イベント発生!?
あれから何日も掛けていくつかの祠を回った。
そうしてとうとう最後の祠となり私達はその場所に向かう為、山道を馬車に揺られながら登っていたのである。
「・・・この旅ももうすぐ終わりですね」
「そうですね。長かったような短かったような・・・」
「でも私セシリア様方と一緒に旅が出来て本当に楽しかったです!」
「私もよニーナ」
私達はそうしてお互いにっこりと笑い合ったのだ。
「俺も文献では得られなかった文化に触れられたからな、とても有意義な時間だった」
そう言って私の隣に座っているシスランが眼鏡を押し上げながら満足そうな顔で頷いていたのである。
その時馬車がゆっくりと止まり扉が軽く叩かれ外からビクトルが声を掛けてきた。
「皆様、丁度休憩に良い場所にきましたので少しここで休憩を取りましょう」
ビクトルの言葉を聞いて窓の外を見てみると、確かに先程までずっと続いていた森から抜けて開けた草原に出ていたのだ。
私はその景色を見て確かに凄く休憩するには気持ちの良い場所だと思ったのである。
そうして私達は馬車から降りて休憩する事になった。
(う~ん!風が気持ちいい!!空気が美味い!!)
背伸びをしながらその自然を感じ回りを見回すと、草原の少し先がなだらかな坂になっておりさらにその先に小さな湖がある事に気が付いたのだ。
私はチラリと回りを見て、皆がそれぞれ話をしていたり休憩の準備をして忙しそうにしているのを確認すると静かにその場を離れた。
そしてそのなだらかな坂まで一人でやって来るとその場所にゆっくりと座ったのである。
(やっぱり予想した通り、ここから座った眺め最高!!たまには一人で景色を眺めるのも良いね)
お城にいた時は一人になれる時間が多かったが、さすがに旅の間は常に誰かと一緒にいる事が多かったのでちょっと息抜きがしたかったのだ。
そうして私は一人の時間を満喫しつつボーっと眼下に見える湖を眺めていると後で草を踏みしめる音が聞こえた。
「あら、ビクトルに見付かってしまいましたね」
「姫・・・黙って一人でいなくならないでください。心配致しました」
「ごめんなさい・・・ちょっと一人の時間が欲しかったので」
「そうでしたか・・・お邪魔して申し訳ありません。それでしたら私は去った方がよろしいですね」
「あ~ううん、ビクトルに見付かったって事は他の人に見付かるのも時間の問題ですしべつにここにいて良いですよ。あ、なんでしたら隣に座りません?」
「いや、しかし・・・」
「だってビクトル、この旅の間全然休まれていませんよね?でしたら少しぐらい休んでください!」
「・・・・分かりました。では失礼致します」
そう言ってビクトルは私と少し距離を開けた位置に腰掛けたのだ。
「どうです?ここの景色良いと思いませんか?」
「・・・確かに。私はこの開けた場所でしたら何かあってもすぐに対処出来ると考えてここを選んだのですが・・・このような景色がある事に気が付きませんでした」
「ふふ、まあビクトルらしいと言えばビクトルらしい考えですよね。でも今は少しだけでもこの景色を眺めて休んでくださいね。その間私も付き合いますから」
「・・・ありがとうございます」
そうして暫く二人で黙って景色を眺めていたら、ボソッとビクトルが話し出したのである。
「・・・私の領地もこのように美しい景色があるんですよ」
「え?ビクトル、領地を持たれていたのですか?」
「はい。団長に就任させて頂いた時に小さいですが一つ領地も頂きました」
「へぇ~そうだったんですね。知りませんでした」
「最近は忙しくて領地の様子を見に行けていないのですが・・・ニーナ様の護衛役の任期が終わってから一度見に行こうかと思っています・・・姫、もし宜しければその時一緒に私の領地を見に来られませんか?」
「・・・ええ行けそうでしたらその時に是非。正直私もビクトルの治めている領地見てみたいです。しかしビクトルが領主ならきっと素敵な場所なんでしょうね」
私はそう言ってビクトルに向かってにっこりと作り笑顔で微笑んだのであった。
(・・・ニーナの任期後か・・・その時私が無事だと良いんだけど・・・)
そう心の中で思っていると、ふとビクトルの懐に白い物が見えたのである。
「あれ?ビクトル、その白い物は何ですか?」
「ん?ああこれですか・・・」
ビクトルは私の視線に気が付いて懐からその白い物を取り出したのだ。
「これは私のお守りなのです」
「これは・・・」
私はその見せられた物に見覚えがあったのである。
それは一部赤黒く汚れてはいるが元は真っ白いハンカチでありさらに綺麗な薔薇の刺繍が施されていた。
「もしかして・・・あの時私がビクトルの手の怪我に結んだ物ですか?」
「はい。そうです」
「これがお守りって・・・」
「私にとっては何物にも変えられない大事なお守りです」
ビクトルはそう言ってとても大事そうに胸に当てたのである。
「っ!」
そのビクトルの様子を見て私はなんだか落ち着かなくなったのだ。
(いや~!なんか私が抱き締められているみたいな錯覚が!!!イケメンのその行動は反則だよ!誰が見てもドキドキするから!!)
