それぞれの想い

 一触即発な雰囲気が漂うこの状況に私は一体どうすれば良いのか困惑していた。




(どうしてこんな事に!?と言うか・・・本当に何でカイゼル達がここにいるの?)




 そんな疑問がどんどん大きくなり私は恐る恐るカイゼル達に声を掛けたのである。




「あ、あの~こんな緊迫した雰囲気で聞きづらいのですが・・・本当にどうしてカイゼル達がここにいるのですか?それもその様な格好で明らかに身分を隠していたみたいでしたし・・・」


「それは勿論セシリアを助けに来たからですよ」


「へっ?わ、私を助ける為に?・・・わざわざこんな異国にまでですか!?どうして・・・」


「・・・それは本気で言ってるのですか?」


「え?」


「・・・私の告白忘れたのですか?」


「・・・・・あ」


「はぁ~私の告白はその程度ですか・・・」


「ご、ごめんなさい・・・でもカイゼルは王太子なのですよ?それなのに・・・」


「愛する人を助けるのに身分など関係無いです」


「っ!!」




 カイゼルの真剣な表情に私はドキッとしてしまったのだ。


 しかしふとそこでビクトルとシスランの方を見た。




「ビクトルはカイゼルの護衛で付いてきたのは分かりますが・・・シスランは何故一緒に来たのですか?そもそも付いてくる理由が無いと思うのですが・・・」


「・・・お前の為だ」


「え?」


「・・・・・お前が・・・大事だからだ」


「大、事?」




 シスランの言葉の意味が分からず首を傾げて不思議そうにシスランの方を見ると、そのシスランは顔を赤らめながら眉間に皺を寄せ不機嫌そうに私を睨んできたのだ。




「ちっ、察しろ!お前の事が好きなんだよ!!」


「え?・・・す、き?誰が誰を?」


「俺がお前をだ!!!」


「え?えええ!?」


「・・・そんなに驚く事か?」


「驚く事ですよ!え?え?シスランが私を!?本当に!?」


「こんな事嘘ついてどうする!!」


「ほ、本当なんだ・・・い、一体いつからですか?」


「・・・・・お前と初めて会った時からだ」


「私と初めて会った時って・・・あのデミトリア先生と一緒に私の家に来た時の事です?」


「ああそうだ」




 私はそのシスランの話を聞いて顔を熱くさせつつ呆然としたのである。




(嘘・・・ここでも死亡フラグ回避して恋愛フラグ立ってたのか・・・)




 その事に気が付き私は額に手を置いてガックリと項垂れた。




「姫・・・お話の腰を折って申し訳ありませんが、私の話も聞いて頂けませんか?」


「ビクトル?どうかされましたか?」


「・・・姫は私がカイゼル王子の護衛として付いてきたと思われたようですが、私は姫をお救いする為自ら志願してやって来たのです。本当なら私一人だけで貴女をお救いしたかった・・・」


「・・・前から思っていたのですが、どうしてビクトルはそこまで私に尽くしてくれるのですか?まあ確かに理由はよく分からなかったですが何故か私に忠誠の誓いを立ててくれましたけれど・・・本来尽くすべき相手は王太子のカイゼルや国王であって私じゃ無いと思うのですよ?」


「いえ、心から尽くしたいと思っているのは姫、貴女です!」


「・・・それって騎士団長として良いのでしょうか・・・」




 ビクトルのキッパリとした言葉に私は頬を引きつらせながら呆れたのである。


 しかしビクトルは真剣な表情で私をじっと見つめ左胸に右手を当てた。




「勿論国王にもカイゼル王子にも私の一番は姫である事はすでにお伝えしております。そしてそれをご了承して頂いた上で騎士団長と言う階級を頂けました。ですので全く問題ありません」


「はぁ~そうなのですか・・・」


「姫・・・・・私はずっと貴女に私の気持ちをお伝えするべきか迷っておりました。しかし・・・姫が拐われ遠くに行ってしまわれたとお聞きした時、私は姫に気持ちを伝えなかった事を激しく後悔し胸が潰れそうになったのです。だから・・・貴女に再びお会い出来た今もう迷いません!」


「ちょ、ちょっとビクトル、な、何か変な事言い出しませんよね?」


「いえ、変な事ではありません!私は・・・初めて姫と出会いました頃からずっと姫の事をお慕い申し上げていました!勿論女性として愛しております!!」


「っ!!!」


「確かに姫からしたらおじさんと言われるほど年は離れてしまっていますが・・・好きな気持ちに年の差は関係無いと私は思っております!」




 そうビクトルはキッパリと言い満足そうな表情で私をじっと見てきたのだ。


 私はそんなビクトルの告白を聞いて顔を熱くさせながら激しく動揺したのである。




(う、嘘でしょ!?シスランに続いてビクトルまで私の事を・・・好き!?あ、あり得ないんだけど!!だって私・・・ヒロインじゃ無いんだよ?あて馬と言う名の恋敵のはずなんですけど!?)




