ザイラ港町
ガタンと揺れた音で私はハッと意識を戻した。
(いけない!寝てしまってた!)
私は動揺しながら回りを見回しとりあえず見付かっていないようでホッと息を吐いたのだ。
その時外から潮の香りがしてきている事に気が付いた私は、物音を立てないようにそっと荷馬車の後ろから外を覗き見たのである。
(やったー!!目的のザイラ港町に到着してる!)
目の前に広がる光景が初めてここに到着した時と同じである事を確認し私は小さくガッツポーズをした。
そうして隠れながら回りを伺い見ると運良く荷馬車の近くに人が居なかったのだ。
そこで思いきって顔を荷馬車から出してさらに回りを見てみると、荷馬車から少し離れた場所でこの隊商の商人と使用人達が話をしているのが見えた。
(よし!今の内にここから抜け出そう!)
私はそう思うと商人達に警戒しつつそっと荷馬車から出てすぐに近くの建物の影に隠れたのである。
そしてもう一度荷馬車付近を見て誰も私の事に気が付いていない事を確認しホッと胸を撫で下ろした。
(さて・・・なんとか無事にザイラ港町に到着出来た事だし次はベイゼルム王国に行く船を探さないと!)
そうして私は人目につかないように裏路地や建物の影に隠れながら港の方に近付いていったのだ。
漸く沢山の船が停泊している港付近に到着した私は、建物の影から顔を覗かせキョロキョロと停泊している船を見回した。
(う~ん、ベイゼルム王国行きの船は・・・ってあれ?そう言えばよくよく考えたら、どの船がベイゼルム王国に行くのか知らないんだよね・・・と言うかそもそもベイゼルム王国行きって・・・あるよね?)
その考えに私はサーッと血の気が引き冷や汗をかきはじめたのだ。
しかしその時、停泊している船の中に一隻見た事のある船を発見したのである。
(あ!あの船って確か・・・例の聖地巡礼の旅で訪れたランデーンと言う港街で、アルフェルド皇子からモルバラド帝国の貿易船だと教えて貰った船だったはず・・・それならもしかしたらあの船ベイゼルム王国に行くかも!!)
私はそう思うとさらにしっかりとその船を観察しベイゼルム王国行きかどうかを判断する事にした。
するとその船の甲板から三人の明らかに異質な三人組が降りてきたのである。
何故異質だと思ったかと言うと、他の人は露出の高い服を着ているのにその三人だけは頭からすっぽりとローブを被り目深にフードを被っているのだ。
(何だろうあの怪しい三人は?それも一人は凄く背が高いし・・・ってそんな事気にしてる場合じゃ無かった!ん~どうにかあの船が何処に行くのか知れないかな・・・)
そう思っていた私のすぐ近くで船乗りだと思われる男達が話をしだしたのである。
「よお!お前帰ってきてたのか?」
「ああ、ついさっき着いた所なんだ」
「そりゃお疲れさん。でどうだったんだ?」
「ああバッチリ大量に品物仕入れてきたぜ」
「確か取引先は・・・あのベイゼルム王国だったか?」
「そうそう!あそこは大のお得意様だからな、毎回良い金額で持っていった物を買ってくれるは逆に手頃な値段で向こうの品物を売ってくれるはで大助かりなんだ」
「それは羨ましい。俺の所なんかさ・・・」
そのままさらにその男達は話を続けていたが私の頭の中では『ベイゼルム王国』と言う言葉がぐるぐると回っていたのだ。
(ベイゼルム王国、ベイゼルム王国って言ったよねこの人!?え!?どの船の人なの!!知りたい!!でも声を掛けて怪しまれるのも・・・どうしよう?)
そう私が一人悶々としていると男達の会話が私の疑問に答えてくれたのである。
「そう言えばお前の船ってどれだったっけ?」
「おいおい忘れたのか?あの他の船より一際大きいあの船だよ」
「ああそう言えばそうだったな。毎日多くの船が行き交うから分からなくなってたんだよ」
「まあ確かにここは貿易の要の港町だからな。それも仕方がないか」
「それにしても・・・また随分多くの荷物積み込んでいないか?」
「ああ実は・・・ちょっとある筋からの情報で暫くベイゼルム王国と交易出来なくなる可能性があるらしいんだ」
「・・・交易が出来なくなる?どうして?」
「それがどうも・・・あのアルフェルド皇子の結婚に関係してるとか・・・まあ俺も詳しくはよく分からないんだがな。でも本当にそうなる前にもうひと稼ぎしとこうかと思ってこれからもう一度ベイゼルム王国に行く予定なんだ」
「へ~そうなんだ。まあでも最悪ベイゼルム王国と交易が途絶えても他の国があるからな。俺達の仕事は変わらん」
「そうだな。じゃあ俺まだやる事があるからこれで」
「ああ、気を付けてな」
そうして男達は別れていったのだが私はその場で歓喜にうち震えていたのだ。
(よし!!帰りの交通手段見付かった!!後はなんとかあの船に乗り込めば帰れる!!!)
私はそう心の中で喜び口許を隠している黒い布の下でニヤニヤとしていたのである。
そんな私は船に乗り込むタイミングを見計らいじっと目的の船を見つめていた。
そしてその時にはすっかりあの三人組の事など気にならなくなっていたのだ。
すると運良く船までの動線に人がいなくなるタイミングがやってきたのである。
(今だ!!)