私はドキドキする心臓をなんとか誤魔化しながらビクトルに話し掛けたのである。
「そ、そこまで大事にして頂けてありがとうございます。でも・・・恋人が出来た時はさすがにそれは止めた方が良いですよ」
「・・・・」
「だって・・・普通に考えれば、他の女性から貰った物をお守りだと言って大事にしていたら彼女の方は嫌な気分になると思いますよ」
そう私は苦笑いを浮かべながらビクトルに言うと、何故かビクトルは真剣な表情でじっと私を見つめてきたのだ。
そしてビクトルは私の方に向き直るとハンカチを持ったまま私の手を握ってきたのである。
「でしたら・・・他の女性からと言う状態でなければ良いのでは?」
「え?」
「・・・・・私は昔からあったこの気持ちが何なのか分からず、ずっと戸惑っていたのですが・・・今ハッキリと分かりました!姫、私は・・・」
「セシリア!どこに居ますか?休憩の準備が整いましたよ?」
何かを告げようとしたビクトルの言葉の途中で突然遠くからそんなカイゼルの声が聞こえると、ビクトルはハッとした表情になり慌てて私の手を離してハンカチを懐に仕舞い立ち上がった。
「・・・ビクトル?」
「・・・今はまだお伝えする時ではありませんでした。しかし、今よりももっと相応しい地位まで登り詰めてみせます!ですから・・・まだカイゼル王子との結婚を待って頂きたい!」
「え?あ~まあビクトルが何を言いたかったのかは分かりませんが、正直私はすぐに結婚するつもりはありませんよ?それにカイゼルも、もしかしたら別に気になる方が出来るかもしれませんし」
「そうですか・・・それを聞いて安心致しました。ではカイゼル王子がお呼びですので戻りましょう」
ビクトルはそう言うと爽やかな笑顔を浮かべて私に手を差し出してきたのだ。
私はビクトルの様子がなんだか変だったのが気になったが、それでも話す気が無いものを無理に聞くつもりも無かったのであまり深く考えず、そのビクトルの手を取って立ち上りカイゼル達が待っている場所まで戻っていったのであった。
休憩を終え再び出発すると、私はボーっと窓の外を眺めながら一人考え事を始めたのだ。
(ん~そう言えば・・・特に今まで何も考えていなかったけど、この聖地巡礼の行事イベントって何か恋愛系イベントって起こらなかったっけ?)
