色仕掛け作戦決行の巻
「…えーっと、これは一体何の陣形でしょうか…」
前には仁王立ちの愛澄。
右には腕を組んで若干もたれかかってる緩羽。
左には明らかに有亜より背の高い女装男子小夜彦。
あと、一応3メートル程離れたところから見守っている俺。
うん。隙の無いフォーメーションだ。
有亜は照れと下心と疑念と嬉しさと恐怖が混ざった奇怪な笑みを浮かべている。
「初めまして。私は片貫愛澄。まーくんの双子の姉よ」
愛澄はわざと顔を近づけて、自己紹介をする。大抵の男はこの時点で自我と思考能力が失われ、体の自由が利かなくなる。有亜の反応は
「立てば小町、座れば楊貴妃、歩く姿はクレオパトラ」
「え、何よいきなり」
愛澄の美しさを前にして我をなくす人間は多いが、この反応は初めて見た。うん只者ではない。
「はっ、いけない!ま、まーくんというのは、部長さんですか?」
「そうよ。たくましく、健康的で、麗しく優しく強くかっこよく聡明で偉大なるあの部長のまーくんよ」
「私の想像してる部長さんと違う人の気が…」
「あってるよ」
緩羽が小さい声でフォローした。
有亜はひきつった表情で俺と愛澄を5度見する。
立てばハム、座れば力士、歩く姿は布袋孫といわれる俺の正真正銘の双子の姉だぞ。よろしくな。
「聞いた話。アンタ私達の部活に興味がおありのようじゃない」
「あ、いや別に…」
「あるに決まってるじゃない。こんな美女ぞろいなのに」
「は、はい」
かわいそうに。強引に話を進めていく愛澄に完全に圧倒されている。
…いや、そんな事無いな?
愛澄の顔しか見てないな。
話に集中できてないせいであんな曖昧な返ししかできてないのか!?
「どうせだったら仮入部してきなさいよ」
「部室までつれてってあげるー」
「え!?なぜそんな事に!?」
恩付けがましい事を言う緩羽と、声はさすがにごまかせないので黙ってニコニコしている小夜彦は、両脇をきっちり固めて無理矢理部室へ有亜を連れて行った。
日々ぐうたら過ごしているくせに小枝のように細い緩羽の腕力は信用していないが、さすがに男である小夜彦の腕力には勝てないだろう。
やってることは完全に質の悪いぼったくりバーのキャッチですまんな。こちらも必死なんだ。
「一体何をするつもりですか!!」
有亜は子供の用にジタバタしながらわめく。
「大声だしても無駄よ」
「なんでそんな誘拐犯みたいな事いうんです!?」
「逆に言えばどんなに大声をだしても平気。お姉さんと一緒に遊ぼうねぇ」
「一体何をするつもりですか…!」
「期待に満ちた目してんじゃねーよ」
「おいおい声に出すな東」
小夜彦に口をふさがれて正気に戻った。
頼みの綱とは言ってもやはり気に入らないな、あのエロ女。
一方小夜彦はいそいそと有亜の元へお茶を運ぶ。
普段よくここまで話すことがあるなと感心するほどにおしゃべりでうるさい小夜彦だが、黙っていれば可愛げがあるもので緩羽や愛澄の中に入っていてもなんも違和感がない。逆に俺が入りにくいぞ、あの輪の中に、部長なのに。
「シャチョサン。何か食べる?」
「社長ではないです」
「若いんだからお茶よりオレンジジュースとか飲むわよね?」
「あ、じゃあそれで…」
「オレンジジュース!オレンジジュース入りまーす」
「ノリが完全にキャバクラですね!?」
振り回してるなあ。
あの二人にいつも振り回されている俺から見るとご愁傷様としか言えないが……うん、本人は割と嬉しそうだな。
「あ、あのあなたは…」
ギクリ。
有亜はとうとう小夜彦に反応した。
生憎小夜彦は声を出すことができないのでニコニコと笑うことしかできない。
「この子は小夜ちんの妹小夜子ちゃんだよーほらほら、いごよしなにーって」
緩羽がフォローを入れてくれた。小夜彦はにこにこと引きつった笑みでいごよしなにーのポーズをする。
なんだ、いごよしなにーのポーズって
「あの、当の小夜彦さんは…」
「小夜彦?アイツは死んだわ」
「ええ…」
さすがに無理あるだろその言い訳
小夜彦は「え、俺死んだの」みたいな顔で俺と愛澄を交互に見ている。死んだらしいぞ。
「アイツの遺言は『せめて一つ年下の真面目で女の子に弱くてお金持ちで会長とコネのある子が料理部に入部をしてくれたら…!』だったわね」
「一体どんな状況ですか!」
「今更悔やんでもアイツはもどってこない…」
「アリーにできるのは小夜ちんの遺志を継ぐ事だけだよ」
「料理部ってそんなに危険なんですか?そもそもここは料理部なんですか?」
俺も最近疑問に思ってる。
雲行きが怪しくなってきたぞ、本当にうまくいくのかこれ!?
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