第4話 いきなり廃部宣言の巻

生徒会室につくと、俺と同じようにいくつかの部の部長が並ばされていた。

 俺も一番はじっこに立つ。


 他の生徒会役員の姿はなく、西日が差し込むいかにも偉い人が座る椅子といった席。そこに生徒会長の向上院朱里亜こうじょういん じゅりあ先輩が座っていた。


 夕日が逆光だったことあり、貫禄がある、というか、一つ年が違うだけの先輩だとは思えない、王者の威厳があった。

 一体何がはじまるのだろうか。こんな厳然とした人を前にしたら、嫌な予感しかしない。かつ丼すらでる気配もない。

 どうか部費を増やすとか、部室をリフォームするとか、みんなでお茶会しようだとかそういうハッピーな話題にしてほしい。


「やぁ。よく来たね。」


 招待した部長は俺で最後だったようで、俺が並び終えたと同時に生徒会長は話しはじめた。


 こんな間近で生徒会長を見るのは初めてだが、キリッとした目鼻立ちに、前髪を後方にむけおでこを見せる髪型オールバッグ人の上に立つ事を約束されている者の余裕と自信が感じ取れた。

 先ほどの妹さんが向上院レベル5だとしたら、目の前の生徒会長は向上院レベルマックス、スキルマックス、完全体にメガ進化みたいな感じだ。


「はじめまして。私は向上院朱里亜。」

「カラスが白だ。」と言ってもつい納得してしまいそうな、迫力のある声だった。下手な教師よりもよっぽど説得力のある話し方だ。緊迫感が高まってきた。


 やはり、料理部といいながらその活動はせいぜい三分クッキング未満のことしかしていないくて実際は部費で買った食べ物をひたすら食うだけの部活という事がばれたのか!?


慌てて隣の面子を確認すると、ブブゼラ部、けん玉部、こたつ部、ディスコ部、etc…

まさに活動内容が不明の小さな部活ばかりが勢ぞろいしていた。


「さて、大体察しているかもしれないが、今君たちの状況を手短に話そう」


 今並べられている面子の心拍数が一斉に上がったのを感じた。これが死の宣告だという事を悟ったのだろう。隣の人間の心拍数が聞こえてきそうだ。

 ん?一人だけ8ビート刻んでるやつがいる。誰だよどうやってんだよ。


「君たちの部活は近々廃部にする予定だ」


 俺が8ビートに心を奪われているうちに、死刑宣告がされていた。


 ――――さようなら俺の楽園。


 体育が終わったあと、行事の真っ最中。みんなが汗水たらして部活やっている中でのんびりと食う飯のうまいことうまいこと。あぁそれが一瞬で瓦解してしまうとは…


 緩羽と駄弁りながらおやつを食うのもなんやかんや楽しかったな…ああ急に切なくなってきた。


「まぁ、理由を話すとね、この学校は部活が増えすぎた。君たちなら理解してくれると思うけど、部費に回せる費用は有限だからね。」


そりゃそうだ。貴重な部費をデブの食費に回していいわけがない。


「厳しい言い方をすると、たくさんの部活の中でも特に無駄な時間をすごしている。と思った部活をピックアップして同好会というくくりにしようかなと思ったんだ。」


くそ、びっくりするほど反論が思いつかない。


「ま、まってくださいよ会長!この学校部活に入るのが必須じゃないっすか!今の部活がなくなったら俺達はどうしたらいいんですか!?」


 こたつ部の部長が叫んだ。活動している様子もないのにここまで必死なのは、やはり他の忙しい部活に入りたくないからだろう。こたつ部なんて料理部より生産性のない部活を作るぐらいだ。よっぽどのダメ人間に違いない


「もちろん、他の部活に入ってもらおうと思っているよ」

「う、でもこの時期、どこの部活も大会で必死だし今更受け入れてくれる部活がどこに…」

「ああ、一つだけ受け入れてくれるという部活があるよ」


 自然と、下を向いていた部長達の顔が一斉に上をむいた。どうか、楽のできる部活でありますように。

その時、後ろのドアからドラムロールが聞こえてきた。

なんなんだ!?一体何が始まるんだ!