そう勢い付けると素早く建物の影から飛び出し船に向かって駆け出したのだ。
しかしその時、私のすぐ横で馬の嘶きが響き渡ったのである。
「え!?」
私はその馬の声に驚き急停止してその馬の方を見た。
さらにその馬上に人がいる事に気が付きゆっくりと見上げそして私は目を見開いて固まってしまったのだ。
(な、何でここにアルフェルド皇子がいるの!?)
そうそこにはアルフェルド皇子が馬に跨がりながら手綱を引いていたのである。
そんなアルフェルド皇子を呆然と見上げているうちにアルフェルド皇子は手綱をさばきながら馬を落ち着かせ、そして私に視線を向けてきた。
私はそこでハッと気が付き慌てて顔を下げたのだが明らかに視線が頭上に突き刺さっているのを感じるのだ。
(ううヤバイな・・・)
そう内心焦りながら冷や汗をかいていると、今までに聞いた事の無い低い声のアルフェルド皇子の声が耳に響いてきたのである。
「・・・・・セシリアだな」
その声に私は小さく体を震わせたがそれでも顔を上げず頭を低くさせながら声色を変えて答えた。
「ち、違います・・・わ、わたくしは・・・そのような名前ではございません。きっと人違い・・・」
「私がセシリアを見間違えるわけが無いだろう」
アルフェルド皇子はさらに声を低くすると同時に私の被っていた黒い布を剥ぎ取ってしまったのだ。さらにその時一緒に口を覆っていた布も取れてしまった。
「きゃっ!」
私は小さく悲鳴を上げながら乱れた髪を押さえる為頭に手を乗せ恐る恐るアルフェルド皇子を見上げると、そのアルフェルド皇子は明らかに怒っている様子だったのである。
「ア、アルフェルド皇子・・・」
「・・・何故逃げた」
「っ!」
「私との結婚を認めたのではないのか?」
「そ、それは・・・」
「私を騙したのだな」
「ち、違・・・」
「まあ良い。言い訳は帰ってから聞くとする。だがもう私からは二度と逃がすつもりは無いからな。結婚式まで宮殿の奥深くに閉じ込めて見張りをしっかり付ける事にする。そうすればどうやって知ったかは分からないがこのような間取り図があっても逃げられないだろうから」
そう言ってアルフェルド皇子は懐から一枚の折り畳まれた紙を取り出し私に見せるように広げたのだ。
「っ!!」
私はその紙を見て息を飲んだのである。
何故ならその紙は私が宮殿の間取り図を書いて隠しておいた物だったのだ。
「ど、どうしてそれが・・・」
「マーラが見付けて私の所に報告してきた。その時漸くセシリアが宮殿から居なくなっている事に気が付き、私は急いで兵を引き連れてこの港にやってきたのだ。何故なら必ずセシリアはベイゼルム王国に帰る為にここから船に乗ると思ったからな」
「・・・・」
「さあもう良いだろう、そろそろ戻ろうか」
そうアルフェルド皇子は言うと身を屈ませて私に向かって手を伸ばしてきた。
「い、嫌!私はベイゼルム王国に帰ります!!」
私はそう言いきりながら一歩後ろに下がったのだ。
するとその時私とアルフェルド皇子の間に割って入ってきた人物がいた。正確には人物達である。
(あれ?この人達は・・・)
その割って入ってきた人物達は三人いた。
しかしその姿は私の方からは確認する事が出来ない。何故ならその三人はローブを頭から被っていたからだ。
(あ!さっき見掛けた三人組だ!!)
私はその事に気が付き驚いたが同時に疑問が沸いたのである。
(・・・何でこの人達が割って入って来てくれたんだろう?)
そう思いながらその三人組を見ると、一番背の高い人が先頭に立ちその後ろに二人が並びそして私が一番後ろに立っている状態になっているのだが、それでも馬上のアルフェルド皇子の様子は私から見る事が出来た。
そしてそのアルフェルド皇子がとても険しい表情で三人組を見ている事に気が付いたのである。
「・・・お前達は」
そう険しい表情のままアルフェルド皇子が呟くと一番背の高い人が頭に被っていたフードを外したのだ。
すると黒い髪がその下から現れたのである。
さらにそれに続くように後ろの二人もフードを外したのだ。
そしてその下から金髪と深緑の髪が現れた事で私は驚愕の表情でその三人組を凝視してしまった。
「え?え?ビクトル!?カイゼル!?シスラン!?え?どうしてここにいるのですか!?」
私はそう驚きながらここにいるはずのない三人を驚きながら見回したのだ。
すると三人は揃って顔だけ私の方に向けてきたのである。
「セシリア・・・無事で良かったです」
「姫、心配しておりました」
「・・・本当にお前はトラブルばかり巻き込まれるな」
ホッとした顔のカイゼル、真剣な表情のビクトル、呆れた表情のシスランが私を見ながら声を掛けてきたのだ。
「え、ええ私は無事ですし心配掛けて申し訳ありません・・・と言うかトラブルばかり巻き込まれるってどう言う事ですか!?」
私は目くじらを立てながらシスランを睨み付けたのである。
「・・・カイゼル」
「・・・アルフェルド」
そんな私を他所にカイゼルとアルフェルド皇子が鋭い視線をぶつけ合って睨み合っていた。
さらにビクトルは腰にさしている剣の柄に手を置いていつでも抜ける体勢をとっていたのだ。
するとそんなビクトルの様子に気が付いたアルフェルド皇子の護衛の兵士達も、いつでも剣を抜ける体勢をとったのである。
そしてよく見るとシスランも険しい表情でアルフェルド皇子を睨んでいたのだ。
(何!?何!?この緊迫した雰囲気!?)
私はこの只ならぬ様子に一人オロオロと皆を見回していたのだった。
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