衣装合わせ

「ではニーナ様、どなたを選ばれますか?」


「・・・・」


「もしお選び出来ないようでしたら・・・カイゼル王子にその役をお頼みしようかと思っていますが如何でしょう?」


「司祭様・・・本当にどなたでもよろしいのですか?」


「ええ、構いませんよ」




 その司祭の言葉を聞いたニーナはゆっくりと私達の顔を見回しそして私に視線を止めるとにっこりと微笑んだのである。




「私、セシリア様にお願いしたいです!」


「・・・え!?」




 まさかのご指名に私は驚きの声を上げて驚愕の表情になったのだが、何故か驚いているのは私一人だけであったのだ。


 司祭様は先程から変わらないにこにことした表情を維持していたし、お父様はさすが私の娘だと言わんばかりの自慢気な顔をしていたのはこの際置いといて、カイゼル達の表情が私は不思議でたまらなかったのである。


 何故ならカイゼル達男性陣は皆やっぱりと言った呆れた表情をしており、レイティア様は腕を組んで目をつむり当然と言った表情で何度も頷いていたのであった。




(何だろう?この私だけ分かっていなかった雰囲気は・・・)




 その皆の反応に困惑していると、いつの間にかニーナが私に近付き両手を組んで懇願の表情を私に向けてきたのだ。




「セシリア様・・・駄目ですか?」


「うっ!・・・本当に私で良いのですか?こう言う役は男性の方が良いような気がするのですが・・・」


「私はセシリア様が良いんです!」


「・・・・・分かりました。ニーナのお願いですし引き受けさせて頂きますね」


「セシリア様、ありがとうございます!!」




 私は仕方がないと諦めニーナのお願いを引き受ける事にしたのである。




(しかし・・・この場合誰のルートに入ったんだろう?そもそもゲームにはセシリアと言う選択肢は無かったからな・・・う~ん、よく分からないけど今悩んでもどうにもならないしとりあえず今はお披露目パレードに集中するか~)




 そう私は気持ちを切り替えてお父様から当日の細かい説明を受けたのであった。




「・・・・・と言う感じで、当日はニーナ様とセシリアが屋根のない馬車に一緒に乗り込み街中をパレードする形になります」


「分かりました。セシリア様当日は宜しくお願い致します」


「ええ、私こそ宜しくお願いしますね」




 私とニーナはお父様の説明を受けお互いに頷き合ったのである。


 するとそこに司祭がにこにことした笑顔でニーナに話掛けてきたのだ。




「ニーナ様、当日の御衣装は神殿側でご用意致しますのでこのあと衣装合わせに神殿にお越しください」


「あ、はい。分かりました」


「では、セシリアの衣装は私が用意致しましょう」


「え?カイゼル?」




 司祭の話を聞いて何故かカイゼルが楽しそうな笑顔を浮かべながら私に近付いてきたのである。




「ならばその衣装に使う生地は私が用意しよう」


「それは助かります。アルフェルドの用意して下さる生地はどれも上質ですからね」


「じゃあ僕はお勧めの鉱石でアクセサリー作って貰うよ!」


「レオン、当日までに間に合うのですか?」


「大丈夫!僕の知り合いの腕の良い職人に頼めば間に合うよ!!」


「ではお願いします」


「なら俺は・・・・・靴でも贈ろう」




 暫し思案してから言ったシスランの言葉にカイゼルが苦笑いを溢した。




「・・・どうしてもシスランも関わりたいのですね。良いでしょう。衣装合わせの時にその衣装に合う靴を選んでください」


「・・・分かった」


「では私は姫の為に最高級のハンカチをお贈り致します」


「・・・ビクトル、さすがに私もセシリアにハンカチばかり送るのはどうかと思いますよ?」


「しかし・・・私はハンカチ以外姫に贈った事がありませんので、他の物が思い浮かばないのです」


「・・・分かりました。ではビクトルにはハンカチをお願い致します」


「ありがとうございます」


「それではわたくしはセシリア様とニーナを飾る素敵なお花を当日までにご用意致しますわ!」


「それは女性であるレイティア様にお任せすると安心ですね。宜しくお願い致します」


「お任せ下さい!!」




 そうして何故か当人の私を放っておいて勝手に私の衣装の事で皆が盛り上がっていたのである。




(いや~あの~私にも確認して欲しいな・・・だけどこの様子だと最悪ニーナより目立つ衣装が用意されそうだ。さすがにそれは民衆が混乱してしまうのでは?ただでさえ女性が二人で馬車に乗ってるから・・・・・あれ?そうだよね?馬車に女性が二人乗ってたらまだニーナの事を分かっていない民衆は絶対混乱するよね!?でも今さら男性陣の誰かに変えてとはとても言えないし・・・・・そうだ!あれなら良いかも!!)