「奇術部だよ」


 にこり。会長が宣言した途端、勢いよくドアが開いた。

パンカパーン

 空気を抜けるような清々しいトランペットの音が響く。

 ツインテールに巨乳、シルクハットに、眼帯に、星のタトゥーシールといった特徴だらけの恰好をした女性――春野宮先生がトランペットをふきながら大量の鳩を舞い上がらせた。


といっても室内なので、鳩は行き場を失ってバッサバッサと羽ばたきながら辺り一帯に羽を落とした。


ヤバイと言う空気が流れる。


「…やはり奇術部も廃部にしようかな」

「ああああ。違うのです!パフォーマンスですよ!みなさんを歓迎する!」


 笑っていない笑顔で会長が言うが春野宮先生は慌ててそう言い訳しながら3羽の鳩をシルクハットに収めてかぶりなおした。


「どうもどうも!!みんな大好き春野宮ローザ先生デス!!」


 春野宮先生はお笑い芸人のようなノリで深々とお辞儀をしてから、踊るように俺たちの前へでてきた。

 春野宮ローザ先生は、この学校でもとびぬけて有名な先生だった。というのも大変手品が得意な先生で、たびたびマジックショーに出演くらいの腕前らしい。それからその派手な装いと、その特徴的な容姿と素顔は美人なのではないかという噂で、担当外の学年からもよく知られている先生だ。


 さらに、担当である国語の授業も大変わかりやすく、授業中に鳩を飛ばすことを除けば中々いい先生ではある。おまけに美人で外人並みにエグイスタイルをお持ちのため男子生徒からはそう言った感情を抱いているファンも多い。


 今も「おっぱいでけぇ」「今揺れた」等下世話な感想がボソボソと聞こえてくる。

滅茶苦茶雑にまとめると、PTAからものすこく嫌われていそうな先生ナンバーワンだ。


「はいはい!大方話は向上院サンから聞いたと思いマスが、どうデス!みなサン!奇術部に入りませんか!」


身振り手振りも声も大きく、それがショーの一環であるかのような演技かかった話し方で俺たちに語り掛けた。


「悲しい事に、現在部員が一人しかいないのデス。ぜひみなサンに参加していただきたい!!」


料理部より深刻な状況じゃないか。そこに、会長席から向上院先輩が補足をしてきた。


「春野宮先生のパフォーマンスは、もっとこの世界にアピールすべきだ。私はこの部活を潰すのはもったいないと思ってね。どうせ部費を使うならこういう未来ある部活に使いたいと思ったんだ」

「そ、そんなにすごいんですか?」


ブブゼラ部の部長が恐る恐る聞いた。


「あぁ。気づいた人はいるかな?心拍数で8ビート刻んでいましたよね」

「さすが向上院サン!よく気づきましたネ!!」


さっきの8ビートお前だったのかよ


「あと、さっきのドラムロールはボイスパーカッションですか?」

「もちもちろんろんデス!」


怖っ、何この人体内にドラム仕込んでんの!?


「皆さんマジックに興味がおありでないご様子デスか!?それとも私の実力を疑っていられる!?ではでは、ここで一つ簡単なイリュージョンをお見せいたしましょう!!」


 そういってどこからともなくステッキを取り出した。同時におっぱいがぶるんと揺れる。すでに隣の男どもから小さく歓声が沸いた。


「そうデスね…そこの大きな料理部の部長サン!」

「え、俺?」

「彼を一瞬でこの場から消してしまいまショウ!!」

「なにそれ怖い!!」


春野宮先生は特に俺に打ち合わせなどをする様子もなく、わきに置いてあったアタッシュケースから明らかに女児用の魔法のステッキを取り出した。それからにやりと笑い俺を見る。


