だんだん増えてく仲間に不安になっていくの巻

「東!!お前いつからそんなハーレムみたいな状況になってたの!?金!?金なの!?」


 親友よ。この状況が羨ましく見えるならお前も相当な変人だな。お前程の顔のやつがそんな事を言っても嫌味しか聞こえないぞ。


「まぁとにかくそういった経緯なんだ。料理部入ってくれないか?」

「うーん…美女二人がいるのはなかなかに魅力的だけど…」

「魅力的だけど?」

「今バイト中だからあとにしてほしいなーなんて」


 部員候補の一人。小夜彦は、眉をハの字にして笑った。

 俺達は現在、夕食も兼ねて、話を持ち掛けに小夜彦の働いているレストランに来ていた。一石二鳥というやつだ。


「はぁ?こっちはこっちで急いでるのよ。さっさと入部届を書きなさい」

「強引にも程があるだろ!」


俺は理不尽な事を言いながら立ち上がった愛澄を、強引に座らせた。


「愛澄さん今日も美人だね」

そんな場面でも小夜彦は全く動じない。マイペースに愛澄と話し出す。

「そんなの知ってるわよ。何?口説いてるの?」

「いや、美人なのに残念だなーって」

「まーくん離して、この男殺せない」

「どうどうどう」


 こんな軽口を愛澄に言える男は小夜彦ぐらいのものだろう。

 一応俺の幼馴染であるという事は、愛澄の幼馴染という事でもある。長年の付き合いで、ある程度の扱いは心得ているはずだ。


 今にもとびかかりそうな愛澄を気にする様子なく、お冷を置くと、少し離れた場所から聞こえた店員を呼ぶ声に元気に返事をしながら駆けて行った。


「アイツも大変ね。見ず知らずの人に媚びへつらいながら食べ物を運ぶことのなにが楽しいんだか。」

「見ず知らずの人じゃなくてお客さんな。」

「っていうかコイツよくこんな所で寝られるわね。意味わかんない」


 愛澄はそう言って、すーすーと顔を伏せて寝ている緩羽を指さした。

 俺もコイツの事は全くもって意味がわかんないので放っておこう。


「とりあえず小夜彦は諦めるか…バイトで大変だしな…」

「他に部活に入ってくれるような人いるの?」

「いないなぁ。どいつもすでに部活に入ってるし。お前はだれか協力してくれそうな友達いるか?」

「私友達いないし」

「そんな寂しいこと言うなよ…」

ってなんだこのやりとりデジャヴだぞ。緩羽と案外仲良くできるんじゃないか?

「あるいは、私のファンクラブ(まーくん監視隊)の連中を使うか…」

「ん?今ものすごく聞き捨てならない単語が聞こえたぞ?」

「あぁん!まーくん気のせいよ!私の顔を見て這い寄ってくる有象無象を有効活用する話なんてしてないわ!」

「聞き捨てならないどころか人間性にかなり問題があるフレーズが聞こえるなぁ。ものすごく忘れたい」


「でも、どうせならまーくんがある程度気を許している相手がいいわよねぇ。」

うんうん。怪しげな団体の知らない人間に嫌々入部される事ほど迷惑な事は無いぞ。


「やっぱアイツしかいないわよ。もう一回呼び出しましょうか」

 そう言って叩くようにチャイムをおした。クイズ番組か。


 まぁ、愛澄の言う通り小夜彦はかなり好物件だ。気心が知れているだけでなく、現在入っている部活動も、あまり熱心ではない。

 確か演劇部だったはずだが、ほぼ幽霊部員で間違いないらしい。(たびたび裏方を手伝いにいっているらしいが)

