優しい手
「ではあまり長居するとセシリアの体に負担を掛けてしまうからこれで失礼する・・・」
「セシリア!噴水に落ちたと聞きましたが大丈夫なのですか!?」
アルフェルド皇子が退出の言葉を言っている最中に突然扉が開き、そこからカイゼルが慌てた様子で駆け込んできたのである。
「ちょっ、カイゼル!?ノック、ノックをしてください!!」
「すみません、急いでいたのでそんな暇ありませんでした!ですが今はそんな事よりも体の方はどうなのです?辛くはありませんか?」
「大丈夫!大丈夫ですから!カイゼル落ち着いてください!!」
カイゼルは必死な形相でベッドの脇まで来ると、私の手を両手で握りしめ落ち着きなく私の顔を覗き込んできた。
さすがにそんなカイゼルの様子に若干引いてしまった私は、顔を後ろに仰け反らせながらも困惑の表情でカイゼルを宥めようとしたのである。
しかしカイゼルはそれでも私の顔にずいっと顔を近付け、私の顔色を確かめようとしたのだ。
「顔色は・・・少し悪いように見えますね。医師には診てもらったのですか?」
「いえ、すぐにお風呂に入りましたのでもう大丈夫ですよ!」
「しかし・・・」
「カイゼル・・・心配なのは分かるが、セシリアには安静が一番なのだからそろそろ離れてあげたらどうだ?」
そう言ってアルフェルド皇子がカイゼルの肩を掴み私から引き剥がしてくれたのだが、そのカイゼルはアルフェルド皇子の方を振り向いて険しい表情になった。
「・・・・・アルフェルド、聞いた話では貴方が一緒にいたそうですね。それなのにセシリアをこのような目に遭わせて・・・」
「すまない。それは私の完全な落ち度だ」
アルフェルド皇子は辛そうな表情でカイゼルに頭を下げたのである。
「ちょっ!アルフェルド皇子は全く悪くありませんよ!!私が勝手に不注意で転んで噴水に落ちただけですから!!」
「だが、アルフェルドならセシリアが噴水に落ちる前に助けられたはずです!」
「そ、それは私が悪いのです!私が先に転びそうになった所をアルフェルド皇子が助けてくださったので、そのせいでアルフェルド皇子はセシリア様をお助けする事が出来なかったのです!ですから私の責任です!!」
「ニーナ・・・」
カイゼルがアルフェルドを冷たい眼差しで見ていた所にニーナが割り込み、今度はニーナがカイゼルに向かって深々と頭を下げて謝ったのでカイゼルが困った表情でそのニーナを見つめたのだ。
「・・・はぁ~分かりました。まあ一応報告で詳細は聞いていましたからね。私も少し動揺し過ぎました。ですので二人共頭を上げてください」
「カイゼル・・・」
「カイゼル王子・・・」
「ですが、次にセシリアに何かありましたら・・・分かりますよね?」
「っ!あ、ああ」
「は、はい!気を付けます!!」
頭を上げた二人に対してカイゼルがとても黒い笑顔を向けると、二人は顔を強張らせて深く頷いたのであった。
私はそんな三人の様子を見て頬をひくつかせながらなんだか頭が痛くなってきたのである。
するとその時、再び扉が激しく開きそこからシスラン、レオン王子、ビクトル、レイティア様が慌てて入ってきたのだ。
(あんた達もか!!!)