「ちちんぷいぷいの~」

「え、マジで、ちょっと待っ」

「ぷい!!」


暗転



「…おかえりまーくん」

「…ただいま」


 一瞬、あたりが暗くなったと思ったら、珍しく目を丸くして驚いている緩羽と目があった。


つまり、部室に戻ってきている??え??なにこれ?こわっ?手品ってレベルじゃないだろ。魔法だろ。


「ずいぶん個性的な部室の入り方をするんだねぇ。生徒会室で何教わってきたの」

「わかんない…魔法か?」

「まーくんが魔法なんて覚えたら、この世の人達全員お菓子になっちゃう」

「魔人ブウかよ俺は」


 暗転


 問答無用で暗転する謎の魔法はなんなんだ!!?



 目をあけたら俺は生徒会室にいた


「うおおおおおおおおお」と周りからすごい歓声が起こる。


俺はまず自分自身何が起こったのか全く自体を把握できないためきょろきょろと辺りを見回すことしかできない。


完全に魔法だろ今の。現代の技術でできてはいけないだろアレは。


「これがイリュージョンの世界!どうデス?入部希望者は!」


この場にいる俺以外の全員が手をあげた


「ありがとうございます!ありがとうございます!みんなで全国を目指しまショウ!」

「「「「「「おー!!!」」」」」」


俺一人だけがこの場の雰囲気に乗れずにただぽかんとして「奇術に全国大会なんてあるんだ」なんてどうでもいい事を考えていた。


「よかったですね。春野宮先生。大所帯ですよ」

「ありがとうございます向上院サン!あなたもよかったら遊びに来てくださいネ」

「よろこんで」


こうして俺以外の部長は全員奇術部に鞍替えし、生徒会室から元気よく去っていた。


「すばらしいマジックショーでしたね。お姉さま。」


そういえば居たんだな。というぐらい今まで端っこでおとなしくしていた向上院さん(妹)が会長の隣に歩いてきた。


「あぁ。本当に春野宮先生は素晴らしい…」


その言葉に応えたのか単なる独り言かはわからないが、先ほどの威厳ある会長からは想像もつかないほど、うっとりとした言葉を漏らした。もしかしてファンなのだろうか。厳格そうな人なのに意外だ。


「片貫君。君は奇術部に入らなくていいのかい?」

「あ、・・・保留でいいっすか?」



「いいけど、君の部室は明日から奇術部のものになるよ?」



「え」


「ちょうど奇術部と料理部の部室は隣接しているじゃないか。前々から春野宮先生が部室は狭いと言っていてね。せっかくの機会だし、壁をとっぱらってしまおうかと」


「ええええええ!!!明日!?」


「あぁ。だから君も早いところ入部する部活を決めた方がいい」


 くっ、困った!ここの学校は嫌になるほど部活が盛んなんだよな!料理部みたいに緩くて自由で飯が食えて、こう救われている感じの部活は…他に…あるわけない!そんな感じの部活がすべて奇術部に併合されてしまったんだ!俺は一体どうすれば…?


「あ!あの、ここに集められた部活の基準ってあるんですか!?」

「そうだね。部員が3人以下で不定期に活動している部活だよ」

「じゃ、じゃあ部員を三人以上で定期的に活動していたら部活として認められるんですか!?」

「新しく部活を作る場合、部員は最低5人。2学年いれる。顧問をつける。の三つの条件が必要ですよ?」


 会長の横で秘書のように立っている向上院(妹)が補足をいれてくれた。


「じゃ、じゃあその条件が揃ったら料理部の部室はまた使えるようになりますか!」


会長は3秒程考える仕草をする。


「では、先ほどの春野宮先生の助手をしてくれた事に免じて、特別に期限を3日後に伸ばしてあげよう。色々と大変だと思うしね。」


「でもその条件かなり厳しいですよ?」

大人っぽい笑みを浮かべた生徒会長に向上院(妹)が言った。


「この学校の全員は部活に入っているわけですし、兼部は禁止。おまけに明後日までなんて…」

「や、やらせてください!」

「へぇ、あてはあるのかい?」

「あるんですよ。それが割と」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る