第三部(アルフェルド編)

新たな始まり

※皆様お待たせしました!第三部始まりますよ!

 ただ一つ注意点があります。この第三部の前に書籍版も出していた影響で、web版と書籍版の内容が私の頭の中でごっちゃになってしまいました。(書籍版の方はweb版と少し内容が変わっているためです)

 一応web版の内容に合わせて書いてはいますが、もしかしたら色々おかしいと感じる部分があるかもしれません。

 出来れば暖かい目で読んでいただけると大変助かります。


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 私は自室のベッドの上で横になりながら、今ドはまりしている乙女ゲーム『悠久の時を貴女と共に』の設定資料集を読んでいた。

「……モルバラド帝国。広大な砂漠に囲まれた大国で豊富にある油田を有し、他国との貿易も盛んで国は潤っている。しかしこの国の建国者は元盗賊で、国民意識には欲しいモノは奪ってでも手に入れろが根付いており、そのせいで国のトップが入れ変わったことも過去にはあった……ふ~ん。アルフェルドの国って結構大変そうなんだね。でも……奪い奪われってことは、もしかしたらアルフェルドの世代でも起こりうる可能性があるってことかな? あ、もしかして続編も視野にこんな設定にしてあるのかも!」

 アルフェルドの欄を見ながら、期待に胸を躍らせる。

「もしそうならどんな展開になるんだろう? ふふ、楽しみ~!」

 ニヤニヤしながらも、私はページをめくっていったのだ。


──そんな前世の記憶を呼び起こしながら私は一人、目の前の光景を呆然と見つめている。

「……なんでこんなことに」

 そこには見渡す限りの砂漠が広がっていたからだ。


  ◆◆◆◆◆


 色々あったがランドリック帝国とベイゼルム王国は同盟を結ぶこととなった。

 そうして滞りなく同盟の調印式を終えたヴェルヘルムは、アンジェリカ姫を連れ自国に帰ることに。

 その帰り際、ヴェルヘルムから必ずお前を迎えにくるからなと自信満々に言われ、すっかり私に懐いてしまったアンジェリカ姫も待っていますわと笑みを浮かべて言われてしまったのだった。

 それだけでも頭が痛いのに、どうやらカイゼルとの婚約解消の件はまだ公にはされていなかったようで、ヴェルヘルムと婚約していたことも一部の者にしか知らされていなかったらしい。

 ならば正式に公表すればいいのだが現在私の体調はまだ万全ではなく、公表するとどうしても公の場に出なくてはならなくなる。それを怠るとあらぬ噂を立てられ、ハインツ家や王家に迷惑をかけてしまう。ここはあくまで円満解消であることをアピールしないといけないのだ。そのためにも、夜会や舞踏会などで最後までいられるほどに体力を戻す必要があった。

 さらにそれとは別で、ヴェルヘルムの国と同盟を結んだ影響で国王の政務も忙しくなってしまい公表は後回しとなってしまったのだ。

 そうして私の体力回復と政務が落ち着くのを待っているうちにあっという間に数カ月が経ち、とうとう本来のゲーム期間の終了でもある『天空の乙女』の役を返納する日がやってきてしまった。それは同時にニーナとの別れを意味する。

 つつがなく返納式を終えたニーナを見送るため、私達は城の玄関前広場に集まっていた。

「セシリア様……」

「ニーナ……」

 目に涙を浮かべながらじっと私を見つめているニーナを見て、私も涙が込み上げてくる。

(ニーナごめんね。本来なら貴女が誰かと恋人同士になって、このあとも二人で幸せな時間を過ごしていけるはずだったのに……私のせいでノーマルエンドになっちゃった。本当にごめん!)

 心の中で謝りながらも、私はニーナの手を取り包み込むように握りしめる。

「ニーナ……別れるのはとても寂しいです」

「私もセシリア様ともうお会いできなくなると思いますと……っ」

「ああニーナ、泣かないでください」

 私は慌ててハンカチを取り出しニーナの涙を拭う。

「二度と会えないなんてことありませんよ。必ず会いにいきますから。それにお手紙も書いて送ります」

「本当、ですか?」

「ええ、約束します」

安心させるようににっこりと微笑む。

「お待ちしています!」

 ニーナは嬉しそうに笑みを見せてくれた。

「もちろんわたくしもお手紙を送りますわ!」

「レイティア様!」

 涙を堪えている表情のレイティア様がニーナに抱きつく。そしてニーナもすぐに抱き返した。

 私はそんな二人を見て我慢ができず、まとめて包み込むように抱きしめた。

「私達はずっと友達です!」

「っ……はい!」

「…………友達以上でもわたくし構いませんけど」

 素直に喜ぶニーナとは対照的に、少し不満そうにしているレイティア様に苦笑いを浮かべながらも、私達はしばらく抱き合っていたのだ。

 そうしてニーナを乗せた馬車が、城門から出て行くのを見つめながら私は思う。

(これで本当に正規のゲーム本編は終了してしまったんだね。……よし、もう悪役令嬢やヒロインという括りにこだわらないようにしよう! だって登場するキャラは一緒でも、ここは私の知っているゲームの世界とは全く別物なんだもの。だからこれからは、自分の幸せを見つけていくことにするよ!)