 心の中でそう絶叫し何故か私を好きだと言ってきた攻略対象者達の顔を見回した。




「ね、ねえ、皆さんに確認したいのですが・・・やっぱり本当はニーナの事が好きって事は、ありませんか?」


「ニーナは友達としては好きですが・・・一人の女性としてセシリア、私が心から愛しているのは貴女だけですよ」


「・・・さっきも言ったが俺が好きなのはお前だ。それなのに何故今ニーナの事が好きだと聞いてくる?正直理解出来ん」


「姫・・・ニーナ様の事は護衛対象と言う認識だけでそれ以上でもそれ以下でもありません。私が愛しいと想っておりますお方は姫ただお一人です」




 そう三人に真剣に言われ戸惑いつつじっと黙って事のなり行きを見ているアルフェルド皇子の方に視線を向ける。




「・・・まさか私の気持ちまで疑うのか?散々私の気持ちを行動と共に伝えたが?それに・・・セシリアの事が好きではなければわざわざ私の国まで拐うわけ無いだろう」


「そ、そうですよね・・・」




 アルフェルド皇子の若干不機嫌そうな様子を見ながら頬を引きつらせ空笑いを溢したのだった。




(ニーナごめんなさい!!貴女の恋愛をもしかしたら最初っから妨害してしまってたかも!!でもわざとじゃ無いの!!信じて!!!)




 私は心の中で手を合わせながらベイゼルム王国にいるであろうニーナに向かって必死に謝ったのである。


 しかしそこでハッと気が付いたのだ。




(あ、もしかしたらニーナ・・・レオン王子ルートに入っているのかも。だってここにはレオン王子以外の攻略対象者達が全員集まっているし・・・まあ何故か皆私の事を好きになってくれてるけど・・・でもそれはニーナがレオン王子を選んだから必然的に他の攻略対象者達が私の方にきたのかもしれない。もしかしてこれもゲーム補正ってやつ?正直意味の分からないゲーム補正だけど・・・)




 そう思いながらも一人納得し腕を組んで小さく何度も頷いていたのだった。




「さて・・・そろそろそこの三人はその場から退いて貰おうか」


「・・・退くわけが無いでしょう。そもそも私の婚約者を返して貰いにきたのですから私達はこのままセシリアを連れて帰ります」


「・・・帰すと思うのか?」


「思っていません。ですがアルフェルド・・・貴方はベイゼルム王国の王太子である私の婚約者を無理矢理拐っていかれましたよね?それがどう言う意味か分かっていますか?」


「・・・ああ分かっている。同盟は破棄されるだろうな」


「そうですか、そこまで分かっていての行動ですか・・・それほどまでにセシリアを・・・」




 カイゼルはそう言って小さなため息を溢したのだ。




(・・・・・え?同盟破棄?)




 その聞こえてきた『同盟破棄』と言う言葉に私は何度も目を瞬いてカイゼルとアルフェルド皇子の顔を見たのである。




「では・・・私達が帰らないもしくはセシリアを連れて帰れない場合はベイゼルム王国の軍勢がこの国を攻める事も予想済みなのでしょうね」


「・・・ああ。すでに父上は軍隊を揃えているからな。いつでも迎え撃つ体制はこちらも整っている」




 そうして二人は無表情でお互い鋭い視線をぶつけ合ったのだ。


 しかし私はその二人の話を聞いてさらに困惑しだしたのである。




(え?え?それってもしかしなくても・・・戦争って事!?ちょ、ちょっと待って・・・その原因ってどう考えても私、だよね?嘘、戦争って・・・そんな事が起こったら大勢の人が死ぬって事じゃない!!いやいや、どうしてこんな事に!?私はただ自分の死亡フラグを立たせないように行動してただけなのに・・・それが結果として戦争を引き起こす事になるなんて・・・最悪だ)




 私は自分の頭を抱え俯き自分の行動によって起こってしまったこの事態に激しく後悔していた。


 するとカチャリと言う音が耳に届き私は慌てて顔を上げると、カイゼル、ビクトル、シスランさらには馬から降りたアルフェルド皇子やその護衛の兵士達が剣を抜いて構えていたのである。




「な、何をされているのです!?」


「セシリア、危ないですので少し下がっていてください」


「ちっ、あまり剣は得意じゃ無いが・・・必ず俺がお前を守ってみせる!」


「姫、この命に変えましても貴女をお守り致します!」


「セシリア少しだけ待っていてくれ。すぐに片付けて貴女を宮殿に連れて帰るから」




 そんな事をそれぞれ私に言うとお互い剣を構え直し距離を取っていつでも戦いが始まってしまう状態になってしまったのだ。




(ちょ、ちょっと待ってよ!!そんな剣で戦ったら怪我しちゃうよ!?最悪・・・・・誰か死んでしまう)




