第五話 囚われのデイラン
星騎士団の面々は立ち寄る街々で、まるで彼ら自身が神のごとく
まずその街の責任者がわざわざ外にまで挨拶に現れ、この軍を率いるフィリッポの面前で
前世はもちろん、
一切興味のないデイランからしたら、まだ王や皇帝の前で
そうして騎士団の面々は屋根のある、温かな布団で眠る。
一方、デイランの放り込まれている
食事は冷たいスープのみだ。
これから自分がどこへ行き、どんな目に遭うのか、不安がないと言えば嘘になる。
しかしこんな境遇は前世でもいやというほど経験している。
やくざ稼業の斬った張ったは、
一方的に因縁をつけてきた不良グループ(そいつらの仲間が絡んできたので数人、ボコった)に
今思えば、よく死ななかったと思う。
無論、その後、たっぷり礼はしたが。
連中に比べれば、騎士団の連中はまだマシかもしれない。
文字通り、
緑色の眼を持ち、美しい赤毛をもつ騎士。
あの男がどうやら周囲の行動に目を光らせてくれているらしい。
あの男は、フィリッポの副官という立場らしいというのが耳にした話から推察できることである。
「――起きているか」
はっとして顔を上げる。
そこには、三つ編みを肩にかけた男がいた。
どこぞの貴公子かと思う見目をした人間だ。
そしてその髪を解けば腰まで届きそうな髪は紅く、その二重で切れ長の眼差しは翡翠のような緑――。
素顔は初めて見る。
「……あの時、戦った騎士か?」
貴公子は眉を持ち上げた。少し驚いたようだ。
デイランは赤髪の騎士に語りかける。
「戦場でまみえた。
特徴的だから記憶に残っていたんだ」
そうだったのか、と男は笑う。
女性的な顔立ちをしているから、笑うとますます女性的な色気がある。
あれだけの力強い腕を持っているとは思えないほどだ。
「食事を持って来たんだ。
具だくさんのスープと、パン。どちらもまだ温かい」
デイランはそれを
動かすと
スープを味わい、パンに
最初から毒が入っているなど考えもしなかった。
そんな細工をせずとも、こいつらはいつでもデイランを殺せる。
そんなことより大切なのは必要な時に動ける体力を確保しておくことだ。
それは前世で学んだことだ。
デイランの食べっぷりに、ぽかんとしていた男は微笑む。
「……良いたべっぷりだ」
「これも大切なことだからな」
「そうだね。
……話をしても?」
「ああ」
「まずは自己紹介だ。
僕はエイキュス・ド・デラヴォロだ」
「貴族か」
紅髪緑眼の騎士――エイキュスは苦笑する。
「貴族の三男だ。何も想像させてもらえない損な三男」
「俺はデイランだ。
知ってると思うけどな」
「ただのデイラン?」
「そうだ」
「そうか。
君の剣は素晴らしいと、剣を交えてすぐに分かった。
君は……騎士、だったのか」
「いいや。ごろつきさ」
「ごろつき?」
「法に触れても生き残ろうとする
「それは悪く言い過ぎだろう。
もし君がそんな人間であれば、あれだけの人間が君に従うはずもない。
戦場を見て驚いたよ。
あれはみんな……」
「あれは全員、ハーフだ」
「それだけ君は慕われてるということだ」
「これから俺はどこに連れて行かれるんだ?」
「サン・シグレイヤス。教団の都だ。
そこで君は裁判にかけられる」
「千年協約違反、か?」
「そう。
無論、裁判で無罪になれば放免される。
でも一体どうしてこんなことになるのか理解出来ない。
エルフやドワーフと西部の人間が交易をしていることは誰もが知っていることだ。
知っていて誰も歯牙にもかけなかったことだ……」
「誰かが裏で糸を引いているってことだろうな」
「……きっと、ね。
だが一体こんなことをして誰が得をするのか理解出来ない。
教団にいる連中はみんな、上から下まで腐っている。
誰もが己の利益に固執し、信仰の
小悪党か、巨悪の差だ」
「お前もか? エリキュス」
「何も出来ず、見て見ぬ振りをしているという点で」
「とにかく無実を訴えるだけだ」
「まあ間違っても、ひどい刑にはならないはずだ。
それほど日も待たず、皆へ戻れるはずだ」
(それはどうかな)
そんな軽い刑罰を与える為に、わざわざ長い道のりを進んでくるものだろうか。
デイランをわざわざ名指しにしてまで……。
その時、声がかけられた。
「デラヴォロ卿。
サンフェノ卿がお呼びです」
「分かった。すぐ行く」
エリキュスはデイランを見た。
「あなたに
「どうした?」
「いや……。
デイラン、君と話せて良かった」
デイランは笑った。
「そっちの方が挨拶としては良いな。
俺も良かったよ」
では、とエリキュスは去って行った。
多少はまともな人間がいるらしい。
そうデイランは思った。
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