趣味の部屋

 私はレオン王子の案内で初めてレオン王子の私室に足を踏み入れた。




「うわぁ~さすがレオン王子の部屋ですね!色んな鉱石が一杯あって素敵です!!・・・ああなるほど、産地ごとに並べているのですね!」




 そんな感嘆の声を上げながら興味津々に部屋の中を見回したのだ。


 レオン王子の部屋には壁際に大きな棚が沢山並んでおり、その棚の中には色とりどりの鉱石が綺麗にディスプレイされていた。




「ありがとう!やっぱりそんな事言ってくれるのセシリア姉様だけだな~」


「そうなのですか?」


「うん。大概の人は確かに綺麗だとは言ってくれるけど、産地ごとに置いてるなんて気が付いてくれないんだよね。さらに兄上なんてさすがに集めすぎですよって呆れた顔で言ってくるんだよ~!」




 そう言ってレオン王子は頬を膨らませて不服そうな顔をしたのである。


 そんなレオン王子の顔を見て私は思わず口を手で隠しながら吹き出してしまった。




「ふふ、レオン王子は今年15歳になられて立派な成人式を終えられたばかりだけど・・・全然変わりなくて安心しました。だって・・・まだまだ子供だと思っていた方が急に大人になってしまったらきっと私、戸惑ってしまったと思いますから」


「・・・・」




 私は昔と変わりないレオン王子の様子になんだか嬉しくなって微笑んでいたのだが、何故かそのレオン王子は私の言葉を聞いて黙りこんでしまいどこか不機嫌そうな顔でじっと私を見つめてきたのである。




「レオン王子?」


「・・・僕はもう子供じゃないよ」


「あ、気を悪くさせてしまいましたか・・・ごめんなさい。確かに成人したばかりのその年齢はまだまだ複雑ですものね・・・」




 レオン王子の不機嫌の理由に気が付き私は慌てて謝ったのだ。




(正直前世でアラサーと言う大人を経験してる身としては15歳ってまだまだ子供に見えるんだよね。でも確かに前世でも15歳ってなかなか難しい年頃だったな~。まだまだ遊びたい気持ちと大人ぶりたい気持ちが複雑に絡まっていたんだよね・・・)




 私はレオン王子に謝りながらも自分の前世での出来事を思い出していたのだった。




「・・・・・早くセシリア姉様に大人の男として意識させたい」


「え?何か言われましたか?」


「うんん、何でもないよ。さあこの話はこれぐらいにして、セシリア姉様にちょっと見て欲しい物があるんだ」


「見て欲しい物?」


「うん!とりあえずここに座って!」




 レオン王子はいつもの笑顔になり私の手を引っ張って机の前の長椅子に座らされたのだ。


 そしてそのレオン王子は一度別の部屋に行きすぐに戻ってきたのだが、手には筒状に丸めてある紙を持っていたのである。




「見て欲しいのはこれなんだ~」




 そう楽しそうにレオン王子は言うと、私の隣に座り机の上にその紙を広げて見せてくれた。




「これは・・・間取り図のように見えるのですが?」


「うん、そうだよ!」


「え~っと・・・何処のでしょう?」


「実は僕のコレクションを飾る鉱石部屋を作ろうと思っているんだ」


「ああ、そうなのですね」


「まだまだ欲しい鉱石はあるんだけど、さすがにそろそろ置き場所に困っていたし飾りきれてないのもあるから専用の部屋を増築する事にしたんだ」


「あ!もしかして先程の男性は・・・」


「うんそう!建築士だよ。色々僕の要望に応えた設計図を作ってくれるんだ」


「へぇ~」




 私は感心した声を上げながらその間取り図をじっくり眺めたのだが、その中に気になる部分を見付けて不思議そうな顔でその部分を指差したのだ。




「・・・トイレとお風呂も付けるのですか?」


「うん!さらにここにベッドを置いて眠る事も出来るようにするんだよ」


「なるほど・・・趣味の寛ぎ部屋にするのですね」


「そう言う事!それでセシリア姉様にはこの間取り図を見て何かこうした方が良いとか意見を聞かせて欲しいんだ」


「私の意見ですか?」


「やっぱり女性視点の意見も参考にしたいからさ」


「ん~私としてはレオン王子が住み心地が良いと思われればそれで良いと思うのですけど・・・まあ一つ意見を言わせて頂くとすれば、このベッドを置く予定の配置と鉱石を置く予定の備え付けの棚の位置関係がちょと・・・多分ベッドをここに置いた方が綺麗に鉱石を見る事が出来るのではないですか?」


