団長VSお頭

 私は食料庫の中で動かせる物をどんどん動かし苦労しながらもなんとかバリケードを作ってその中に身を潜めた。


 すると再び扉が開きそこから上機嫌のラビが部屋に入ってきたのだ。




「よう待たせたな姫さん!準備が・・・あれ?姫さんは何処に・・・・・ああそこか」




 そう言ってラビは迷うことなく私が張ったバリケードに向かって歩いてきたのである。




(結構重い棚も使って作ったしちょっとでも時間稼ぎが出来るはず!よし、ラビがバリケードを崩しているうちに隙が出来たらダッシュであの開いている扉から逃げ出そう!!)




 私はそう思い逃げ出すタイミングを密かに計っていたのだ。




「姫さん、そんな隠れなくても取って食わ・・・いやそのうち食うか。まあそれは置いといて、準備が出来たからいくぞ」




 そんなラビの声が近くで聞こえたかと思った次の瞬間、大きな音を出して次々とバリケード用に使った物がラビの手で軽々と投げ飛ばされていったのである。




(え?え?そ、それどう見ても数十キロはあるだろう鉄の棚だよ!?いやいや、中身のたっぷり入った樽も片手でポイって・・・ちょっなんて馬鹿力なの!!!)




 まるで全く重さなど感じていないかのようなラビの様子に、私はただただ唖然とどんどん減っていくバリケードを見ていたのであった。


 そうして目の前の物が全部取り除かれた時、漸く私は逃げるのを忘れてしまっていた事に気が付いたのだ。




(ヤ、ヤバイ!!)




 私はそう思い立つと急いで立ち上りラビの脇を通り抜けて扉に向かって走り出そうとした。




「おっと、逃がさないぜ」




 やはりそんな易々と逃がしてくれるわけもなく、私はあっという間にラビに捕まえられてしまったのである。




「は、離して!!!」


「おっと、暴れるなよ姫さん・・・出来れば俺様の大事な嫁さんを傷付けたくないからな。大人しくしてろよ」


「だから嫁になる気は無いって何度も言ってるでしょ!!」


「まあまあ、じゃあ行くか。ちょっと苦しいかもしれないが我慢してくれよ」


「へっ?うわぁ!!」




 ラビは私を軽々と抱き上げるとその肩に荷物を乗せるように私を担いだのだ。




(ま、またこの体勢!?これお腹に結構圧力掛かるから辛いんだけど!!!)




 そう思いながらも暴れないようにしっかりと私の足を前で押さえられている為思うように身動きが取れないのであった。


 そうしているうちにラビは私を抱えたまま片手で梯子を登り地下倉庫から抜け出るとそのまま玄関に向かって歩き出してしまったのである。




「ねえ本当に考え直してよ!私なんて嫁にしても何も出来ないよ?」


「大丈夫大丈夫!分からなければ子分達の嫁さんに聞けば何でも教えてくれるからさ。まあ最初は失敗するのなんて当たり前なんだし俺様は気にしないぜ。それにそんな失敗して困ってる姫さん・・・絶対可愛い!!」




 ラビはそう言いながら一人含み笑いを溢していたのだ。


 私はそのラビの笑い声を聞いて、背中向きに担がれてはいるが容易にそのニヤケた顔が想像が出来たのである。




(何でこんな事に・・・)




