お披露目パレード
私とニーナは豪華に飾り付けられた馬車に乗り込み並んで椅子に座った。
すると私達の用意が整ったのを見計らって馬車がゆっくりと動き出したのである。
そしてその馬車を取り囲むように馬に乗った騎士達も一緒に進みだした。
勿論その騎士の先頭にはビクトルが立派な黒馬に乗っている。
そうして私達はカイゼル達に見送られながら城から街中に向かって進んで行ったのである。
暫くして街中にまで来ると、すでに沿道には沢山の人々が詰め掛け私達に向かって手を振ってくれていたのだ。
そんな人々に私達は手を振り返し笑顔を向けたのである。
すると至るところから歓声が上がり皆嬉しそうな顔をしてくれたのだ。
「皆さん凄く喜んでくれていますね」
「そうでしょうね。だって数十年ぶりの『天空の乙女』が選ばれたのですから」
「・・・正直私まだ不安だったのです」
「どうしてです?」
「お城にいる時はセシリア様方が色々良くして下さっていましたし、それのお陰で他の貴族の方々にも一応は認められてはいましたけど・・・街の皆さんの反応はどうなのかは分からなかったからです」
「なるほど・・・でも、ちゃんと認められているみたいで良かったですね」
「はい!凄く嬉しいです!!」
そう言って本当に嬉しそうに笑うニーナを見て私も嬉しくなったのである。
そうして私達は再び人々に手を振っていると、その人々から様々な声が聞こえてきたのだ。
「巫女様とても可愛らしい方だ」
「本当にそうね~それも今回の巫女様は私達と同じ平民出身だそうだからとても親しみが持てるわ」
「巫女様綺麗~!可愛い~!!」
「ああ~死ぬ前にこんなええもんが見れてあたしゃ嬉しいよ!ありがたや~!ありがたや~!」
楽しそうに話している男女や小さな男の子、さらにニーナを見ながら手を擦り合わせて拝んでいるお婆さんまでいた。
(ん~やっぱりニーナの可憐さと凄く似合っている巫女姿で、誰が見ても一発でニーナが『天空の乙女』だって認識してくれてるね!それにこんなに大勢の人がニーナの事を喜んでくれると私も嬉しくなるよ!!)
そう心の中で嬉しくなりながらそんな人々に手を振っていたのである。
するとそんな中で明らかに私の事を話しているような会話が聞こえてきた。
「ねえねえ、あの巫女様の隣にいる方はどなたなの?男性の服を着ていらしたからすっかり男性の方だとずっと思っていたけど・・・あの方女性よね?」
「そう言えば事前の通達で巫女様のエスコート役に貴族の方が選ばれたと聞いたぞ?」
「私も聞いたわ!確か・・・公爵令嬢のセシリア様だったはず」
「公爵令嬢!?そんな方がどうして男の格好を?」
「さぁ?貴族様の考える事は私達庶民には到底分からないからね~」
そんな声が聞こえ至るところから私を奇異な目で見ている事に気が付いたのだ。
するとその声が聞こえたらしいビクトルが険しい表情で馬を操りながら私の側に寄ってきたのである。
「姫・・・やはりドレスを着られた方が良かったのでは?」
「う~ん、まあそうかもしれないけど・・・でもこの格好でも認められれば問題ないですよね?」
「ええまあそうですけど・・・一体どうされるのです?」
「そんなの簡単ですよ」
私はそうビクトルに意味ありげに笑うと、すぐにその奇異な目で私を見てきている人々に満面の微笑みを向けたのだ。
その瞬間ピタッと辺りが静まり返りそしてすぐに黄色い声が至るところから沸き上がったのである。
「良い!良いわ!!」
「男装の麗人素敵!!」
「すげ~!!男の俺から見てもあれは有りだと思う」
「貴族の遊びでも何でも良い!!私、生まれてきて本当に良かった!!!」
「ありがたや~!ありがたや~!」
そんな反応があちこちから沸き起こりそんな人々を見てビクトルは驚いた表情を私に向けてきた。
「姫はこのような事になる事を分かっていらしたのですか?」
「え、ええ、まあ・・・」
私はそう言葉を濁らせながら引きつった笑みを浮かべたのである。
(・・・まさかここまでの反応になるとは思わなかったよ。なんとなく日本のゲームの世界だから男装の麗人って受け入れられるような気がしていたんだよね~。まあだけど確かに受け入れられはしたけど・・・ここまで過剰な反応になるとは・・・)
そう思いながら私をキラキラした目で見つめてくる人々に頬を引きつらせながら手を振り続けたのだった。
そうして暫く街の中を進んでいたその時、馬のいななきと共に突然馬車がガクンと止まったのである。
「きゃっ!」
「ニーナ!!」
突然止まった衝撃で前に倒れそうになったニーナを私は慌てて抱き止め転倒を防いだ。
「ニーナ大丈夫です!?」
「はい、セシリア様ありがとうございます」
「姫!ニーナ様!大丈夫ですか!?」
「ええ、私達は大丈夫です。だけどビクトル一体何があったのですか?」
「それが・・・突然馬車の前に少女が飛び出してきまして・・・」
そのビクトルの言葉を聞いてすぐに前を向くと、馬車の馬達を宥めている御者とその馬の間から幼い少女が見えたのである。
その少女は怯えた表情で地面に座り込み目の前にいる二頭の馬を見上げていた。
しかし恐怖で動けなくなってしまったのか、涙を浮かべながらその場を動こうとしないのだ。
するとそんな少女の元に私達の護衛の騎士が馬から降りて近付いていった。だがその表情は明らかに怒っていたのである。