「・・・本当だ!全然気が付かなかったよ!!ありがとうセシリア姉様!」




 そうして嬉しそうにお礼を言ってきたレオン王子は、ペンを持ってきてさっそくその間取り図に私の意見を書き込んでいったのである。




「あとはどこかある?」


「いいえ、これで良いと思いますよ。しかし・・・とても素敵な部屋になりそうですね。私もここで寛ぎたい程ですよ!」


「じゃあ完成したら一番にセシリア姉様を招待するね!!」


「本当ですか?わぁ~今から楽しみです!!」




 私は手を合わせて喜んだのだが、そんな私をレオン王子がニコニコとした笑顔で見つめていたのだ。


 しかし私は、その間取り図を見た時から何か頭に引っ掛かりを感じていた事をこの時あまり深く考えなかったのであった。


 そうしてさらにレオン王子から、何故か私の好きな鉱石やら色を散々尋ねられた後そろそろ退出する事になったのである。




「セシリア姉様ありがとね!凄く参考になったよ!!」


「いえ、あまりお役に立てなかったと思いますよ。でも早く完成すると良いですね。ではこれで失礼致します」


「は~い!また遊びに来てね!」




 私がペコリとお辞儀をすると、レオン王子はいつもの笑顔で手を振って見送ってくれたのだ。




「・・・・・ふふ、セシリア姉様の為に急いで作らせるから・・・楽しみに待っててね」




 レオン王子の部屋からだいぶ離れたのにまだレオン王子が私に向かって手を振っていたので、私は苦笑しながらもう一度軽く頭を下げたのだが、その時レオン王子の唇が小さく動いていた事もその笑顔が何だか恐ろしいものに変わっていた事にも私は気が付いていなかったのであった。






























 噴水イベントから数日が経ち、私は再びお父様に呼び出され会議室にやって来たのだ。


 するとそこにはニーナを始めいつものメンバーが集まっていたのである。


 私はこの集まりを見てどうもニーナ関係のお話だとすぐに察した。


 そして私の予想通りすぐにお父様と共に司祭が部屋に入ってきたのだ。




「え~本日皆様にお集まり頂きましたのは『天空の乙女』であるニーナ様の聖地巡礼についてお話させて頂くからです」


「聖地・・・巡礼ですか?」




 その司祭の言葉にニーナが戸惑いの声を上げたのである。




「はい。代々『天空の乙女』に選ばれた巫女は各地に奉られている女神像にお祈りを捧げる儀式があるのです。それを聖地巡礼と言います」


「そうなのですか・・・」




 司祭の説明にニーナは頷きながらも不安そうな表情をしていたのだ。


 しかし私はその司祭の言葉を聞いて一人心の中である場面を思い出していたのである。




(ああ・・・そんなイベントあったあった!確かこのイベント期間は王宮から外に出て暫く旅をする場面になるんだよね。だけどこのイベント・・・お披露目パレードで選んだ男性と一緒に行く事になってたはずなんだけど・・・何故か私が選ばれちゃってるからこの場合どうなるんだろう?)




 私はお披露目パレードでの出来事を思い出しながら、この後の展開を黙って見守る事にしたのだった。




「分かりました。精一杯務めを果たさせて頂きます」


「さすがニーナ様!では宜しくお願い致します」


「はい!しかし・・・そのお話だけでしたら皆様をこちらに集められる必要は無かったのではないのですか?」


「いえ、これからが大事なお話なのです」


「大事なお話ですか?」


「・・・実はこの聖地巡礼に行かれる際、巫女であるニーナ様と同行していただく方が必要なのです」


「そうなのですか?」


「はい。それもその同行して頂く方は・・・あのお披露目パレードでパートナーを務められた方となっているのです」


「え?それでは私とご同行して頂ける方は・・・セシリア様ですか!?」




 ニーナは目を見開き若干頬を染めながら嬉しそうな表情で私の方を見てきたのである。




(やっぱり私か・・・)




 私は心の中でそう思い、誰にも気が付かれないように小さなため息を吐いた。




「・・・はい。本来であればセシリア様となるのですが・・・いくら護衛をお付けするとは言え女性二人と言うのは何かと危ないかと思われまして、ラインハルト様と協議をしました結果今回だけ特例としてもう一度ニーナ様にお相手を選んで頂く事となりました」


