第四話 怒れるマックス

 マックスは激怒し、テーブルを叩いた。


 場所は、彼女が常駐している事務所である。


「クリム! どういうことか、説明してくれるんでしょうねっ!?」


 事務所内には、マックスをはじめ、アウルがいた。

 事務所の外でもデイランのことを心配する人々が押しかけ、今頃聞き耳をたてていることだろう。


 マックスはデイランが星騎士団に捕らえられてしまった時、山にはいなかった。

 数人の団員たちと共に、馬の飼い葉や武具の買い付けをしていたのだ。

 村の開拓にも心を砕かねばならないが、傭兵団としても規模を大きくしなければならない。

 それに、馬のえもいる。


 椅子に座らされ、まるで犯罪者のようにすごまれているクリムはうな垂れた。


「本当に、申し訳ない」


 マックスは腕組みをした。

「……謝罪は聞き飽きたわ。私はそれ以外が聞きたいのよ」


「連中は、デイラン殿がエルフやドワーフと密接に関わっていると言い、それは千年協約に反する、重大事だと言っていました」


「でもそんなことは公然の秘密じゃないの?」


「……そ、そうだと思っています」


「じゃあ、他にも逮捕された人は?」


 クリムは小さく首を横に振った。


 マックスはそれでおおよそのことを察した。

「なるほど。

あんたはデイランを生けにえにした――そうなんでしょう?

どうせ、連中に、デイランを捧げなければ、他の人間たちも処罰するとか言われたんでしょう?」


 クリムは椅子から降りると、その場に跪き、頭を床に擦りつけた。

「も、申し訳ありません!

こうするしかなかったのです! 他の住民を守る為には……」


 アウルは眼をカッと見開き、クリムの首根っこを掴んで引き起こす。

「謝ってすむことかよっ!?

おお! この野郎!!」


「お許しを……お、おおお許しをぉっ……!

星騎士団には逆らえません……。

彼らは凶暴なんです。街一つを灰にすることなど容易いことなのです……

彼らからすれば、自分たちのやることは全て聖なる行いだと……」


「俺たちだって狂暴だ!

デイランにもしものことがあったら、

俺がお前の素っそっくびをねじきってやるっ!

覚悟しておけっ!」


「ひいいいい……それだけはぁっ」


「アウル。手を離して」


「けどよぉっ!」


「良いから」


「ケッ」


 アウルは、クリムは放り出す。


「クリム。

連中はデイランをどこへ連れて行ったの?」


「サン・シグレイヤスかと……」


 マックスは溜息を漏らし、こめかみを揉んだ。

「……神星教団の本拠地じゃない……。

本当に厄介ね。

で、連中の目的は?

どうしていきなりこんなことをしようと思ったの?

これまでは黙認なんだか、こんな田舎のことなんか眼中になかったのかは知らないけど、

一切関心なかったのよね」


「分かりません……」


 アウルがにらんだ。

「本当かっ」


「ほ、本当ですっ!」


 マックスは考える。

「一つ、考えられることは……

ロミオが発した荘園整理に関する勅令ね。

大貴族はもちろんだけど、教団としてもアレはかなり手痛いはずよ。

教皇は今度の勅令を受け容れるような声明を発表してたけど、

まあ、あれは表向きよね。

はらわたが煮えくりかえってるっていうのが本心じゃないかしら」


「は? ショーエン?

おい、分かるように言えよ」


「要するに、収入源を取り上げられるってこと」


「へえ。なるほどな。

そんで尻に火が付いた……のか?

でも何で、それがデイランと関係あるんだよ」


「ロミオがデイランを頼りにしてるってことを調べたんじゃないかしら。

そしてデイランを逮捕し、取り調べることで……」

 マックスは話しながら考えを整理する。

「デイランを千年協約違反で逮捕し、

そんな人間を雇い上げたロミオの責任を問おうって腹づもり、かしら」


 しかし気にかかることはある。

 それだけの大きな絵を一体誰が描けるというのだろうか。


 教団が実行するのならば、もっと早くやっていても良いだろう。

 

 王国の大貴族たちか。いや、それは教団よりもずっと可能性が低い。

 連中は今や、ロミオにすり寄る人間が大多数だ。

 荘園整理の勅令が出されて以来、大貴族ほど進んで協力しているくらいなのだ。


 やはり教団か……?

 分からない。


「何はどうあれ、デイランを救出するということがまず

私たちがやるべきことね」


「おぉ! そうだなっ!

よっしゃ! やろうぜっ!」


「私たちだけでは足らないわ。

――ちょっと誰か!」


 マックスが外に向かって呼びかけると、盗み聞きをしていた全員が我先にと

家の中に入ってくる。


「アミーラにすぐに遣いをやって。

大事な話があるからって」  

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