨らませて私を見ていたレオン王子が何かに気がつき目を据わらせる。
「……それ、誰から貰ったの?」
「え?」
「セシリア姉様が持っているその箱だよ」
どうやらアルフェルド皇子に渡された箱のことだとわかる。
「えっと、アルフェルド皇子に……」
「む~! 先越された! あ、もしかしてもう兄上も?」
「……はい。一番最初に」
「悔しい! 僕のを最初に渡したかったのに! ……仕方ない。はい、セシリア姉様受け取って」
レオン王子は私を離し前に移動してくると、両手で箱を差し出してきた。
「えっと……」
「兄上やアルフェルド皇子のは受け取ったのに……僕のは受け取ってくれないの?」
そう言って目を潤ませじっと私を見つめてくる。
「うっ…………わかりました。ありがとうございます」
「わぁ~い! セシリア姉様大好きだよ!」
諦めながら受け取ると、レオン王子は天使のような微笑みを浮かべもう一度私に抱きついてきた。
「ちょっ、レオン王子!」
「ふふ、ねえ僕が食べさせてあげようか?」
「……いえ、遠慮します。それよりもいい加減離してください」
「ちぇ~仕方ないな。今日はこれで我慢するよ。じゃあ僕行くね。セシリア姉様、またね~!」
レオン王子は嵐のように現れ去っていった。
そして二つに増えたチョコレートを見つめ、ため息をつきながらとぼとぼとその場を離れたのだった。
◆◆◆◆◆
私は図書室の扉を開き、中をキョロキョロと見回して誰もいないことを確認しホッとする。
「とりあえず、少しここで休もう」
そう言って部屋の中に入り、奥にある閲覧スペースに移動した。
しかしそこで私はピタリと固まる。
「セシリア!?」
なぜならそこにはシスランが、本を片手に持ち立っていたからだ。
シスランは私が来たことに驚いているようで、驚愕の表情でこちらを見ている。
その様子から、私はある結論を出す。
(どうやらシスランは、イベントに参加していないみたいね)
私はホッと息を吐き、シスランに近づく。
「シスランは何をしているの?」
「……見ればわかるだろう。勉強だ」
「相変わらずね。でも適度に休憩はしなよ」
「わかっている。今やっているのを終えたら休むつもりだった。それよりもセシリアは、どうしてここに?」
「あ~うん。安息の地を求めて」
「なんだそれは?」
「気にしないで。でも勉強の邪魔になりそうだし、私は去るわね」
そう言って踵を返した私を、シスランが呼び止めてきた。
「セシリア!」
「ん? 何……って、え、ちょっ、わわわ!」
振り返った私に向かって、懐から出した小箱を放り投げてきたのだ。
それを荷物を持ちながら慌てて受け取り、シスランに抗議の声を上げる。
「シスラン! 突然物を投げるなんて危ないじゃない!」
「うるさい。お前が突然現れるのが悪い」
「はぁ? 意味がわからないのだけど!」
シスランの言葉にムッとし睨みつけた。
するとシスランは顔を赤らめながらそっぽを向き、眼鏡を指で押し上げながらぶっきらぼうに話す。
「本当は後で渡しに行くつもりだったんだよ」
「何を渡しに……え? これってもしかして……」
私は思い出しかのようにシスランから受け取った小箱を見て、顔が引きつる。
「チョコレートだ。どうせその様子だと、説明は不要だろう?」
「そ、そうだけど……シスランはやらないかと思ってた」
「俺だけやらないわけないだろう」
シスランは私の方を見て、不機嫌そうな表情を浮かべた。
「確かそれを渡したら、言わないといけないんだったな」
「あ、いやべつに言わなくても……」
何を言われるのか察し、私は慌てて首を振ってそれを止める。
しかしシスランはそんな私を見て、眉間に皺を寄せ言い放ってきたのだ。
「セシリアが好きだから、言うに決まっているだろう!」
「っ!」
普段あまり好きだと言わない人から言われ、さすがに恥ずかしさが私を襲う。
「と、とりあえず渡したからな! 俺はもう行く。じゃあな!」
シスランは捲し立てるようにそれだけ言うと、急いで出ていってしまった。
そして一人取り残された私は、盛大なため息をつくと図書室から出て私室に戻ることにした。
(さすがにこの貰ったチョコレートを持ったまま、うろつくのは厳しい。それに多分、どこに行っても無駄な気がしてきた)
行く先々で皆に出会うこの状況に、私は諦め半分で廊下を歩く。
するとそんな私に声をかけてくる人物が現れた。
「姫!」
その声に私はもう一度ため息をつくと、胡乱げな目で声のした方を見る。
「ビクトル、どうかしたのですか?」