「え・・・」




 その司祭の言葉に見るからに残念そうな表情でニーナが落ち込んでしまったのである。


 そんなニーナの様子に司祭は戸惑い同じく戸惑いの表情をしているお父様と顔を見合わせた。


 正直私もそこまで落ち込まなくてもと思いながら、ちらりと他の皆の様子を伺い見ると何故か皆は苦笑いを浮かべていたのである。




(あれ?なんか皆このニーナの反応が予想出来ていたような反応だな・・・)




 そう思っているとニーナはまだ暗い表情のまま小さく司祭に向かって頷いたのだ。




「分かりました・・・そのような理由でしたらとても残念ですが諦めます。でもセシリア様以外は私にはお選びする事が出来ませんので、司祭様に選んで頂いた方と一緒に行かせて頂きます」


「そ、そうですか・・・では今回はカイ・・・」


「あ~私が行っても構いませんよ?」




 私は司祭がカイゼルと言う前におずおずと手を上げて名乗りをあげたのである。


 だってあんな悲しそうにしているニーナの顔を見てしまっては声を上げないわけにはいかなかったからだ。




「セシリア!?何を言っているんだ!!聖地巡礼と言うのは暫く王都から離れ辺境の場所を旅する事になるんだぞ?そんな場所に大事な私の娘であるセシリアを行かせられるわけはないだろう!!」


「・・・・・もしかして、今回のパートナー変更案はお父様が言い出したのですか?」


「うっ・・・それは・・・」




 私の胡乱げな視線と言葉にお父様は言葉を詰まらせ狼狽え始めた。


 そんなお父様の様子を見て私は大きくため息を吐くとキッとお父様を睨み付けたのである。




「お父様!私を心配して下さった事は大変嬉しいのですが、そもそもお父様はこの国の宰相なのですよ?そんな身分の方が率先して私情で決まりをねじ曲げてしまっては駄目じゃないですか!」


「うぅ・・・すまないセシリア」


「分かって下さったのならそれで良いです。では私が同行する事で問題ありませんよね?」


「いいえ、大いに問題あると思いますよ」


「え?カイゼル?」




 私とお父様の間にカイゼルが割り込みいつもの似非スマイルを浮かべながら私に近付いてきた。




「セシリア、確かに決まりを私情で変えてしまうのは良くない事ですが、それでも私はラインハルト公の心配はよく分かりますよ。しかし決まりは決まりなので、セシリアがニーナのパートナーとして聖地巡礼に行かれるのは仕方がないと思います。ならば代わりにセシリアの婚約者である私もこの旅に同行させて頂く事にしますね」


「・・・は?カイゼルも一緒に行かれるのですか?」


「ええ、一応これでも剣術には自信がありますので護衛よりも近くで貴方やニーナを守ってあげられますよ」


「ですけど・・・」


「ラインハルト公、それでしたらどうでしょう?」


「・・・まあそれでしたら」




 カイゼルは私の反論を聞く前にさっさとお父様の方を見て許可を取ってしまったのだ。


 その相変わらずのカイゼルの様子に肩をガックリと落としながらも私は諦める事にしたのだった。




「ではニーナ、改めてよろしくお願いしますね」


「あ、はい!こちらこそよろしくお願い致します!!・・・セシリア様!私ご一緒出来る事になって凄く嬉しいです!!」


「あ、うん。私も嬉しいですよ。暫くの間よろしくお願いしますね」




 ニーナの嬉しそうな顔を見て私はまあ良いかと思ったのだ。


 しかしその時、今まで黙っていた人達が声を上げてきたのである。




「カイゼルの同行が許されたのなら、私も同行させて欲しいな。その聖地巡礼に大変興味があるんだ」


「それなら俺も各地に奉られている女神像を見てみたい。きっと後々の知識の糧となりそうだからな」


「あ~!兄上ばかりズルい!僕も僕も行く!!」


「セシリア様とご一緒に旅・・・そんな美味しい状況わたくしも行きたいですわ!!」


「カイゼル王子・・・姫やニーナ様の事は護衛隊長の私一人でも十分お守り出来ますのでお任せ下さい」




 アルフェルド皇子、シスラン、レオン王子、レイティア様、ビクトルがそれぞれ騒ぎだしこの場は一時騒然としだしたのだ。


 しかしその後の話し合いの結果、この国の王子二人が同時に国を空けては駄目だと言う事でレオン王子は留守番となり、さすがに女性が三人になるのも問題なのでレイティア様も留守番となったのである。


 そうして不満そうな二人を残し結局当初よりも大所帯で聖地巡礼に向かう事になったのであった。

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