女の強さは二言と三言があるからかもしれないの巻
「向上院有亜!料理部に入部します!よろしくお願いいたします!」
覚悟を決めた瞳、一度決めたことは覆さないといった態度、盗聴器に録音された声、盗撮用のビデオに録画された仕草、書類に油性でしっかりと書き込まれた名前。
そう、とったのだ。俺たちは!新入部員を!言質を!確固たる成約を!
「これで毎日学校でも好きな時に食いたい放題ができる!!」
「これで寝床確保ができる…!」
「これでまーくんと一緒にいられる…!」
「これで先生の目の無いところで金稼ぎができる…!」
「んん?みなさん動機が不純すぎませんか!?」
有亜がそんなツッコミを入れた時。動きが止まった。カチコチとロボットのような動きで小夜彦を二度見した。
「え?」
そこで気がついた。この中で、決して声を出してはいけない人物。
聞こえた声がきっちり4人分だったことに。
小夜彦は慌ててにこりと笑い有亜を無理矢理握手をした。しかし、有亜は今度こそ確信をもってしまったのか、絶望な顔をしている。
「し、失礼します!!」
驚くほどに迷いのない手で小夜彦の胸に手を置いた。
もちろん真っ平どころかしっかりと硬い感触なはずだ。小夜彦の冷や汗が尋常じゃないほどにでている。
「ま、まさかあなた小夜彦さ…」
「小夜彦は死んだ!俺は小夜彦の双子の弟です!!!!女装が趣味です!!!」
テンパりすぎだろ
小夜彦はこれでもクラスカーストは上の方だし、イメージというものはある。女装はできてもそれを知られるのはまだハードルが高いのだろう。
「そ、そんな…まさか女装趣味の変態に私があーんしてもらっていたなんて…!」
お前も十分変態的だったぞ。お似合いじゃないか
「獣はいてものけ者はいないでも本当の愛はここにはない愛は死んだみんな自由に生きていても救えないもう絶望しかない」
完全に絶望に飲み込まれてしまったアリーに場はいたたまれない空気になる。
「にゅ、入部取り消しても…?」
アリーはもにょもにょと聞き取りにくい声でそう言った。
俺たちは無言で顔を合わせてうなずいた。
「いいわけないでしょ!お馬鹿さん!」
誰よりも早く愛澄が有亜の入部届を手にとりそのまま生徒会に向かって走り出した。
「でかした愛澄!!」
「ふふふ入部届を出してしまえばこっちのもんよ!!」
「ああ!愛澄先輩めっちゃ足早い!」
「陸上部だからな!」
「なんでまーくんが得意げなの?」
「くそっこんな卑怯な人たち負けませんよ!」
そう言って有亜は走り出した。しかし、愛澄はもう50m程先を走っている。追いつくはずもない。これは勝ったな。
「まーくんおんぶ。二人を追って…!」
「ポケ○ンか!!」
しかし愛澄とあのクソガキの争いなんて絶対おもしろいに決まっている。
「しょうがない乗れ!!」
意気消沈している小夜彦をおいて、俺たち二人も愛澄とアリーを追いかけて階段を下っていく。
「勝ったわ!!!」
愛澄の勝利宣言と同時にドアが開く音が聞こえた。
「くううう間に合わない!かくなるうえは!!!!」
そんなアリーの声が聞こえてきた。一体この状況で何の策が!?
アリーの行動が気になりすぎて、俺たちは生徒会室に滑り込んだ。
滑り込んだことに激しく後悔することになるとは知らずに…
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