「お前何をしている!!この馬車は巫女様方が乗られている高貴な馬車んだぞ!その道をお前のような者が邪魔するなど!!不届き者として今すぐ叩き斬ってやる!!!」
そうその騎士は怒鳴ると腰の剣を抜き少女に向かって剣を振り下ろそうとしたのだ。
「なっ!?」
「あの馬鹿は!!」
「お願い止めて!!!」
私の驚きの声とビクトルの焦った声が重なり、さらに少女の母親だと思われる悲鳴のような声が騒然としている人々の中から聞こえた。
しかしその時、いつの間にか馬車から降りていたニーナが騎士と少女の間に割り込み両手を開いて少女を背に庇ったのである。
「ニ、ニーナ様!?」
「お願いです、剣を納めてください!」
「しかしその者は・・・」
「納めてください!!」
「っ!わ、分かりました・・・」
ニーナの強めの口調と眼差しに騎士はタジタジになり言われた通りに剣を納めたのだ。
するとその様子を息を飲んで見ていた人々からホッと安堵の声が漏れたのであった。
私も大変な事にならなくてホッとしていると、ビクトルが険しい表情で馬を降りニーナ達の下に歩いていったのである。
「ニーナ様、この度は私の部下が大変失礼致しました。この者はまだ騎士団に入って日が浅く今回が初めての大きな仕事だった為気が張っていたようです。しかしそれでも私の指導不足が原因ですので後でみっちりと指導しておきます。・・・お前も謝りなさい」
「す、すみませんでした!!」
ビクトルはニーナ達に頭を下げるとすぐに近くで立っていた騎士に鋭い視線を向け謝らせたのだ。
そしてビクトルはその騎士を引きずり後方に下がっていった。
その時すれ違い様にビクトルは私にも一言謝っていったのである。
そうしてこの場がなんとか治まると人々はニーナの事を褒め称えだしたのだ。
「さすが巫女様!あんな状態で咄嗟に助けに入られるとは!!」
「私なら怖くて行けなかったよ」
「俺も無理だった・・・巫女様すげえな!」
「巫女様お優しい!!」
そんな賛辞の声が飛び交う中、漸く少女の下に辿り着いた母親が涙を流しながら少女を抱きしめた。
「無事で本当に良かった!!」
「お、お母さん~!!」
少女も母親の胸に顔を埋めて泣き出したのである。
するとニーナが二人に近付きその場でしゃがみこむと泣いている少女の頭を優しく撫でてあげたのだ。
「もう大丈夫よ。安心して良いからね」
「み、巫女様~」
少女は母親の胸から顔を上げ涙でぐしゃぐしゃになった顔をニーナに向けたのである。
ニーナはそんな少女の顔を見て優しく微笑むと、ポケットからハンカチを取り出してその涙を拭ってあげたのだ。
「巫女様、本当に本当にありがとうございました!!」
「いえ、当たり前の事をしただけですから。それよりも・・・どうして馬車の前に飛び出しちゃったの?」
「あ!ミーちゃんどこ!?」
「ミーちゃん?」
少女は何かを思い出した顔で辺りをキョロキョロと見回し何かを探しだした。
その少女の様子にニーナは不思議そうな顔で聞き返したのである。
そんなニーナ達の様子を馬車の上で見ていた私は、ふと目の端に気になるものが目に入ったのだ。
(あれは・・・)
私はすぐにそれがなんなのか気が付き静かに馬車から降り立つと物陰に隠れるようにいたそれを優しく抱き上げた。
そしてそれを胸に抱きしめたままニーナ達の下に近付いたのである。
「ねえ、ミーちゃんってこの子の事?」
「みゃ~」
「あ!ミーちゃん!!」
少女は私に抱き上げられている灰色の毛並みに赤いリボンが首に巻かれた子猫を見て嬉しそうに喜んだのだ。
私はすぐに少女の前に跪き子猫を少女に渡してあげた。
「この子を追い掛けて馬車の前に出ちゃったんですね。でも・・・貴女に何かあったら貴女のお母様やこの猫ちゃんが悲しむ事になるんだから無茶はしちゃ駄目ですよ」
「・・・はい。ごめんなさい」
「うん、ちゃんと謝れるいい子ですね」
そう言って少女に向かってふわりと微笑み私も少女の頭を優しく撫でてあげたのだ。
その瞬間、再び回りから黄色い歓声が上がりさらに少女とその母親もボーとした顔で私を見つめてきたのである。
「え~と・・・」
「セシリア様・・・その姿でその優しさは反則です!!」
その声にニーナの方を見ると顔を赤くしたニーナが恍惚の表情で私を見つめていたのだ。
「お姉ちゃん、王子様みたい!!」
さらに少女もキラキラした目で私を見つめてきているし、なんだか少女に抱かれている子猫も嬉しそうな顔で私をじっと見ているような気がしたのである。
(あれ?何でだろう・・・さっきまで皆がニーナを褒め称えてまるでニーナしか見えていない雰囲気になっていたのに・・・今は私に視線が集中しちゃってるんだけど・・・)
この雰囲気に戸惑いながらふと馬車の後方にいるビクトルの方を見ると、何故かビクトルは額を押さえながら深いため息を吐いていたのだ。
(いやべつに私、普通に子猫を少女の下に戻してあげただけなんだけど!!)
そう心の中で叫びながらも早くこの場を立ち去りたいと急いで親子を人々の中に戻し、ニーナの手を取って馬車まで戻るとビクトルに頼んで馬車を動かして貰ったのであった。
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