聖地巡礼

 王都を出発してから半日程馬車に揺られ漸く最初の祠に到着した。


 そこは森の中にひっそりと佇んだ白い祠であったが、代々管理をする者がいるらしく綺麗に整備されていたのである。


 私達はその祠の扉を開けビクトルを先頭に中に入ると、小さな祭壇が目に入ってきた。


 そしてその祭壇の後ろに祈りを捧げるように両手を組んでいる女神像が備えられていたのだ。




「綺麗・・・」




 私は思わずその女神像を見つめながらそう呟いていた。




(確かにゲーム画面でも女神像は描かれていたけど・・・実物はこんなに綺麗なんだ!!うわぁ~来て良かった!!)




 そう私は思いながら美しい女神像にただただ感動していたのである。




「本当に綺麗ですね・・・」




 ニーナのそんな呟きが聞こえてきたので、私はチラリとニーナやカイゼル達の方を見ると皆もこの神秘的な女神像をじっと見つめていたのだった。


 そうしてそのまま誰一人言葉を発しずただ静寂がこの場を支配していたのだが、ニーナがハッと気が付き慌てて祭壇の前まで移動すると、その場で立て膝をつき両手を組んで目を瞑り女神像に向かって祈りを捧げたのである。




「女神様・・・どうか人々の平和をお見守りください」




 ニーナはそう願い真剣に祈りを捧げていた。


 私はそんなニーナの後ろ姿を見つめていたその時、祠の隙間から突然光が射し込みニーナに降り注いだのだ。




(うわぁ~!ニーナ綺麗!!まるで天使みたい!!あ~やっぱりニーナは巫女が似合うな~!!さすがこのゲームのヒロイン!この姿を見てときめかない男性はいないでしょう!!)




 そう思いチラリと攻略対象者達の様子を伺い見たのだが、何故かカイゼルは私の方ばかりを見ながらニコニコしているし、アルフェルド皇子とシスランは女神像を指差しながら話をしているし、ビクトルに至っては祠の入口の方を警戒していて全くニーナを見ていないのだ。


 私はそんな男性陣の様子に心の中で激しく動揺したのである。




(ええ!?何で誰もニーナを見ないの!?ニーナは貴方達にとって恋愛対象でしょ?それにそもそもこの旅に付いてきたのはニーナの事が気になっているからだよね?)




