謝罪

 私は侍女を全員下がらせた自室で一人長椅子に座りながら優雅にお茶を飲んでいた。


 するとその時部屋の扉を叩く音が聞こえたので私は扉に向かって入室の許可を出すと、そこからレイティア様が入ってきたのである。




「いらっしゃいませ、レイティア様」


「セシリア様、お招き頂きありがとうございます」




 そう言ってレイティア様は嬉しそうに微笑みスカートの裾を摘まんでお辞儀をしたのだ。


 私はそんなレイティア様を見つめながら薄っすらと笑みを浮かべていた。しかしその目は全く笑っていないのである。


 するとそんな私の様子にレイティア様が気が付き戸惑い始めたのだ。




「セシリア様?わたくし・・・何かお気に障る事致しましたかしら?」


「・・・ねえレイティア様、これに見覚えありませんか?」




 私はそう言ってポケットからニーナのペンダントを取り出しレイティア様に見せたのである。




「っ!そ、それは!!」




 レイティア様は私の持っているペンダントを見て明らかに顔色が悪くなったのだ。


 実はこのペンダントはニーナに頼んで少しの間貸してもらったのである。




「レイティア様・・・私、貴女がニーナにされた事知っています」


「っ!!」


「・・・レイティア様、いくら『天空の乙女』に選ばれなかったからとは言えニーナを妬まれるのは筋違いですよ?」


「・・・・」


「ニーナは正式に選ばれた方ですし、それにニーナ本人もとても頑張って役割を務められています。ですのでどうか認めてあげてくれませんか?」


「・・・・・わたくし、そんな事でニーナに当たっていたのではありませんわ!」


「え?じゃあ一体どうして?」


「わたくし・・・『天空の乙女』は絶対セシリア様に相応しいと今も思っていますのよ!だからわたくしニーナが選ばれた事をいまだに納得していませんの!!」


「・・・・」


「それに・・・なによりもあの叙任式でセシリア様に助けられた事が・・・・・・羨ましかったから・・・」




 レイティア様はそう言って悔しそうに唇を噛みしめ私から顔を反らしたのだ。




(・・・え~と、これはもしかして・・・私が原因って事なのかな?ん~なんか予想していた動機と違ったんだけど・・・)




 私はそう心の中で困惑しながらもとりあえずこのままでは駄目だと思い、一度深くため息を吐いた後椅子から立ち上りレイティア様の近くまで歩いていった。


 しかしレイティア様はそんな私の様子にビクリと肩を震わせ怯えた表情を私に向けてきたのである。




「セシリア様・・・」


「ねえレイティア様、貴女が私を思ってくれてる事は凄く嬉しいのですが・・・さすがにそのような理由でニーナに当たられるのはどうかと思いますよ。正直そんな事をされるレイティア様は・・・・・嫌いですね」


「っ!!」




 私の言葉にレイティア様が酷くショックを受けた顔をしたので、その顔を見て私も胸が痛んだがそれでもここはきっちりと話さないとレイティア様の将来に影響すると思ったのだ。




「でも私・・・レイティア様の事は大切な友達だと思っているんです。だから・・・してしまった事はもう今更どうにもなりませんが、今ならまだなんとかなりますので私と一緒にニーナの所に行って謝りましょう?」