 私はある考えが頭に浮かび、いまだに楽しそうに話し合っているカイゼル達に向かって声を掛けたのだ。




「ごめんなさいカイゼル!私の衣装の件せっかくですがお断りします!!」


「え?セシリア!?」


「それから、少し思うところがありますのでこれから暫く実家に帰らせて頂きます!」


「なっ!?ちょっと待って下さいセシリア!実家に帰らせて下さいとは・・・」


「あ、ごめんなさい。急いでいますのでこれで失礼致しますね!!」




 そうして引き留めようとしてくるカイゼルを無視して私は皆に一礼すると急いで会議室から出たのである。


 そしてその足ですぐに用意してもらった馬車に乗り込むと実家に戻ったのだ。




「セ、セシリア!?一体どうしたの!?」


「お母様、ただいまです」


「お、お帰りなさい。だけど・・・いくら時々は帰って来てと言いましたがこんなに早く帰って来るとは思わなかったわ。何かあったの?」


「実は私、お母様にお願いがあって帰ってきたんです」


「私にお願い?」


「はい。そのお願いと言うのは・・・・・」




 すると私から考えてきた事を聞いたお母様は驚きに目を瞠ったのである。


 しかしすぐに真剣そうな顔で考え込みそして頷いてくれたのだ。




「分かったわ。滅多にしないセシリアのお願いですもの!私が最高の物を用意してあげるわ!!」


「お母様、べつに最高の物じゃなくても良いですからね」


「いいえ!せっかくのセシリアの晴れ舞台ですもの!!素敵な物を用意するわ!!」




 そうしてすっかりやる気満々になったお母様の手筈で当日までに希望の物が用意されたのであった。




























 お披露目パレード当日─────。


 私はお城の一室でパレードに着る衣装を身に付け姿見の鏡で自分の姿を確認していた。


 その鏡に映っている私の姿は黒を基調とし金の刺繍が美しく施された男性用の正装を身に纏っており、さらにいつもはそのまま下ろしている髪を後で一つに束ねていたのだ。


 その姿はどう見ても男装の麗人にしか見えないのである。




(・・・いや~本当にお母様、張り切って仕立て屋に頼んだからこれはこれで凄い豪華な衣装になってしまったな~。まあでも本当は最初の段階ではさらに色々ゴテゴテ装飾が付けられる予定だったから・・・まだマシになった方か。でもこれでパッと見『天空の乙女』がどっちか分かりやすくなったでしょう)




 そう思いながら鏡を見ていると、その鏡に映り込んで見える私の衣装の着付けを手助けしてくれた侍女達が、皆惚けた表情で頬を赤らめている事に気が付いた。


 実はこの状態は実家でもよく見掛けたのだ。


 何故なら実家で出来上がった衣装を試着した時に、お母様を始め居合わせた侍女達や仕立て屋の職人男性まで同じような顔で私を見ていたのである。


 私はその時の事を思い出し苦笑いを浮かべながら鏡に映る自分の姿を最終チェックしていた。


 するとその時、ノック音の後にカイゼルが部屋に入ってきたのだ。




「セシリア、準備が出来たと・・・」




 カイゼルは笑顔を浮かべつつ部屋に入り私を見てそのまま固まってしまった。




「セシリア姉様!どんな衣装・・・」




 続いて入ってきたレオン王子もカイゼルと同様私を見て固まる。




「どんな素敵な姿に・・・」




 アルフェルド皇子も同じ風に固まった。




「おい、一体入口で立ち止まって何を・・・」




 扉付近で固まってしまった三人に険しい表情を向けながら入ってきたシスランも私を見て固まってしまう。




「皆様どうされたのです!?もしや姫に何か・・・」




 続々と立ち止まってしまう人達に慌てた様子で部屋に入ってきたビクトルも私を見て固まったのである。




(あ、なんだかこれ・・・面白い!!)