 改めて決意し、ちらりと私の隣でニーナを見送っていたカイゼル達を見たのだった。




 ニーナが居なくなってから数日が経ったある日、城のサロンで皆と一緒におしゃべりをしながら寛いでいるとそこに国王がやってきた。

「邪魔をしてすまぬな」

「いえ、そのようなことはありませんが……父上、どうかされたのですか?」

「いや、ようやく仕事がひと段落したからな。そろそろ日取りを決めようかと話をしにきたのだ」

「日取り、ですか?」

 カイゼルが不思議そうな顔をするが、国王は視線をカイゼルから私に移す。

「セシリア嬢、長いこと待たせてすまなかったな」

「えっと……一体なんのお話でしょう?」

 話が見えず小首を傾げていると、国王がチラリとカイゼルを見た。

「カイゼルとの婚約解消の件だ」

「……ああ、そういうことですね」

「父上それは!」

「カイゼル、この件はもう話がついているだろう。口出しは許さぬ」

「ぐっ」

 国王の鋭い眼差しにカイゼルは悔しそうに押し黙る。

「そうだよ兄上、父上の言うことは聞かないと」

 レオン王子は天使の微笑みを浮かべているが、見え方によっては小悪魔の微笑みにも見える。

「カイゼル王子、諦めて受け入れろ。俺たちは同じ所からのスタートになるだけだ」

 シスランが腕を組みながら眼鏡を直し不敵に笑う。

「そうそう、ふふまあ最後に勝つのは私だけどね」

 優雅に椅子に座り妖艶な微笑みをアルフェルド皇子は浮かべる。

「カイゼル王子、安心して姫のことは私にお任せください」

 真面目な顔つきでビクトルが誓う。

「わたくし、ニーナと約束いたしましたの。だから絶対、皆様には負けませんわ!」

 レイティア様は拳を握りしめ、力強く宣言した。

「……まあいいでしょう。再び私と婚約して頂ければいいだけですから」

 カイゼルはにっこりと似非スマイルを浮かべたのだ。

 そんな皆の様子に、私は額に手を当て小さくため息をつく。

(相変わらず当事者を無視して……でも、これからは自分の幸せを考えていかないといけないんだから、もっと皆と向き合わないと。ただ問題は……前世で彼氏いない歴=年齢だったせいでリアルな恋心ってよくわからないんだよね~。確かに私は前世で沢山の乙女ゲームをやっていたよ? だけど結局相手は二次元、恋愛系の小説や漫画を読んでいる時のドキドキと同じで、ハマっている時は夢にまで見るほど夢中になるけど、リアルで恋人同士になりたいとまでは思ったことないんだよね。むしろヒロインとくっついて幸せそうな二人を見るのが好きだったからさ。それは恋心とは違うとさすがの私でもわかる。……私、本当に誰かのことを好きになれるのかな?)

 そんな不安を抱いていた。

「セシリア嬢、どうかしたのか?」

「え? あ、いえなんでもありません」

「そうか? 何やら深刻そうな顔をしておったが……」

「ほ、本当に大丈夫です! それよりも国王陛下、公表はいつ頃される予定なのでしょうか」

「ふむ、内容が内容なだけに事前準備が必要でな。一カ月後となってしまうがよいか?」

「一カ月後ですか……わかりました。大丈夫です」

「そうか。ならばこれから、色々大変にはなるだろうがよろしく頼むぞ」

「はい」

「カイゼルもだぞ」

「……はい」

 国王の言葉にカイゼルは渋々頷く。しかしそのカイゼルの目は、諦めの色を浮かべていなかったことに私は気がつかなかった。


 その夜、部屋で寛いでいた私のもとにカイゼルが訪ねてきた。

「夜分にすみません」

「いえ構いませんが、どうかされたのですか?」

「セシリアにお願いがあってきました」

「お願い、ですか? なんでしょう?」

 私の向かいの席に座り、侍女頭のダリアが入れたお茶を一口飲んだカイゼルが真剣な表情で口を開く。

「貴女の婚約者でいられる最後の思い出として、私と一緒に旅行をして欲しいのです」

「え?」

「婚約者同士であれば、一緒に旅行へ行くこと自体おかしいことと言われません。ですが婚約者ではない男女での旅行は、よっぽどの理由がない限り王侯貴族である以上難しいことなのです。さらに婚約を解消したとなれば……まず周りの者が許してくれないでしょう」

「それはそうですが……」

 困っている私の傍にカイゼルは移動すると、床に膝をつき私の手を握って見上げてきた。

「セシリア、お願いです。私に最後の思い出をくれませんか? そうすればもう婚約解消を嫌がりませんから」

(くっ! イケメンの懇願顔は卑怯だよ! それも最後にとか思い出が作りたいとか言われては、駄目だと言えるわけないよ!)

