エキセントリック姉さんの巻

「というわけで、部員を集めるぞ!!!」


 部室に戻って高らかにそう宣言した。

さっそく部員集めをしに部室から乗り出す。


「ちょっと待ってちょっと待って」

のを許さずに、緩羽がワイシャツのすそをひっぱって止めてきた。

少しバランスを崩しながらも再び部室に入り、正座して緩羽と向き合う。



「私、頭数に入ってるの?」

「え?何?入らないの?」


 あれだけ入り浸っておいて入部しないわけがないだろ。完全に頭数にいれていた。


「だって散々絶対入部させないて言ってたじゃん」

「状況が変わったんだよ…」

「へぇー私傷ついてたのになぁ今更入部しろなんて言うのかぁーずいぶん都合いいなぁ~」


 嘘つけ。何が「傷ついた」だ。

 あんだけ入部拒否しても勝手に居座っていただけでなく、冷蔵庫を漁ったり、俺のおやつをつまみ食いしたりしていただろ。

――という文句は一端胸の中にしまっておこう 。

 コイツ、図々しいだけじゃなく、いい性格してやがる。


「天使的にはぁ、他にも回復スポットはあるから別の場所でもいいんだけどなぁー」

「…お願いします。入部してください…」

「え~どうしよっかなぁ~!」


 立場が上になったとたん、やけに生き生きとしだした。天使を自称している割に言っている事は完全に小悪魔だ。しかも面倒くさい。


「っていうのは冗談で、友達というよしみで協力してあげよう」


 こいつただ俺で遊びたかっただけじゃないか!

 いつも眠そうな表情がいい笑顔になってたし!声もいつもより覇気があったし!


「私は天使だからね」


 小悪魔の間違いだろ。


 勝ち誇った顔がなんとなくムカついたので、デコピンしておいた。



「具体的にどーする~?」

「あーとりあえず愛澄にあたってみようかと」


 一番に出した名前は双子の姉だ。

 過保護な姉の事だ。俺からの願いであれば一応了承してくれそうだ。


「あずみん、陸上部でしょ?入ってくれるかなぁ」

「そこなんだよな…正直めんどうくさそう」

「たしかに~」


 さて、どういった方法でアタックするか。双子の片割れでありながら、アイツは何考えているのか全然わからないんだよなぁ…。

 少しの間沈黙する。


「と、取り敢えず緩羽から言ってくれないか?」

「なんで?」

「俺が行くと面倒くさい事になるだろう」

「あずみんと活動していくのに、そんなんで大丈夫?」

「…やっぱ愛澄を誘うのやめとくか」

「諦め早いね」


 その時、生徒会長の妹の開け方を彷彿させる勢いでドアが開いた。



「話は聞かせてもらったわ!!」



「「げ」」


 正義の味方よろしくやたらスタイリッシュに立っていたのは、紛れもなくたった今会話の中心に立っていた人物。片貫愛澄かたぬき あずみだった。


「げ?「げ」ってなぁに?優しいお姉様が話を聞いて助けにきてあげたのに」


 俺とは似ても似つかないスレンダーな体が、蛇が巻き付くように密着してきた。

 改めて紹介すると、片貫愛澄は俺の双子の姉にあたる。特筆するべき部分は間違えなくその容姿だろう。

 モデル並にスラリとしたスタイルに、どんなに気が抜けていても澄ましている様に見える顔立ちをもった、学年みんなが知っている美人。

 買い物に行けば大体半額、人ゴミを歩けば道が開くし、笑顔を見せるとどこからともなく花が舞い、動物園に行けばどの動物も求愛し始める、まさに魔性の女である。


 さて、たびたびアピールしていたため聞き飽きたかもしれないが、もう一度言おう。

双子である。


 デブと美女というビジュアルの違いのため、百人に聞いても百人が疑う正答率ゼロ%の関係性だ。もちろん百%血が繋がっている。何度でもいうぞ。百%血がつながっている。


「話は聞かせてもらったわ。じゃねぇよ!なんで話を聞かせてもらってるんだよ…」

「あら、気づかなかったのぉ?学ランの裏を見てみてみなさい」


緩羽がぺらりと俺の学ランをめくった。「うわっ」と小さく言って元に戻した


「え、何、何があったの」

「盗聴器ついてたよ」

「糸くずついてたよみたいなノリで言うな!大問題だよ!」


 そう。そんな姉の欠点「異常な過保護」

 俺が不器用な性格のためもあるのだろうが、幼少期から対人関係を把握したがり、少しでも怪我しようものなら救急車を呼ぼうとしたり、他人にいじめられたら敵討ちしたりしにいくような面倒くさい方向に 暴走しがちな過保護なのである。

 弟の俺が言うのもなんだが、要するにブラコンだ。


「やっぱりまーくんは鈍感ねぇ。そういうところもかわいいけど。お姉ちゃん心配だわぁ」

「ひぃぃぃぃぃ」


細い指で俺のたぷんたぷんの顎をなぞる様になでてきた。背筋に悪寒が走る。


「おいまて!緩羽、盗聴器どうした」

「元に戻しておいた」

「戻すなよ!捨てろよ!」

「それ何円したと思っているのよ。捨てるなんて勿体ないでしょ」

「サイコパスかお前は!実の弟に盗聴器なんてつけるな!」


「だって!だってー!まーくんが心配なんだもん!かわいいんだもん!四六時中行動を監視してないと心配で心配で吐きそうになるんだもん!!」


艶っぽい声なのに、子供みたいな口調で犯罪行為を告白する姉はなんだかとても見ていられなかった。っていうか見たくなかった。見せないでほしかった。


「まぁまぁそんなことどうでもいいじゃん。協力してくれるみたいだし、ここは友好的にいこ~」

「どうでもよくねぇよ。警察沙汰だよ。下手したら兄弟の縁切る問題だよ」

「どうでもいいわけないでしょ!アンタみたいな変な女にまーくんがひっかからないようにお姉ちゃんは監視する役目があるのよ!」

「さすが双子。タイミングぴったり」


タイミングと最終的な意見はぴったりかもしれないが。それ以外は全く同調できないな。

しかも緩羽はマイペースに拍手を送ってきた。神経が丸太でできているのだろうか。


「そもそもお前、陸上部入ってただろ?どうすんだよ」

「そんなもの辞めてやるわよ」

「ええええそんな簡単にやめていいのか!?あんなに足速いのに」


「私の代わりならいくらでもいるわ。でも、ここは私を必要としている。他の誰でもない。まーくんの部活だし。」


 愛澄はそう言ってピタリと俺の腕に抱き着いて体をくっつけてきた。いくら美人とは言え、友達の前で双子の姉にいちゃいちゃされているところ見られるのは正直滅茶苦茶恥ずかしい。


 そんな片貫家のいたたまれない光景を見た友達―緩羽は言った。


「うわあ。金目当てにおじさんと援交する女子高生見てるみたい」

「何てこと言うのよ!ぶっ殺すわよ!?」


 そういうわけで部員は三人になった。

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