 そんな皆の反応に私は段々楽しくなっていたのであった。


 しかし次に入ってきたレイティア様が私の姿を見て驚きの表情になり頬を染めながら両手を頬に添えたのだ。




「きゃぁ~!!セシリア様素敵ですわ!!!!!」




 そんな悲鳴にも似た叫び声を上げたレイティア様は、興奮した様子でとても喜んでいたのである。


 するとそのレイティア様の声に漸く我に返った五人が信じられない物を見たかと言う表情で戸惑っていたのだ。




「セシリア・・・その格好は一体どうしたのです?」


「今日の衣装です」


「今日の衣装って・・・何故男性用を着られているのですか?それに・・・どう見てもわざわざ作られたようですし・・・」


「ええ、お母様にお願いして作ってもらったのです」




 そうキッパリと私が言うと、カイゼルは困惑した表情で他の男性達の方を見た。




「・・・どう思われます?」


「さすがセシリア姉様・・・」


「まさかセシリアがこのような衣装を選ぶとは・・・私はもっと美しいドレス姿だと思っていたのだが・・・」


「相変わらずセシリアの行動は俺の予想の遥か上を行くな・・・」


「姫が・・・姫が・・・」




 そんな様々な反応にさすがの私もこれはやり過ぎたのかもと不安になったのである。




「・・・似合わないですか?」


「いいえ!セシリア様!!とてもとてもお似合いですわ!!!あちらの男性方の言葉などお気になさる必要はございませんわ!正直わたくしもご同行致したいほどですもの!!」


「レイティア様、ありがとうございます。だけどさすがにそれは無理ですので・・・」


「ええ勿論分かっていますわ!ですから代わりにしかりと目に焼き付けておきますわ!!」




 そしてレイティア様はその言葉の通りにじっくりと私の姿を上から下まで見回したのだ。


 するとその時、控え目に扉が叩かれそこからニーナが顔を覗かせてきたのである。




「皆様ここにいらっしゃった・・・」


「ニーナ!早く入っていらっしゃいな!!セシリア様の素晴らしい姿を見なくては損しますわよ!!」


「・・・まあ!!一瞬どなたかと分かりませんでした!!!セシリア様凄く素敵です!!!」




 レイティア様に促され部屋に入ってきたニーナは、私の姿を見て一気に頬を上気させ興奮した面持ちになったのだ。


 しかし私は逆にニーナの姿を見て驚きに目を瞠った。




(うぉぉぉぉぉぉ!!!ニーナ凄く可愛い!!!真っ白なヒラヒラフワフワの巫女衣装凄く似合っているよ!!!これなら攻略対象者達も見惚れるよね!!)




 歩く度にふわりと揺れる軽めの衣装にニーナの可愛らしさがさらに際立っていたのである。




「ニーナこそ凄く可愛いですよ!!これなら誰が見ても一発で『天空の乙女』だと分かりますね!」


「ありがとうございます」


「皆もニーナのこの姿、素敵だと思いますよね!?」




 私は興奮した面持ちで男性陣の方を見たが、しかしどうも私が思っている反応ではなかったのだ。




「ええニーナの姿はとても素敵だと思いますよ。しかしセシリアを見た後では衝撃が・・・」


「うん、セシリア姉様を見た後だと普通に感じるね」


「私もニーナよりセシリアに目が行ってしまう」


「セシリア・・・さすがにそれは印象強すぎだ。俺には何も言えんからな」


「姫・・・ニーナ様に申し訳ありませんが姫しか目に映りません」




 そんな言葉を男性陣から返されてしまったのである。




「・・・ニーナ、なんだかごめんなさいね。今からでも衣装変えてきましょうか?」




 さすがにこれでは駄目なのかもと思った私はニーナにそう言うと、今度はニーナとレイティア様が凄い勢いで私に迫ってきたのだ。




「いいえセシリア様!是非ともその姿でお願いします!!!」


「わたくしも断然その姿を希望致しますわ!!!」




 そうして私は男性陣の微妙な反応と女性陣の凄い推しに戸惑っているうちに時間がきてしまい、結局このままの姿でお披露目パレードに参加する事になったのであった。

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