 その考えが頭に浮かび私は一気に血の気が引いたのである。


 そして私はそのまま頭で考えるよりも先に体が動きだし今にも戦いが起ころうとしている両者の間に躍り出たのだ。




「だ、駄目ーーーーーー!!!」




 私はそう大声で叫び両手を思いっきり広げ皆を止めたのだった。




「セシリア!危ないから下がってください!!」


「そうだよセシリア!これは男と男の戦いだから女の貴女は勝敗がつくまで大人しく待っていればいい」


「嫌・・・嫌です!!貴方がたの誰かが傷付くのも・・・ましてや死んでしまうのも自分が死ぬ事より嫌なんです!!」




 そう叫び私は何度も大きく頭を横に振ってその場を退く気は無かったのだ。


 そうしているうちに段々と涙が込み上げてきて私の目に涙が溜まりそして溢れだしてしまった。




「セ、セシリア・・・」


「っ・・・ご、ごめんなさい・・・私のせいで・・・こんな事に・・・なってしまって・・・・・」




 戸惑ったカイゼルの声が聞こえてきたが、目から止めどなく溢れる涙によってその表情がよく見えなかったのである。


 私は慌ててその涙を手で拭うが全く止まってくれなかった。


 結局そのまま本格的に泣き出してしまったのだが、その私の耳にカシャンと剣が鞘に納まる音が聞こえてきたのだ。


 そして次に私の頭から何か布が被せられ体を包まれたのである。


 私はその事に驚き涙が止まると被せられた布を涙を拭いながら見たのだ。


 その布は先程までカイゼル達が着ていたローブであった。


 私は戸惑いながら回りを見回すとカイゼル達やアルフェルド皇子達が困った表情で私を見ていたのだ。


 そしてそこでカイゼルがローブを着ていない事にも気が付いたのである。




「ど、どうしたのです?」


「・・・セシリアの泣いている姿初めて見ました。そしてその原因を作った自分の不甲斐なさに呆れているのです」


「へっ?」


「・・・お前でも泣くんだな。と言うか・・・悪かった」


「シスラン?」


「姫、申し訳ありません!貴女を泣かしてしまうなど・・・今すぐ腹を切ってお詫び・・・」


「いえいえ!しないでください!!」


「セシリア・・・すまない。私の身勝手で大切な貴女を泣かせてしまった」


「アルフェルド皇子・・・」




 その明らかに沈んでしまった空気に私は戸惑いながらも、とりあえず剣を納めてくれた事にホッとした。




「皆さん、そんなに落ち込まないでください!もう泣いていませんしそれに・・・私は誰も怪我をされていなくて本当に良かったと思っているんですよ。だって・・・大切な友人である皆さんが仲違いをして戦うなんて・・・嫌です!」




 私はそうハッキリと思った事を言うと、何故か皆はさらに落ち込んでしまったのである。


 そしてカイゼルがポツリと呟いた。




「・・・友人、ですか」


「あ・・・ごめんなさい。その・・・皆さんの気持ちはとても嬉しいのですが・・・正直今はまだ考えられないのです。ですけどアルフェルド皇子!!」


「は、はい」


「無理矢理拐って結婚もどうかと思いますが、さらに同盟を破棄して戦争など以ての外です!!そんな事されて結婚しても・・・私は一生アルフェルド皇子の事を嫌い続けますよ!!」


「っ!!そ、それは・・・嫌だ」


「では同盟を破棄して戦争はされませんね?」


「ああ・・・セシリアに嫌われたくないのでしないよ。父上にはそう伝える」


「ありがとうございます。では・・・次にカイゼル」


「は、はい!」




 満足そうにアルフェルド皇子にお礼を言った私は、次にカイゼルの方を見てビシッと名前を呼んだ。




「アルフェルド皇子がこう言われてますので、ベイゼルム王国からも戦争を起こさないように出来ますよね?」


「いや、しかし・・・セシリアを拐われた事はそんな簡単に・・・」


「私が自ら観光しに来ました!」


「・・・・・はっ?」


「だって、誰も私が城から出る所を見られていないのですよね?でしたら私が自ら出ていったと言う事にしてもおかしくありませんでしょ?」


「そ、そうですが・・・まあ確かにセシリアが拐われたと思いましたのも、セシリアがアルフェルドの部屋に行ってから姿が見えなくなったと言う情報を聞きそこから私が推測しただけですので・・・」


「では私は拐われてはいません!そうすれば、同盟破棄も戦争もする必要ありませんよね?」


「・・・セシリア、貴女はそれで良いのですか?」


「ええ良いです!!」




 カイゼルが苦笑気味に問い掛けてきた言葉に私はにっこりと笑いながら大きく頷いたのである。




「・・・分かりました。私の早とちりだったと報告しておきます」


「カイゼルありがとうございます!」


「くっ、本当にセシリアは面白いな。この状況で二人の王子を丸め込むなんてな」


「・・・シスランそんなに面白い事ですか?」


「いえ、姫が素晴らしい方だと言う事です!!」


「・・・・はぁ」




 シスランが腹を押さえて笑いビクトルは尊敬の眼差しで私を見てきたのだ。


 そうしてなんとか流血騒ぎにならなくて済んだ私達は、その後話し合いそして漸くベイゼルム王国に皆で帰る事が出来たのであった。

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