 私はがっくりと肩を落とし、仕方ないと諦め気味に笑った。

「わかりました。いいですよ。ただし、さすがに二人だけでは行きませんからね」

「……そこは気がつかないで欲しかったですね。そうすれば堂々と二人きりの旅行に行けたのですが」

「さすがにそれぐらいわかりますよ」

 苦笑いを浮かべたカイゼルに私はクスっと笑ってみせる。

「……まあ、二人きりになる方法なんていくらでもありますからね」

「え? カイゼル何か言われましたか?」

「いいえ、何も」

 なんだか黒い笑みを浮かべて呟いたように見えたカイゼルは、私の問いかけにすぐにいつもの似非スマイルを浮かべて首を横に振った。

「それでカイゼル、旅行はどこにいくつもりなのですか?」

「ああそれは……」

「だったら私の国、モルバラド帝国にこないか?」

 突然扉付近から声が聞こえ視線を向けると、そこにはアルフェルド皇子が腕を組んで妖艶な微笑みを浮かべながら立っていたのだ。

「アルフェルド皇子!? いらしていたのですか!?」

「カイゼルがセシリアの部屋に入っていくのが見えてね。ダリアに頼んで様子を伺わせてもらっていた」

 カイゼルは私から手を離して立ち上がり、アルフェルド皇子は私達の方に近づいてきた。

「……私が何かするとでも?」

「チャンスがあれば絶対しないとは言い切れないだろう?」

「……」

 アルフェルド皇子の伺うような目に、カイゼルは無言になる。

「それよりも先ほどの話だが、旅行先にモルバラド帝国はどうだ?」

「どうしてモルバラド帝国なのでしょう?」

 私は小首を傾げると、アルフェルド皇子は複雑な表情を浮かべた。

「セシリアにはちゃんと私の国を見て欲しいと思ったから。前の時は……見る余裕がなかっただろうし、あまりいい印象も持てなかっただろうしね」

「まあ……そうですね」

(前の時は、アルフェルド皇子に薬で眠らされてモルバラド帝国に攫われたからね。そりゃ観光なんて気分にはならなかったよ)

「だからそのお詫びも込めて、今度はちゃんと案内をしてあげたいと思った。モルバラド帝国には魅力的な所が沢山あると知って欲しいからね」

「……私も正直、ゆっくりと見てみたいと思っていました。カイゼル、せっかくアルフェルド皇子が誘ってくださっていますし、モルバラド帝国にしませんか?」

「そ、それは……はぁ~仕方ないですね。セシリアが望むならそこにしましょう」

「カイゼルありがとうございます!」

(せっかく旅行に行くなら、いい思い出に塗り替えたいもんね!)

 そう思い、段々と楽しみになってきた。

そんな私を他所にカイゼルとアルフェルド皇子は再びお互いを見合って、似非スマイルと妖艶な微笑みを浮かべる。

「ふふ、カイゼル残念だったね。おそらく当初予定していた旅行先で、セシリアとの仲を深めるつもりだったのだろう?」

「さあ、なんのことでしょう?」

「どうせ二人きりになれるような場所でもあったのだろうけど、そんなことは私がさせないよ」

「何を言いたいのかはわかりませんが、私はセシリアと思い出を作る旅行にいくだけですので」

「その思い出作りが、どういったやり方かが気になるところだけれどね」

「普通ですよ」

「普通、ね」

 二人は笑みを浮かべたままなんだか見えない火花を散らしているように見え、私は戸惑っていたのだった。

 その後あっという間に旅行の準備を終えると、私達の歓迎準備をするため先に帰国したアルフェルド皇子を追うように、三日後モルバラド帝国に向かって旅立った。

 しかしそこには私とカイゼル、護衛役のビクトルの三人だけだった。

なぜなら王子が揃って国を離れては駄目だとレオン王子は国王に止められ、シスランは急に決まった学術研究省関連の講義に強制参加しなければならなくなり、レイティア様も父親であるダイハリア様に反対され不参加となってしまった。その話を皆から聞きカイゼルに話すと、それは残念でしたねと言いながらもとてもいい似非スマイルを浮かべていたのだった。

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