 そう心の中で思いながら深くため息を吐いたのであった。


 そうして私がガックリと項垂れて嘆いていると、それを観念したと勘違いしたラビが足取り軽やかに歩きだしとうとう家の外に出てしまったのだ。


 私は先程まで暗い地下食料庫にいた為、外の日差しが眩しく感じてしまい自分の手で影を作りながら回りを見回した。


 どうやら私が閉じ込められていたのは深い森の奥に建てられていた小屋であった事が分かったのである。


 そしてその小屋の近くに沢山の男達が集まっていて、その中心に荷馬車が止まっていた。


 するとラビはその荷馬車に向かってスタスタと歩き出したのだ。




「あ、お頭!」


「おう、待たせてすまんな。俺様の嫁さんがちょっと可愛い駄々をこねていてな、宥めるのにちょっと時間が掛かっちまったんだ」


「お頭~もう顔がニヤケきってますぜ!まあイチャイチャするのはべつに良いですが・・・出来れば俺達の見えない所でお願いしますよ!」


「ああ分かってるって。・・・そのうちまだ嫁さんのいないお前達にも可愛い嫁さん見付けてやるからさ」


「頼みます!」




 そうしてラビと男達は一斉に楽しそうな笑い声を上げたのである。




「さて姫さん、ちょっと窮屈だろうが暫くこの荷台に入っててくれよな。さすがに姫さんのその見た目は目立ちすぎるからさ。それに・・・他の野郎に見せたくねえし」




 そう言ってラビはニヤリと笑いながら開けた扉から私を荷台の中に座らせるように下ろしたのだ。




「・・・だからそもそも私は行かないと言ってるのでしょうが!!!」




 私はそう叫ぶと同時に両足を一気に突き出し丁度荷台の高さにあったラビのお腹を力強く蹴ったのである。




「うごぉ!!」




 ラビはそんな呻き声をあげ私が蹴ったお腹を押さえてその場で踞った。


 そして回りの男達はそんなラビと私を呆然とした表情で見ていたのだ。




(よし!今だ!!!)




 私はそう判断するとすぐに荷台から飛び降りまだ踞っているラビの横を通り抜けると急いで森に向かって駆け出したのである。




「くっ・・・お、お前達何をボーッとしている!早く姫さんを捕まえねえか!!ただし絶対怪我させるんじゃねえぞ!!」


「へ、へい!・・・姐御!!待ってください!!!」


「私を姐御と呼ぶな!!!」




 ラビに怒鳴られた男達が必死に私を追い掛けながら姐御と呼んできた事に私は逃げながら男達に怒鳴り返していたのだった。




(何処かの村かせめて人に会って助けを呼んで貰えるまで逃げないと!!)




 私はそう思いながらも捕まらないように木の間を潜り抜けながら全力で走ったのだ。


 しかし所詮は女の足。さらに運動などはダンスぐらいしかやっていなかった為すぐに息が上がってしまった。


 そしてそんな私に追い付くなど盗賊を生業にしている男達には造作もなくあっという間に囲まれてしまったのである。




「ほら姐御、いい加減観念してください」


「だから姐御と呼ぶな!」


「まあまあ、それにお頭あんな言葉遣いだけど意外と面倒見が良くて頼れる人なんですぜ!」


「俺達お頭に凄く世話になったんだ、だからお頭には幸せになって欲しいんだよ!!」


「姐御、とりあえず試しで良いからお頭の嫁さんになってみてはいかがですかい?」


「それに・・・あのお頭への一撃最高でした!!是非とも俺達の姐御になって欲しい!!!」




 そんな言葉を次々に私に浴びせてくる男達に私は段々たじろいでしまったのだ。




「さすが俺様が惚れた姫さんだ!もうこいつらに慕われているじゃねえか」


「ラビ!!」




 男達の囲いを開けてそこからニヤニヤと楽しそうに笑っているラビが現れたのである。




「もう動けるの!?」


「まあちょっと痛かったが、あれぐらいすぐに動けるさ。さあもう大人しく荷馬車に乗ってくれないかな?さすがに縛られて連れていかれたく無いだろう?」


「い、嫌・・・」


「なら大人しく・・・」




 そう言ってラビが私に手を伸ばしながら近付いてきたのだ。




「嫌!!誰か助けて!!!」


「姫!!!」


「・・・え?」




 私が助けを求める叫び声をあげた時、聞きなれた声が近くで聞こえその声に驚いていると突如私の回りにいた男達が次々に吹き飛ばされていった。


 その突然の出来事に困惑しているとぐいっと誰かに引き寄せられてしまったのだ。




「え?え?」


「姫!お怪我はございませんか!?」




 そんな必死な声が頭上から聞こえ私は恐る恐る顔を上げると、そこには心配そうな黒い瞳で私を見つめているビクトルの顔があったのである。




「え?ビクトル!?どうしてここに居るのですか!?」


「それは勿論姫を助けにきたからです!それよりもどこかお怪我は?」


「い、いいえ。大丈夫です」


「それは良かった・・・」




 ビクトルは私の言葉を聞いてホッとした顔になり、私をさらに強く抱きしめてきたのだ。




(・・・抱きしめて?って・・・私ビクトルに抱きしめられてた!!)