 そんな事を思いながら驚愕の表情でカイゼル達を見回していると、お祈りを終えたニーナが小走りに私の方に駆け寄ってきた。




「セシリア様、終わりました!」


「あ、ご苦労様です。それにしてもニーナのお祈り姿凄く神秘的で綺麗でしたよ」


「え?そ、そうですか?・・・セシリア様にそう言って頂けて私、凄く嬉しいです!」




 私は先程のニーナの姿を思い浮かべながら素直な気持ちを微笑みと共に伝えると、ニーナは両頬に手を添えながら嬉しそうにはにかんだのだ。


 そんな可愛らしい反応のニーナに私は心の中で身悶えていたのだが、そんなニーナを見ても何故か男性達の反応は思わしくなかったのである。


 その全く予想外の反応に私が戸惑っているうちにそろそろ出発する事になった為、とりあえず私は馬車に戻る事にした。


 しかし馬車に戻る途中カイゼルが私に近付きガッチリと腰を掴んできたのだ。




「へっ?カイゼル?」


「さあセシリア、馬車に乗りましょう」


「え?いや、カイゼルは先程乗ったので・・・」




 カイゼルのその行動に困惑している私をそのままグイグイ歩かされどんどん馬車に近付いていった。


 そうしてカイゼルに促されたまま馬車に乗せられそうになったその時、そのカイゼルの肩にポンと手が置かれたのである。




「カイゼル・・・何を当たり前のようにそのまま馬車に乗り込もうとしている?次は私の番だぞ?」


「・・・流されてくれませんでしたか」


「当たり前だ!」




 カイゼルの肩に手を置き目を据わらせているアルフェルド皇子を見て、カイゼルは残念そうな顔で小さくため息を吐いたのであった。


 そしてカイゼルは渋々といった様子で私の腰から手を離し一歩下がると、すぐにアルフェルド皇子がその場を入れ替り私の腰に手を回して馬車に乗るのを促してきたのだ。




「・・・アルフェルド、セシリアは私の婚約者だと言う事を忘れないようにしてくださいよ」


「・・・分かっている」




 私に続いてアルフェルド皇子が乗り込もうとした時、カイゼルはそのアルフェルド皇子に向かって鋭い眼差しで忠告したのだった。


 そうして先に乗っていたニーナの苦笑い顔に迎えられながら漸く次なる目的地に向かって出発する事が出来たのである。




「・・・アルフェルド皇子、どうして私の隣に座られているのですか?」


「何か問題でも?」


「いえ、そこまで問題では無いのですが・・・ニーナの隣の方が良いのでは?と思いましたので・・・」


「どうせカイゼルはセシリアの隣に座っていたのだろう?」


「ええまあ・・・カイゼルにもニーナの隣を勧めたのですが、婚約者の隣に座るのは当然と笑顔で言われてしまいましてもう何も言えなくなってしまったのです」


「では私も客人としてセシリアの隣に座っても問題ないね。セシリアは宰相のご令嬢なのだから国の客人をもてなしてもらわないと」


「うっ・・・ねえニーナ、もし貴女がアルフェルド皇子の隣に座りたいと思っているのなら場所変わりますよ?」


「いえ、むしろ私もセシリア様の隣が・・・」




 私は半分助けを求めるように向かい側に座っているニーナに話し掛けたが、ニーナは不満そうな顔でじっと私を見てきたのだ。




「それだったら私がニーナの隣に・・・」


「セシリア、動いている馬車の中での移動は危ないよ」




 ニーナの言葉に私は立ち上がってニーナの隣に移動しようとすぐに腰を浮かしたのだが、そんな私の腰を素早くアルフェルド皇子が掴み再び座らされてしまった。


 さらに立ち上がれないようにしっかりと腰に手を回されてしまったのだ。




「ニーナ、申し訳ないがセシリアの安全の為このままにさせてもらうよ」


「・・・・・はい」




 アルフェルド皇子の言葉にニーナは渋々頷いたのである。




(いや、私の身の安全の為って・・・べつに腰に手を回さなくても良いと思うんだけど・・・って、確かカイゼルもなんだかんだ理由を付けられてずっと腰に手を回されていたんだった・・・私、そんなに危ないかな?)




 私はそう呆れながらも、もうどうでも良いと諦めそのまま大人しく座る事にしたのであった。


 そうして暫く馬車に揺られ途中宿で一泊してから次なる祠に到着したのだ。


 そこは岬の上に建てられた祠で、その場所からは広大に広がる海が見渡せたのである。




「うわぁ~!海!!広い!!素敵!!」




 目の前に広がるコバルトブルーの海に感嘆の声を上げていると、その私の隣にシスランがやってきた。




「・・・俺も資料では読んだ事があったが、実際の海を見るのは初めてだ。凄いな」


「私もこんなに綺麗な海を見るのは初めてです!だって昔見た海はもっと濁って・・・」




 私はそこでハッと気が付き言葉を止めたのだ。何故ならその昔見たと言うのは前世で見た海で、ゴミが多くあまり綺麗とは言えない海の事だったからである。




「昔見た海?セシリアは前にも海を見た事があったのか?」


「う、ううん!今思い出したらあれ夢で見た海でした。夢と現実を間違えていたみたいです」




 そう言って苦笑いを浮かべなんとか誤魔化したのだ。




「・・・まあたまに夢が現実のように錯覚する事はあるからな。俺も何度お前の夢を見て・・・」


「私の夢?」


「いや、なんでもない!!」




 シスランが言葉を止めた事を不思議がり問い返すと、何故かシスランは顔を赤くしてそれ以上教えてくれなかったのである。




(・・・一体シスランの夢で私はどんな恥ずかしい事をしていたんだろう?)