 そう優しく言うとそっとレイティア様の両手を私の両手で包み込み微笑みを向けたのである。


 するとレイティア様はそんな私の顔をじっと見つめそして目から涙を溢したのだ。


 私はそんなレイティア様を抱きしめ頭と背中を優しく撫でてあげた。




「セシリア様、わたくし・・・」


「レイティア様はとてもいい子ですものね。だから謝れますよね?」


「・・・はい。わたくしニーナに謝りますわ!」




 レイティア様は私から顔を離し涙をハンカチで拭いてからしっかりとした意思でそう答えてくれたのだ。


 そうして私とレイティア様は一緒にニーナの部屋に向かったのである。


 そしてニーナの部屋に入ると私はすぐにニーナを世話している侍女達を全員下がらせ、私とレイティア様とニーナの三人だけになったのだ。


 さすがにニーナは突然レイティア様を連れて私がやって来てさらに侍女達を下がらせたので、一体何があるのだろうと不安そうな顔をしていた。


 私はそんなニーナを安心させるようににっこりと微笑むと、ポケットから借りていたペンダントを取り出しニーナに手渡したのである。




「ニーナ、大事なペンダントを借りてしまってごめんなさいね」


「いいえ構いません。セシリア様なら大事に扱って下さると信じていましたので」


「ありがとうございます」


「・・・それで今日は一体どのような?・・・レイティア様もご一緒ですし・・・」




 そう言ってニーナはさっきから俯いているレイティア様を見て戸惑っているようだった。


 私はそっとレイティア様の背中を擦り応援したのである。


 するとレイティア様は決意を込めた表情で顔を上げ、一歩足を踏み出してニーナに近付いたのだ。




「ニーナ!!」


「は、はい!」




 レイティア様の大きめの声にニーナが驚きながら返事を返すと、そのニーナの目の前でレイティア様が頭を深々と下げたのである。




「ごめんなさい」


「え?」




 まさかレイティア様に謝られるとは思っていなかったニーナは驚きの声を上げてレイティア様を凝視すると、そのレイティア様は勢いよく頭を上げ真剣な表情でさらに謝罪の言葉を述べたのだ。




「今まで貴女にしてきました数々の嫌がらせや暴言・・・今更取り消す事は出来ないと分かっていますが・・・本当に申し訳ないと思っていますわ」


「レイティア様・・・・・少しお聞きしたいのですが、レイティア様が私の事をお嫌いになられていたのは、私が平民で『天空の乙女』に選ばれたからですか?」


「・・・べつに平民が『天空の乙女』に選ばれる事自体はなんとも思っていませんわ」


「では何故ですか?」


「『天空の乙女』にセシリア様が選ばれなかった事が納得出来なかったからですわ」


「え?」


「さらに・・・貴女、あの叙任式でセシリア様に助けられていましたでしょ?それが羨ましくて悔しかったのですわ!」


「・・・・」




 そのレイティア様の言葉にニーナは驚きの表情のまま目を瞬いていたのである。


 私は静かにレイティア様の横に並び、申し訳なさそうにしながらニーナに向かって頭を下げたのだ。




「ニーナ・・・ごめんなさいね。レイティア様にお話をお聞きしたらどうも私が原因だったみたいなんです。だから私も一緒に謝らせて頂きますね。本当にごめんなさい」


「なっ!セシリア様!頭を上げてください!!」


「そうですわ!私の勝手な思いが原因ですもの!!セシリア様が頭を下げる必要はありませんわ!!」




 そう言われて慌てる二人に無理やり頭を上げさせられたのである。


 私はそんな二人に困惑していると、ニーナがレイティア様の方を向いてふんわりと笑い掛けたのだ。




「レイティア様のお気持ちよく分かりました。ちゃんと謝罪もして頂けましたしもう私はなんとも思っていませんよ」


「ニーナ・・・」


「それに・・・私もレイティア様の立場でしたらもしかしたら同じ事をしていたかもしれませんし・・・」


「え?・・・・・もしかしてニーナも?」


「・・・はい」




 レイティア様がニーナの様子に何かを察し問い掛けると、そのレイティア様の問い掛けの意味を理解したニーナが恥ずかしそうに頬を染めながら小さく頷いたのである。




(・・・一体二人は何を意志疎通したんだろう?)




 そんな二人の様子に私が戸惑っていると、レイティア様がぐいっとニーナに顔を寄せて真剣な表情で話し掛けた。




「ねえわたくし・・・セシリア様の幸せを応援する活動をしているのですけれど・・・」


「まあ!それはとても素敵な事ですね!!」


「ちなみに・・・セシリア様とカイゼル王子の婚約をどう思われますか?」


「・・・セシリア様が望まれていないのでしたら断固反対したい派です!」


「わたくしもそうですわ!」




 なんだかよく分からない話をしだした二人は、じっとお互いを見つめ合いそして同時に右手を差し出すと固く握手を交わしだしたのだ。




「わたくし、ニーナとはとてもいい関係が築けますわ!」


「私もです!是非お友達になって下さい!!」


「ええ、勿論良いですわ!!」




 そうして私の目の前で、二人はあっという間に仲直りから友達関係になったのである。




(・・・二人が仲良くなってくれた事は凄く嬉しいんだけど・・・何だろう?私の分からない部分でとても強い絆が結ばれたような?)




