チャラ男の女装作戦

「小夜ちんが女装すればいいんだよ」


「ん?」


「大体さっきの色仕掛けが失敗したのは小夜ちんのせいでしょ?」

「んん?」

「それでさっきの一年生はハーレムを望んでいるわけだ」

「ん、うん」

「ならば小夜ちんが女装して完全なるハーレムにすればいい」

「んんんんんんんんん?」


 小夜彦が笑顔のまま混乱してる。まさか自分に矛先が向くとは思わなかったのだろう。いい気味だ。


「なるほどね。アンタにしては名案じゃない」

 お前も乗り気なのかよ。


「完全なハーレムって、その場合俺の存在は一切ないものとしていないか?」

「さっきも言ったけどまーくん眼中に入ってないから大丈夫だよ。ゆるキャラが一人いるぐらいで私達の美貌は霞まないよ」

「なんだその自信。」

「もしかしてまーくん女装したいの…?公害じゃん…」

「んなわけあるか!!」

「は?まーくんの女装?何それ見たい」

「なんでだよ。誰向けだよ。」

「俺の女装だって誰向けだよ…」


 小夜彦の言葉を聞いて、ちょっと小夜彦の女装姿を想像してみた。


「いや、お前はいけるだろ」

「ガタガタ言うんじゃないわよ男でしょ!」

「男だからだよ!」

「偶然にもここに女子制服が」

「なんで!?東の趣味!?」

「ちげーよ!俺だって知らねーよ!」

「よかったじゃない。女子制服なんて着る機会ないわよ誰のかわからないけど。」

「美人かもしれないよ。誰のかわからないけど」

「なんで誰のかわからない制服着なくちゃいけないのー!!?」


 なんで急に結託し始めたんだこの二人。

 小夜彦が涙目で助けてサインを行っているが、ぶっちゃけ俺も緩羽の案は名案だと思うし、もっとぶっちゃけると小夜彦の女装を見てみたい気もある。申し訳ないのだが見殺しにさせていただく。合掌。


「まーくんはちょっと外にでてて」


「え」

「ほら、飴あげるから外でなめてなさい」

「俺は幼児か!!…もらうけど」

「釣られてんじゃねーよデブ!」

「デブの何が悪い!悪口みたいに言うな!」

「デブは紛れもない悪口だよ!!」


 そうして、俺は教室の外にでた。親友の悲痛な悲鳴をBGMに舐める飴の味は非常に背徳的なコーラ味がした。



 数分後。ピタリと悲鳴が止まり静かになった。


 着替え終わったのだろうか。そこで今着替えている人物は男であるため別に俺が外にでる理由はなかったのでは、と気づいた。一体俺は何を遠慮していたのだろう


 俺はそうして「終わったのかー」と教室のドアをガラリとあけた。


 そこには「いい汗かいたぜ」とばかりにさわやかな顔をした女子二人とドアに背を向けて、ブレザーの女子制服で呆然と鏡を見つめている小夜彦(?)がいた。


「だ、大丈夫か?」


 返事がない。

 よく見るとふるふると小さく震えている。もしかして泣いているのか?


 途端に罪悪感がどっと襲ってきて、俺は必死に頭の中でかける言葉を探した。

 すると


「東ぁ!!!!」


 想像以上に女子に近い外見になった小夜彦がこちらを向いた。

 正直ドキッとしたぞ。どうやら化粧もしたようだ。


 いや、それより俺が驚いたのは、その声が想像していたものより100倍明るかったことだ。

 顔は紅潮し、口元がふるえている。恥じらいからきているのか、泣く3秒前なのか判別がつかない。


「お、俺ちょっとかわいすぎじゃない…?」


 何に目覚めてるんだお前。


 思わず三歩程後ずさりした。


「力作」

 いつのまにやら、俺の横にいた緩羽が自慢げに報告してきた。

「何自分の手柄みたいに言ってるのよ。ほとんど私のおかげでしょ」


 何故か手柄を取り合う二人は置いておいて、俺は明らかにイケない扉を開いてしまっている小夜彦が心配だった。まさかその紅潮が興奮からきているものだなんて思わなかったし知りたくなかった。


「お前なんか大丈夫?」

「大丈夫じゃない!大丈夫じゃないかわいさだよね!?」

「身長165センチが言ってもな…」


とは言っても、もとから整った顔立ちであるため似合っていることには似合っていた。

 元の姿は茶色がかかったサラサラで男にしては長めの髪だったが、男だったらチャラくて鼻につくその髪型も女子制服姿なら絶妙にマッチしていたし、短いスカートからは足の毛はそられたのかやたら綺麗な足が見えていた。顔も、肌は普段より凹凸の少ないものになっていて、大きな目も増強されたように感じる。メイクというのは本当に人を変えるのだな。

何も言われなければ確かに背の高い美女に見えるだろう。


「ちょ、これで何か商売できないかな?」

「希望にみちた顔をするな!その姿で思いつく商売にロクなものがないぞ!」

「だって俺かわいいしいけるのでは…」


「俺かわいいとかよく私の前で言えたものね?私の方が100万倍かわいい」

「何男とかわいさ張り合ってるんだよ」

「男にしてはかわいいのは認めてあげる」

「ありがとう!」

「ありがとうじゃねーよ。お前も煽るな!」

「まーくんだって賛成してたんだから同罪だよー」

「ぐっ…そりゃそうだ…」

「ま、まーくんもやってみる?」

「何に気を使ってるんだお前は」

「美人二人におめかししてもらうのも悪くなかったぜ!!」

「誘うな!」

「ある意味似合うよまーくん。想像しただけで吐きそうだもん」

「生理的に拒絶してんじゃねーか!」


 こうして、有亜入部作戦は『ドキドキ!仮入部をしに料理部に行ったらそこはハーレムで…!?』というものに決まった。

 題名は小夜彦が考えた。

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