そう言いながらも、ビクトルの手に持っている小箱を見てこの後起こることが容易に予想できた。
「探しておりました。今までどこに?」
「ちょっと城内を逃げて……いえ、なんでもありません。それよりもビクトルは、私になんの用なのでしょうか?」
「あ、はい。実は姫にお渡ししたい物がございまして……」
ビクトルは手に持っていた小箱を両手で持ち私に差し出す。
だけど私はそれをじっと見つめ、困った表情を浮かべた。
「姫? ……あ、気がつかず申し訳ございません。確かにそれらを持っていましたら、受け取ることなどできませんね。変わりに私がお持ちいたします」
ビクトルは苦笑いを浮かべると、自分の小箱を脇に抱え私から三人のチョコレートを全て取っていった。
そしてそれらを片手で持つと、今度こそという感じでビクトルは自分の小箱を私に渡してきた。
私はそれを呆れながらも受け取ると、ビクトルはコホンと咳払いをして右手を胸に当て真剣な表情を浮かべる。
「私の心は姫、貴女ただ一人に捧げています」
「あ、ありがとうございます……」
もう私にはそう言うしかなかったのだ。
そうして荷物持ちをしてくれるビクトルと共に部屋に戻ると、そこにはニーナとレイティア様が待っていた。
「「セシリア様!」」
二人が嬉しそうに私に駆け寄ってくる姿を見て、もう諦めの境地に陥る。
「レイティア様、お部屋で待たせていただいてよかったですね!」
「ええそうね。もし探しに行っていたら、すれ違いになっていたかもしれませんもの」
「えっと……大体は予想できていますが、お二人がこちらにいらっしゃった訳は?」
「もちろんセシリア様に、チョコレートをお渡しするためです!」
(ですよね!)
いい笑顔でニーナが言うのを聞いて、心の中で自棄糞に叫んだ。
「セシリア様……私のは皆様と違い手作りなのですが、よかったら受け取ってください」
「ニーナの手作りチョコレート!?」
「あ、はい。お口に合えばいいのですが……」
「ありがたくいただきます」
ニーナの手作りなら絶対に美味しいと確信し、もう素直に受け取ることに決めた。
「セシリア様、お慕いしています!」
「あ……うん。ありがとうございます」
少し顔を赤らめながら告げられ、私はなんとも言えない表情でお礼を言うしかなかった。
しかしふとレイティア様が、なぜかもじもじしながら俯いていることに気がつく。
「レイティア様? どうかなさったのですか?」
「わ、わたくしのは……」
「レイティア様、大丈夫です! 自信を持ってください!」
「でも……」
「??」
二人のやり取りの意味がわからず首を傾げる。
するとニーナが困った表情を浮かべながら、私に話しかけてきた。
「実はレイティア様も、私と一緒にチョコレートを手作りしたのです」
「ちょっとニーナ!」
「レイティア様は初めての手作りお菓子に悪戦苦闘されていましたが、一生懸命セシリア様を想って作られていました」
「レイティア様が私のために……」
レイティア様は顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。
「わ、わたくしのは……ニーナのように綺麗にできませんでしたの。……やはりわたくし、改めてチョコレートを買い直してきますわ!」
「いえ、その必要はありませんよ。私はレイティア様のそのチョコレートが欲しいです」
「え?」
「だってレイティア様が私のために作ってくださったのですよね? それは是非ともいただかせていただきます」
「っセシリア様!」
にっこりと微笑むと、レイティア様は目を潤ませ持っていた小箱を胸にぎゅっと抱きしめた。
その様子に苦笑しながらレイティア様に話しかける。
「レイティア様、せっかく綺麗に包装されているのにそれでは潰れてしまいますよ」
「あ、そうですわね。……では改めまして。セシリア様、私の大好きな気持ちを沢山込めて作りましたの。よかったら受け取ってください」
「あ、ありがとうございます」
若干重いなと思いながらも、レイティア様から小箱を受け取った。
(うん。ニーナとレイティア様からのは友チョコ……そう思うようにしよう!)
心の中でそう自分に言い聞かせていたのだった。
◆◆◆◆◆
ビクトルと共にニーナやレイティア様は去っていき、私は机の上に並んだ皆のチョコレートを見つめ唸っていた。
(結局皆から貰ってしまった。でも私は誰にもあげていない……さすがに貰いっぱは駄目だよね。でも今からチョコレートを買いに行くには時間がないし、そもそもどこのお店がいいのかもわからないんだよね……あ、そうだ!)