 私は仲良く話し出した二人を見つめながら困惑していたのであった。




















 あの後、ニーナとレイティア様が二人で仲良く話をしている姿を見掛けるようになったのだが、それと同時にニーナが各攻略対象者達と二人っきりで話をしている姿も見掛けていたのである。


 私はその姿を見付けると、二人の邪魔をしては駄目だとすぐにその場を離れていたのでどんな会話をしていたかは分からなかったが、見た限りではとても楽しそうに話をしているようであった。


 しかし誰か特定の人物一人と一緒にいる様子は見掛けられなかったので、今のところニーナが誰を選んでいるのかがさっぱり分からなかったのだ。




(ん~出来れば誰ルートに入ろうとしているのか分かると助かるんだけどな~。そうすれば極力その対象者と接触しないように行動出来るのに・・・)




 そう思いそれとなくニーナに聞いた事もあったが、何故か私の名前が出るばかりで恋愛対象の異性の名前が出なかったのである。


 まあそれでもまだ攻略対象者達と出会ってから間もないので、きっと時間が経てば気になる相手が出てくるのだろうと暫く様子を見守る事にしたのだった。


 そんなある日、私はお父様に呼び出され城の中にある会議室にやって来たのだ。


 そしてその部屋の中に入ると、そこには私の他に見知った人物達が待機していたのである。




「あれ?皆もお父様に呼び出されたのですか?」




 私はそう言って部屋にいた人々の顔を不思議そうに見回したのだ。


 何故ならそこにいたのは、カイゼル、シスラン、ビクトル、レオン王子、アルフェルド皇子、さらにはレイティア様やニーナまでいたのである。


 しかし皆も何故ここに集まる事になったのか分からない様子でお互いを見ながら困惑していたのだ。


 すると再び部屋の扉が開きそこから私のお父様とあの叙任式で見掛けた初老の司祭が一緒に入ってきたのである。




「皆様お揃いですね」




 そう言ってお父様が私達を見回してにっこりと笑った。




「ラインハルト公、この集まりは一体なんなのですか?」


「カイゼル王子、それを今からご説明致します。では司祭様よろしくお願い致します」


「はい。え~皆様にわざわざ集まって頂いたのは、一週間後に執り行う予定の行事である『お披露目パレード』について事前に決めておかなければいけない事があったからです」


「・・・ああ確かこの先の予定にそのような行事がありましたね」




 司祭の言葉にカイゼルが何かを思い出しながら答えたのだ。




「そうです。そして代々神殿で保管されている『天空の乙女』に関する資料の中に最初に行うべき行事として、民衆に『天空の乙女』をお披露目するパレードを行うよう記載されているのです」


「え?私のお披露目パレードですか!?」


「はい。これは大事な行事ですのでどうかよろしくお願い致します」


「・・・・・はい。とても恥ずかしいですが頑張ります」


「ありがとうございます。しかしそこにはニーナ様一人だけが参加されるわけではありませんのでどうぞご安心下さい」


「それは一体?」




 ニーナは司祭の言った言葉の意味が分からず不思議そうな顔をしていると、司祭はにこにこと笑顔を浮かべながら私達を見回してきたのである。




「ここにお集まり頂いたの方々は、ニーナ様と特に仲良くされている方々です。ですのでニーナ様にはこの方々の中から誰かお一人お披露目パレードのパートナーとして選んで頂きたいのですよ」


「え!?」




 そんな驚きの声を上げながらニーナは呆然と私達を見回したのだ。




(・・・うおおおおおお!!こ、これはゲームのイベントシーンじゃないか!!確かここで選んだ相手とその後色々とイベントが起こるから、実質ここがルート決めみたいなものだったんだよね!!!さあニーナ!一体誰を選ぶの!?私、絶対その方との関係を邪魔しないからね!!!)




 戸惑った表情で狼狽えているニーナをじっと見つめ私はワクワクしながら心の中でそう思っていたのであった。

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