私はそう心の中で思いながらも、この後起こるであろう慌ただしさにさらに頭が痛くなった。
「おいセシリア!自分で噴水に入ったって?なに馬鹿な事してるんだ?」
「いや、自分から入ってませんよ・・・」
「セシリア姉様・・・いくら暖かくなってきたからと言って服のまま噴水に入るのは僕でも真似できないかな」
「いや、ですから私から入ったわけではないんです!」
「姫!くっ、私が側に付いていなかったばかりに姫の身に危険が!!」
「そんな危険な事では無かったのでそこまで落ち込まないでください!!」
「はぁ~セシリア様・・・水に濡れたそのお姿、出来ればお近くで見たかったですわ」
「レ、レイティア様?一体何を言ってらっしゃるのですか?」
それぞれの反応に私はいちいちツッコミを入れながら私は小さくため息を吐き、そして本格的に頭が痛くなってきてしまったのだ。
しかしそんな私の様子に気が付かない四人が一斉に詰め掛けてきたのである。
さらにその四人に混ざるようにカイゼルやアルフェルド皇子、ニーナまでもが一緒に押し掛けてきたのでさすがの私もその勢いにたじろぎ始めたのだ。
(いやいやいや!そもそも皆さんここ私の寝室だって事忘れてないですか!?そして私、今寝間着なのであまり近付かないで!!うぅぅ・・・本当に頭痛い。それになんだか寒気が・・・)
私がそう感じ困惑の表情を浮かべながら自分の体を無意識に抱きしめていたその時、ダリアがスッと私と皆の間に割って入り鋭い視線を皆に向けたのである。
「申し訳ございません。皆様が騒がれた事でセシリア様が体調を崩されたご様子ですので、どうぞお引き取りくださいませ」
そのダリアの言葉に皆が驚き一斉に私の方を見てきたのだ。
そしてじっと私の顔を見つめた後、お互いの顔を皆が見合うと黙ったまま頷き合いそのまま扉に向かって歩いて行ってしまった。
「セシリア、騒がしくしてしまい申し訳ありません。私達はこれで失礼させて頂きますのでどうぞゆっくり休んでくださいね。ですがもし辛くなるようならすぐに医師を手配させますので遠慮なく言ってください」
カイゼルがそう真剣な顔で言うと他の皆もその意見に同意するように頷きそして全員扉から出ていったのである。
私はそのあっという間の出来事に呆気にとられながらダリアの方を向いた。
「・・・ねえダリア、私そんなに体調悪そうに見えました?」
「ええ、今も顔色がよろしくありません・・・少々失礼致します・・・ああやはり少し熱がありますね。すぐにお休みください!」
ダリアに強く言われすぐに布団を被せられた私は、確かに少し体調が悪くなってきているのを感じたので大人しく寝る事にしたのだ。
しかし結局その後熱が上がってしまいダリアの手配で医師が呼ばれたのだが、どうやら今までの色々なストレスやら疲労が蓄積されて熱が出てしまったようだと診断されてしまった。
そうして医師から薬を処方され、今晩安静にしていればすぐに熱は下がるだろうと言われたのである。
そして飲んだ薬が効いたのかぐっすりと熟睡していたのだが、深夜薬が切れてきた事で熱が上がり寝苦しくなったのだ。
「う~ん、う~ん・・・」
私は熱さで苦しくなり唸り声を上げていた。
するとその時、額に乗せていたタオルが外され代わりに何かヒヤリとした物が乗せられたのである。
(あ、冷たくて気持ちいい・・・)
そう朦朧とする意識の中で感じた感覚にゆっくりと目を開けると、ぼやけた視線の先にカイゼルの顔が見えたのだ。
暗い部屋の中でカイゼルは私のベッドの端に腰掛け身を乗り出して私の額に手を置いていたのである。
「ああすみません。起こしてしまいましたか」
「・・・カイゼル?」
「ええ、こんな時間に失礼だと思いましたが・・・セシリアの事が心配になりましたので・・・すぐに出ていきますね」
そう言ってカイゼルは私の額に乗せてくれていた手を外そうとしてきたのだ。
しかし私は咄嗟にその手を掴みそのまま額に押し当てた。
「セシリア!?」
「・・・もう少しこのままでお願いします。だって・・・カイゼルの手は冷たくて気持ちが良いのですから」
「っ!・・・分かりました。ですが・・・他の特に男性にはそのようなお願いはしないでくださいね」