私はそう思い前世でやったゲームの記憶を思い出していたのである。
(・・・あ!そうそう盗賊イベントだ!!確か馬車に乗ってる時に盗賊が襲って来て・・・各攻略対象者に助けられるイベントだったよね!ん?でも確かあれって・・・裏でゲームのセシリアがその盗賊達を雇って襲わせたんだった。そして当のセシリアである私は当然そんなの雇っていない・・・・・あ、今回イベント無しだ)
その事実に気が付き私は呆然としたが、まあそれでも私はわざわざイベントを起こす為だけに盗賊を雇う気などさらさら無かったので、まあ良いかとこの盗賊イベントの事を忘れる事にしたのだ。
そうして私達は最後の祠に到着し問題なくニーナがお祈りを終えると漸く王都に帰国する事になったのである。
そして無事に全ての祠を回りきれた安堵感と長旅の疲れが溜まっていた事で私達は完全に油断していたのだ。
それは少し薄暗い森の中を進んでいた時に起きたのである。
突然ガタリと音を出して馬車が急停車した。それと同時に外から争う声と金属が激しくぶつかり合う音が聞こえてきたのである。
「一体何が!?」
カイゼルが驚きの表情で言い扉に近付いた時、外からビクトルが焦った声で中に話し掛けてきたのだ。
「カイゼル王子!盗賊の襲撃です!!」
「盗賊!!」
「はい!ですのでカイゼル王子はそのまま中でお二方をお守りください!」
「分かりました。ビクトルも気を付けてください」
「はっ!」
ビクトルが返事を返したあと再び金属音が響き渡り私とニーナは青い顔で身を縮め、カイゼルは真剣な表情でいつでも剣を引き抜けるように柄に手を置いていた。
(え?え?何で盗賊が現れるの!?私雇っていないよ!?)
私はそう気が動転しながら外から聞こえる剣同時がぶつかる音にビクビクと震えていたのである。
するとその時、突然扉が開き盗賊が一人乗り込もうとしてきたのだ。
「させません!!」
カイゼルの素早い剣さばきによってその盗賊の男は馬車の外に投げ出された。
だがすぐに次の盗賊達が襲ってきて狭い馬車の中でカイゼルは上手く立ち回れず苦戦していたのだ。
「お前が噂の『天空の乙女』だな!来い!」
そんな盗賊の声と共に盗賊の一人がニーナの腕を掴んで外に引っ張り出してしまったのである。
「きゃぁぁ!!」
「「ニーナ!!」」
私とカイゼルは咄嗟にニーナの名前を叫び、さらに私はニーナに向かって手を伸ばしたが届かなかった。
カイゼルは残っていた盗賊を叩き出し急いでニーナを助けに外に飛び出したのだ。
「セシリアは絶対外に出ないでください!」
「は、はい!」
私の返事を聞いたカイゼルはすぐに扉を閉め急いで駆けていったのである。
その様子を窓から覗き見ていると、カイゼルが見事な剣さばきでニーナを捕まえていた盗賊を倒しニーナを助け出したのだ。
「よ、良かった・・・あ!アルフェルド皇子やシスランは大丈夫なの!?」
私はすぐに窓から後ろにいるはずのもう一台の馬車の方を見ると、そこにはテオやダグラスと共に戦っているアルフェルド皇子やシスランがいたのである。
(・・・アルフェルド皇子はともかくシスランも結構強いんだ!あれならあっちは大丈夫そうだね。それに・・・やっぱりビクトルは強い!!)
視線をビクトルの方に向けると、大勢の盗賊をたった一人で対峙しながらも余裕の表情で次々倒していたのだ。
そんなビクトルの様子に感心していると、御者台から悲鳴が聞こえてきた。
私は慌ててその声が聞こえてきた方を見ると、御者が蹴り落とされる光景が目に入ったのである。
「なっ!?」
「くそ!この警備数なら余裕だと思ったのにこんなに強いなんて計算外だ!!だがせめて王太子の婚約者だけでも拐っていかないとお頭に殺される!!」
そんな盗賊の声が聞こえたと同時に馬車が激しく動き出したのだ。
「え!?ちょっ!!待って!!」
私のそんな叫びなど聞いて貰えるはずもなく、馬車は猛スピードで森の中を突き進んでいってしまった。
その激しい揺れに私は立っている事が出来ず、ただ必死に椅子に掴まっている事しか出来なかったのである。
「セシリア!!」
そんな遠くから私の名前を誰かが叫んでいる声が微かに聞こえたが、私はそれを確認出来る程余裕は無かったのだ。
(わ、私一体どうなっちゃうの!!!)
そんな叫びを心の中で叫んでいたのであった。
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