 口から先に生まれたような小夜彦の事だ。家計が苦しくてーとか知り合いの店長が困っててーとかうまい事言って誤魔化しているのだろう。


「ここの席やたらと騒がしいね!ほい、注文の品」


 そこに、まさに会話の中心人物である小夜彦が、料理をもってやってきた。

 俺の興味は一気に料理に移り変わった。


「えっと、冷やし中華が愛澄で、カルボナーラが緩羽で、そのスペシャルビッグステーキ定食としゃぶしゃぶサラダとライス大盛とコーンスープと手羽先が俺のだ。」

「東ったら。せっかくかわいい子二人とごはんに来てるのに…完全に食べるのがメインじゃん!」

「何言ってんだ?見ろこのテーブルの上を。最早ハーレムだろ。肉の」

「花より団子の見本かな?」

「この肉でいっぱいな眺めは、もはや花見だろ?」

「うちのスペシャルビッグステーキにそんだけ付け合わせたのはお前が初めてだよ」

「まーくんに勝てる客がいるわけないじゃない。バカじゃないの?」

「ここでも俺が最強なわけか…」

「お前は一体誰となんの戦いをしているんだよ。ここは大食い大会の会場じゃないからねファミリーレストランだからね?」


「ん、ふわぁ…んん?…酒池肉林…?」


 目の前の匂いに誘われてか、俺たちの騒々しさに無理矢理連れてこられたか、緩羽も夢の世界から帰ってきたようだ。もぞもぞとよくわからない事を言っている。


「肉しかないぞー緩羽ちゃん」

「…誰?」


 寝起きで焦点がやっと定まったような目で、ふにゃふにゃと口を動かしながら小夜彦に言った。


「あれ?話すの初めてだっけ?ごめんごめん馴れ馴れしかったなー!」


 目の前の女子組とは逆に、小夜彦は人当たりよく、明るい性格のせいか異常に交友関係が広い。

チャラチャラとした見た目の通り軽薄なのだが、老若男女、外人、人外、本当に誰とでも仲良くなれてしまう謎のスキルの持ち主だ。愛澄とはまた性質が違い、愛澄が相手の性欲や恋心を刺激するのに対して、小夜彦は単純によく慕われているのだ。

 今回はあまりにも友達が多すぎて今もすでに緩羽と友達になっているつもりになっていたのだろう。


「あのチャラ男まーくんの知り合い?」

緩羽は小声で俺に尋ねた。

「友達だ」

「マジでー意外―」

友達を部活に勧誘すると言ってこのレストランに来たはずなのだが、この女は全く趣旨を理解していないようだな。何しにきたんだ。

「あ、同じ部活になるかもしれない人―?」

「そうだよ。散々話しただろ。」

「なるほどほどほどー」


 そう言うと、緩羽は目から魂を吸い取りそうな程じっと小夜彦を見つめる。


「そんなにじっと見ないで☆照れちゃう」

「料理部、入らないの?」

「うーん。金にならないしなぁ」

 なんだ、ただのクズか。

「何それふざけてるの?時は金なりっていうでしょ!?」

「でも現金に還元できないし!」


「部活動は最低一週間に一度は活動をすることで部活動と認める」というルールがネックなのだろう。もはやお金稼ぎが趣味と豪語している小夜彦にとっては、金にならない部活よりもバイトをしている方がよっぽど有益なのはわかる。

時は金なり。デブに付き合って飯食ってるより客に配っていた方がよっぽど時間の使い方としては正しいだろう。


「彼はとてもお金が好きなようだけれど、何か事情がおありで?」

緩羽は小夜彦に聞こえないように耳打ちをしてきた。その声がささやき声に近いため耳がくすぐったい。

「いや、本人曰く金稼ぎが趣味らしいが、まあ、父と二人暮らしだしな。色々と苦労してるんだろ」

 出会った時からすでに二人暮らしだったため、家の事情は深く知らないが。

「ふむふむ」

緩羽は理解してんだかしてないんだかわからない顔でうなずいた。

「ねーねー、小夜彦くんちょっと」

緩羽はおもむろに立ち上がって、小夜彦の制服の裾をひっぱって俺達から離れた所に連れて行った。仕事中なのに大丈夫なのだろうか?

一分ほどして、緩羽だけが戻ってきた。小夜彦は仕事に戻ったようだ。

「おかえり何話してたんだよ」

「私達に聞かれたくないこと?」

 にやり、緩羽は、明らかによからぬことを企んでいる笑顔で応えた。

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