 私はそう不安に思ったが、多分聞かない方が幸せのような気がして追及する事はしなかった。




「そう言えば・・・この海の向こう側にある大陸は確か・・・」


「ああ、私の国がある大陸だよ」




 シスランが海を見つめながら呟くと、そのシスランの隣に立ち同じ様に海を見つめながらアルフェルド皇子が答えたのだ。




「ああそう言えばそうでしたね。この海の向こうにモルバラド帝国があるんでしたよね」




 私はそう言いながら設定資料集の中に載っていた地図を思い出していたのである。




「さすがはセシリア、よくご存知で。ちなみに私は国から船に乗りあそこに見える港街で降りたんだよ」




 アルフェルド皇子はにっこりと私に微笑みながら少し離れた場所に見える港街を指差したのだ。


 確かにその街は海に面しておりここからでも見える程沢山の船が停泊していた。




「あそこはこのベイゼルム王国の貿易の要の一つであるランデーンと言う港街です」




 今度はカイゼルがそう言いながら私の隣に立ってきたのだ。




「そうなんですね」


「ああそうそう、この後あそこで休憩がてら昼食を取る事になっているらしいですよ」


「まあ!では海鮮料理が食べられそうですね!!」


「ふふ、あそこの海鮮料理はどれも絶品ですので楽しみにしていてください」


「楽しみです!!・・・あれ?カイゼルはあの街に行った事があるのですか?」


「ええ、視察で何度かありますよ」


「ああそう言えば、時々公務で出掛けられていましたね」




 私はその時の事を思い出し納得したのである。




「では私、女神像に祈りを捧げてきますので皆様はここで少し待っていてください」


「あら、私も付いて行きましょうか?」


「いいえ、すぐ終わりますので一人で大丈夫です!では行ってきますね」


「は~い。行ってらっしゃい」




 そうしてニーナは祠に入っていきその後ろを護衛役のビクトルも付いていったのだった。


 そして少しして祈りを終えたニーナが戻ってきたので、さっそく皆でランデーンの街に行くことになったのである。


























「あ~ニーナ美味しかったですね!」


「はい!特に魚介がふんだんに使われていたパエリヤが絶品でした!」


「うんうん分かります!あとシーフードサラダも新鮮で美味しかったですよね」


「最高でした!」




 私とニーナは店を出てからも興奮した面持ちで二人で味の感想を言い合っていたのだ。




「そんなに喜んで貰えて良かったです。視察の時にこの店の料理を食べてからいつかセシリアにも食べさせてあげたいと思っていましたので」


「カイゼル、紹介してくださってありがとうございます!」


「いえいえ、また食べたくなりましたら私が連れてきてあげますよ。・・・その時は二人っきりでですが」


「あ~まあ大勢だと目立ってしまいますもんね」




 そう言ってチラリと街の人達を伺い見ると、遠巻きに私達を興味津々といった顔で見ていたのである。




(・・・まあこんなきらびやかで美形だらけの集団がいたら、そりゃ私でも一体何だろうと見ちゃうもんね)




 街の人達の視線を感じながら敢えて気にしないようにしているのであった。




「・・・・・そう言う意味ではないのですがね」


「え?ではどう言う意味ですか?」


「・・・いえ、気になさらないで良いですよ」


「はぁ・・・」


「二人共、いつまでも話してないで行くよ!」


「あ、アルフェルド皇子ごめんなさい。今行きます!」




 カイゼルの言葉の意味が分からず戸惑っていると、すでに先を歩いていたアルフェルド皇子に急かされてしまったので私達は慌てて追い掛けたのである。


 私達はこのランデーンで休憩がてら街を散策する事になったので皆で固まって街の中を歩いていた。


 さらに警備も必要最低限の人数だけにしてもらい物々しい雰囲気を抑えてあるのだ。


 そうして私達は街の景観を楽しみながら港に向かって歩いていたのだが、私はそこである露店の前でテオとダグラスが並んで商品を見ている事に気が付いたのである。




(あら、あそこはアクセサリーを売ってるお店だね。あ~なるほど家で待っている愛妻へのお土産を選んでいるんだ)




 私は二人の真剣な表情でネックレスを手に取り、相談している様子を見て微笑ましい気持ちになったのであった。


 そんな二人を残し私達は港までやって来ると、そこに停泊している様々な船を見て大きく目を瞠ったのだ。




「近くで見ると船凄く大きいですね!それに形や色もそれぞれ違うし・・・壮観です!」


「ちなみにあそこで停泊している船が私の国の貿易船だよ」


「うわぁ~大きいですね!」




 アルフェルド皇子が指差した先にある船は他のどの船よりも大きく立派であった。


 さらに忙しなく荷物を運んでいる船員も明らかにアラブっぽい服装と褐色の肌をしていたのである。




「私の乗ってきた船はあれよりさらに大きいよ」


「そうなんですか!?それは見てみたいです!」


「ふふ、そうそう今私の国で私の離宮を作らせているのだが、完成したらセシリアを招待するつもりなのでその時乗せてあげるよ」


「・・・行けるかは分かりませんが、もし行けたらその時はよろしくお願いしますね」


「ふっ、私としては是非とも乗って貰うつもりでいるのだがな」




 そう言ってアルフェルド皇子はいつもの妖艶な微笑みを浮かべながらニヤリと笑ったのだ。


 そんなアルフェルド皇子の笑みを見て、何故だか背中にゾクリと悪寒が走りそのよく分からない感覚に私は戸惑ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る