「・・・どうしてです?」
「私が嫌だからです」
「?」
カイゼルの言葉の意味がよく分からずボーとカイゼルを見つめていると、カイゼルは何故か私を見ながら苦笑いを浮かべたのだ。
「今は何も考えず眠ってください。貴女が寝付くまで側にいますから」
そう言ってカイゼルは優しく微笑みそして空いてる方の手で私の頭を撫でてくれた。
その心地よさに私の目は段々と閉じていきそして眠りに落ちていったのである。
「・・・セシリア、おやすみなさい」
深い眠りに落ちる寸前、そんな優しい声で囁くカイゼルの言葉と一緒に額に何か柔らかい物が押し当てられた感覚を感じたような気がしたが、もうその時にはそれが何かも考えられない状態だったのだ。
そうしてその後は特に寝苦しくなる事もなくぐっすりと朝まで眠る事が出来たのだった。
「完・全・復・活!!」
そうベッドから身を起こし誰もいない寝室で一人ガッツポーズをとりながら元気よく言ったのである。
するとその声に気が付いたのかダリアが慌てて寝室に駆け込んできたのだ。
「セシリア様!?」
「あ、ダリアおはようございます」
「お、おはようございます・・・セシリア様お体の方はいかがですか?」
「すっかり元気になりましたよ。心配かけてごめんなさいね」
「いえ、それよりもお元気になられて本当に良かったです」
そう言ってダリアはホッとした表情を浮かべたのである。
「あ、そう言えば夜中に・・・」
私は何気なくカイゼルが夜中にこの寝室に来た事をダリアに話そうとしてハッとある事を思い出し慌てて口を噤んだ。
(そうだった!お兄様にカイゼルを夜部屋に入れては駄目だと散々言われていたんだった!いけないいけない、このままダリアに話していたらきっとお兄様の耳にも入ってしまう・・・なんか言わない方が良い気がするんだよね)
そう私は思い苦笑いを浮かべていたのである。
「夜中にどうかされたのですか?」
「う、ううん、何でも無いです」
「そうなのですか?」
私が頭を振って誤魔化すと、ダリアは不思議そうな顔をしながらもそれ以上聞かないでくれたのだ。
「じゃあ朝の身支度を整えてから朝食を食べますね。もうお腹空いてしまって」
「食欲があるようで良かったです。ではすぐにご朝食をご用意致します」
そう言ってダリアは控えていた侍女達にテキパキと指示を出し、その侍女達に身支度を整えてもらった私はすっかり元気になった状態で1日を始める事にした。
そして朝食を終えた私は軽く城内を散歩する事にし一人で廊下を歩いていたのだ。
するとある部屋の前で一人の男性が開け放った扉の中に向かって軽く頭を下げながら笑顔を向けていたのである。
「ではそのように手配致します」
「うん!よろしくね!」
その扉の中からそんな明るい声が聞こえてきたので、私は場所を少し移動してその声がした方をよく見たらそこには男性と話をしているレオン王子がいたのだ。
私はそこで漸くその部屋がレオン王子の私室である事に気が付いた。
(そう言えば私、レオン王子の部屋って来た事無かったな~)
そんな事を思っていると、去っていく男性を見送ったレオン王子が私の存在に気が付きいつもの小悪魔的な笑顔で私に手を振って駆け寄ってきたのである。
「セシリア姉様!おはよう!!」
「レオン王子、おはようございます」
「もう体は大丈夫なの?」
「ええ、お陰さまですっかり良くなりましたよ」
「それは良かった~!・・・それでセシリア姉様は今は何をしてるの?」
「体を慣らす為に少し城内を散歩していました」
「ふ~ん、そうなんだ・・・あ、そうだ!良かったら僕の部屋に来ない?」
「え?でも・・・」
「せっかくだから僕のコレクションの鉱石をいくつかセシリア姉様に見せたいんだ~!」
レオン王子はそう言ってキラキラした目で私を見つめてきたのだ。
「・・・分かりました。じゃあ少しだけお邪魔させて頂きますね」
「わ~い!やった!!」
そうして大喜びしているレオン王子に手を取られそのまま部屋に連れていかれたのだった。
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