料理部。とうとう料理をつくるの巻
「もー!!さっきから聞いていればなんですか!何部なんですかここは!キャバクラ部かパ部にしか見えませんよ!」
ぐうの音もでねぇ
「なるほどほどほどーアリーは性欲が満たされたから今度はおなかがすいてきたんだねー」
「せ、性欲!?」
「人間の三大要求睡眠、性欲、食欲ーそれを大事にするのがこの部活だよー。というわけで、なんか食べたいものある?作るよ?まーくんが」
適当な事を言うな
作れないことはないが、ここには俺の3秒クッキング用の食材しかないんだぞ!?
いつも晩御飯にキャビア食ってそうなやつに作れる料理なんてないぞ!?
「ほお…」
そう呟いた有亜の目は、新妻の粗探しする小姑に限りなく近いものだった。
「パスタが食べたいです」
性格悪いなコイツ!!こんな状況じゃなかったら即刻つまみ出してたぞ!
…ふ、しかし舐められたものだな。パスタなんて曖昧なお題の出し方をしてくれたおかげで、また楽に作れそうだ。
俺は部室の棚から底が広めの耐熱容器を取り出した。
愛澄と小夜彦が心配そうに見ている。心配するな。時間はかかるが5動作ぐらいでできるズボラパスタを作ってやろう。
俺は容器の半分ぐらいまで水を入れ、小さじ一杯ぐらいの塩を混ぜ入れた。
そこに一人分のパスタを浸して、パッケージに表示されているゆで時間+4分にセットした電子レンジにいれる。
鍋でゆでたほうが時間自体は早いのだが、たびたび様子を見なくてはならないのと、タイマーをセットする時間が省けるという理由から電子レンジの方をよく使っている。ただし人数が多い場合は断然普通にゆでた方が楽だぞ!
それからインスタント食品が入った棚を開ける。いくつかインスタントのパスタソースが見えるが、それでは有亜をぎゃふんとは言わせられないだろう。
トマト缶、乾燥わかめ、ふりかけ、塩昆布、魅力的な食材は多いが、一番に目に入ったツナ缶を取り出した。
そして、冷蔵庫からはバジルソースを。バジルソースは万能なためいつも冷蔵庫に入れてあるのだ。なければドレッシングでもいい。割とどのドレッシングでもうまい。
それからチーズ好きの緩羽がいれたクリームチーズもあった。無茶ぶりされた分勝手に使わせてもらおう。
ツナ缶から少し油を抜き、ボールに入れ適当にバジルソースを入れる。具体的に言うと、大体大さじ二杯ぐらいだが、料理は楽に作ることが一番だ。そんなに神経質にならなくていい。
パスタがレンジで温め終わったら少し食べて柔らかさを確認。
固いようだったらもう30秒ずつ温める。大丈夫なようなら、ざるに入れ、冷水で適度に冷やしてからボウルにぶっこむ。かき混ぜて皿に入れる。上にクリームチーズをちぎってのせたら。
ほら、それっぽいだろ!どうだ!
気力があるときはトマト、大葉などをいれてもおいしいんだぞ!
「どうだ」
有亜は予想外そうに「一応料理部っぽいことはできるんですね」と小声で嫌味を言った。こんなにかわいくない後輩初めて見た。
「とりあえずアリー食べてみ。おいしいから。ほら、小夜子ちゃんがあーんしてくれるって」
「え、俺?」
「ん?今俺って…」
思わず声を出した小夜彦は顔をぶんぶんと降ってあわててごまかした
「どうせだったら私がまーくんにあーんしてあげたかったわ」
全国の男子高校生なら夢に見るほどあこがれるシチュエーションだな。姉じゃなければ。
「っていうか、ちゃっかり何食べてるのよ?」
「ツナ缶半分あまったから…つい…」
「まーくんったらうっかりさん!かわいい!」
一方机の向こう側では、経緯と自分の姿はなんであれ、女の子にあーんできる状況が嬉しいのか楽しそうにパスタをフォークに巻く小夜彦と、ちゃっかり目をつむり口を開けて待つ有亜の新婚チックな光景が繰り広げられていた。
ちなみに緩羽は「はい、いっき、いっき」と明らかに間違っているコールを、やる気なさそうにやっていた。
小夜彦は慣れなさそうな手つきでゆっくりと有亜の口の中にパスタをいれた。
もぐもぐと小さく口を動かす。
俺は息を止めてその光景を見守った。
「おいしい…!」
でました!おいしい!お嬢様からのおいしい!
我ながら天才かもしれない。ここまで楽しておいしいと言わせるなんて…!
「そうだろうそうだろ「あなたの手で食べさせていただいたものは、こんなお手軽食品でもおいしくさせてしまうのですね!!」」
「「「「え」」」」
「小夜子さん!よろしければもう一口食べさせていただいても?」
そっちかい!!!!
全ての手柄をかっさらっていったぞこの男!!
「え、あ、」
小夜彦は戸惑いながらもう一口有亜の口にパスタを運んだ。微妙に笑いをこらえきれてない。
ちゃっかりこの状況を楽しんでいる。
「おいしいです!きちんと麵がアルデンテに感じます。さすがですね小夜子さん!」
なんで小夜彦を褒めるんだよ俺を褒めろよ。アルデンテにしたの俺だよ。
「ふっ…」
「…っ」
一方自称美女二人は笑いをこらえて動けないでいる。男に色仕掛け攻撃負けかけているが良いのだろうか。
「あの、小夜子さん!よかったらこの後お話でも!ぜひお声を聴かせてください!」
「お客さーんこれ以上は別コースになりまーす」
有亜の後ろから笑いをこらえた表情のままの緩羽が入部希望書を渡した。
「ここにサインするだけで毎日私達と触れ合えるのよ」
「ふれあい動物園かここは。」
有亜は入部届と小夜彦と緩羽と愛澄とにらめっこするように見つめる。
そこから腹をくくったのか、下心が勝ったのかボールペンをとった。
そして腕まくりをし、やたらと気合を入れて達筆な字で名前をかいた。
「向上院有亜!料理部に入部します!よろしくお願いいたします!」
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