私はある考えが浮かび、ダリアに声をかける。
「ダリア、厨房に行って料理長から調理場の使用許可と、これから言うものを用意してもらって来てくれる?」
「畏まりました」
そうして使用していない調理場を借りることができた私は、そこでダリアが運んできてくれた材料を使って一人早速作業を始めた。
「手作りチョコレートなんて溶かして固めるだけだし、それぐらいなら私でもできるできる!」
私はそう楽観的に考え作り出した。
そして結果は──。
「なぜこうなった……」
目の前の奇妙な物体に変わり果てたチョコレートを見てうなだれる。
イメージとしてはトリュフを作ったつもりだったのに、ゴツゴツとしたまるで石のような形と所々白と黒の斑点が目につく、とても食べ物とは思えない代物に仕上がってしまった。
「初めて作ったと言っていたレイティア様のチョコレートとは、とても比べ物にならないほど酷いんだけど……」
レイティア様のチョコレートは多少不恰好ながらも、誰が見てもチョコレートだとわかる。
だけど私のはチョコレートだと言っても信じてもらえないモノだった。
「……さすがにこれはあげられないわね。仕方ない、責任持って全部自分で食べよう」
ため息をつきながら部屋に持ち帰るため、器に移し変えていたその時──。
「セシリア?」
「え? カイゼル!? それに皆さんも!?」
不思議そうな顔で調理場に入って来たカイゼルの後ろから、ぞろぞと続いて皆が入ってくる。
それを唖然としながら見ていたが、私はハッとしてチョコレートもどきを皆から見えないように背後に隠す。
「皆さんお揃いでどうしたのですか?」
「部屋に行きましたらセシリアはここに居ると教えられましたので、たまたま鉢合わせた皆とここに来てみたのです」
「そ、そうなのですか」
「それでセシリアはここで何を? 匂いからしてチョコレートのようですが……」
「な、何もしていません!」
「そうですか? ではその背中で隠しているモノを見せていただいても、問題はありませんね」
「あ、ちょっとカイゼル!!」
カイゼルは私にスッと近づくと、私の後ろからチョコレート(?)が入っている器を取っていってしまった。
「……これは?」
それを見た皆の表情が途端怪訝なモノに変わる。
カイゼルも角度を変えながらまじまじと見るが、結局わからなかったようで私に視線を向けてきた。
そんな皆の様子を見て小さくため息をつくと、諦めたように答えた。
「お返しとして皆さんに、チョコレートを手作りしてみたのです。ですが結果としてそのようなモノに……」
「セシリアが私達のために!?」
私の言葉を聞き、皆は一斉にチョコレート(?)を見る。
「とりあえず、今日は無理ですがまた後日ちゃんとしたチョコレートを皆さんにお贈りしますので、それは返してください」
そう言って手を伸ばすが、なぜかカイゼルはじっとそのチョコレート(?)を見つめ続けていた。
「カイゼル?」
「セシリアが作ってくれたモノ……」
カイゼルはぶつぶつと呟き、そして一つ手で摘まんで口の中に入れてしまった。
「カイゼル!?」
「…………美味しいです」
「そんなはずは……」
すると他の皆も我先にとチョコレート(?)を食べ始める。
「セシリア、とても美味しいよ。今まで食べてきたどのチョコレートよりも素晴らしい」
「アルフェルド皇子の言う通りだよ! 僕、このチョコレートが一番好き!」
「俺はあまり甘いモノは好きじゃないんだが、これは食べれる。あ、勘違いするなよ! お前が作ったからってだけじゃないからな!」
「姫、最高に美味しいです」
「セシリア様、私にもこの作り方教えてください!」
「わたくしも知りたいですわ!」
皆は口々に誉めてくれ、パクパクとチョコレート(?)を食べていく。
「あ、ありがとうございます」
「よければまた作ってくださいね。……今度は私一人のために」
カイゼルは私に向かって笑みを向け、再び食べ始める。
そんな皆を見て、私はなんとも言えない気持ちになった。
なぜなら見目麗しい高貴な方々が集まり、私の奇妙な物体を喜んで食べている姿は、端から見たらとてもシュールな光景だと気がついたからだ。
(うん、来年は絶対既製品のチョコレートを買おう)
私は皆を見つめながら、そう心の中で誓ったのだった。
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