 私はそこで漸くビクトルに片腕で肩を抱かれながら胸に抱きしめられている事に気が付いたのである。


 まさかビクトルがそんな事をしてくるとは思っていなかったので私は激しく動揺し落ち着かなくなっていた。


 するとそんな私達の近くにラビは目を据わらせながら抜き身の短剣を持って近付いてきたのだ。




「黒髪に黒い瞳・・・お前がビクトルか。だがおい、いい加減俺様の姫さんを離さねえか!」


「・・・『俺様の姫さん』?」


「ああ、まあ俺様の嫁さんって言っても良いがな」


「『嫁さん』?」




 私を庇いながらラビを睨み付けていたビクトルがラビの言葉を聞き、眉間の皺を増やしながらゆっくりと私の方を見てきたのである。




「あ~何故か盗賊の首領であるあのラビに気に入られてしまったらしく・・・私を嫁にすると言い張っているんです。私は何度も断っているんですけど・・・」


「そんな恥ずかしがらなくても良いって姫さん」


「恥ずかしがってないから!もういい加減私の話を聞いて!!」




 性懲りもなくまだ言ってくるラビに私はそう訴えたのだ。




「・・・姫はお前になどやらん」


「あぁ?」


「お前にやるくらいなら私が!!」


「・・・なるほどね~。だが誰が相手でも欲しいものは力ずくで奪うのが俺様の流儀だからな。いいぜ相手になってやる」




 ラビはそう言うと体勢を低くして危険な揺らめきを瞳に宿した。




「お頭・・・」


「お前達は手を出すなよ。怪我した他の奴を連れて下がっていろ」


「・・・へい」




 そうして男達はビクトルによって倒された男達を連れて下がっていったのだ。




「・・・姫、少し離れて待っていてください。すぐに終わらせてきますから」


「ビクトル・・・」




 ビクトルはそう言って私を離し後に行かせたのだが、さすがに私は不安になってきた。


 何故なら先程見たラビの馬鹿力を思い出していたからである。




(ビクトル大丈夫かな?いくらビクトルが強いと言ってもラビもああ見えて盗賊団の首領だし・・・)




 そんな不安を抱いているうちに二人は剣を構えてにらみ合いそして次の瞬間戦いが始まってしまった。


 まず先に動いたのはラビで、一気にビクトルとの間合いを詰め懐に入り込むと素早く短剣を振り上げたのだ。


 しかしその動きにビクトルもすぐに反応し後に飛び退ると、返すようにビクトルがラビに向かって持っていた剣を振り下ろした。


 だがラビもそのビクトルの剣捌きに反応し横に転がるようにその剣先をかわしたのである。


 そうして暫く私の目の前で激しい戦いが繰り広げられたのだ。




(す、凄い!ゲームでは戦っているスチルと描写だけだったけど目の前でこんな迫力のある戦いを見る事になるなんて!!でも・・・出来れば誰も怪我なくこの場を治めたいな・・・)




 私はそう思いながらも下手に手を出して大事故に繋がってはそれこそ大変なのでどうにか早く決着がつかないか祈っていた。




「うぉぉぉぉ!!」


「なっ!?」




 突然ラビが雄叫びをあげながら近くの大木を掴み地面から引き抜いてビクトルに投げたのである。


 さすがのビクトルもそのラビの行動に驚いていたがすぐさま剣を構えその飛んできた大木を一刀両断で叩き斬ったのだ。


 しかしそんなビクトルの行動を読んでいたのか、真っ二つに割れた木の間からビクトルの眉間に向かってラビの放った短剣が飛んでいたのである。




「くっ!」




 ビクトルは間一髪でその短剣を避けると短剣はそのままビクトルの後ろの木に突き刺さってしまった。




「ちっ」




 そして武器の無くなったラビの喉にビクトルが剣先を向けたのだ。




「私の勝ちだ。降参しろ」


「・・・殺さねえのか?」


「姫に血を見せるわけにはいかないからな。お前達は全員捕縛し近くの街の警備に突きだす」


「くっ・・・」




 そうして漸く二人の戦いは終わり私はホッと息を吐いた。


 しかしその時、私は微かにラビの口許が上がった事に気が付いたのだ。


 私はその表情に違和感を感じふとラビが投げた短剣に視線を移すとそこにキラリと光る物を見付けたのである。


 そしてそれに気が付いた瞬間、私は急いでビクトルの方に駆け出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る