第3話 突然の来訪者にちょっと焦るの巻

メロンパンはだらだらと食べていたその時、道場やぶりがやってきたような勢いで部室の扉が開いた。

 周りよりもゆっくりと流れていた時間を急激に正常に戻された感覚だ。


「面倒くさそう」という予感を胸にしてだれ気味に振り向くと、そこには一人の女子生徒が立っていた。


 上履きの色が赤い事から一年生なのだろう。小柄な体形をしていながら、どこか気品があり凛とした雰囲気の少女だった。

 第一ボタンまでワイシャツをしっかりとしめ、スカートもひざ丈だ。育ちのよさが着こなしから表れている。


「誰?お前の友達?」

「まさか。私友達いないし」

「そんな寂しい事言うなよ」


 誰だ?俺の友達にもこんな奴はいない。そもそも後輩がいない。隣の奇術部か、入部希望者か。いや、入部希望者って雰囲気じゃないな、ありゃ。なぜか敵意むき出しの目を俺に向けてるし。


「えっと、こんにちは?何かようかな?」

 相手が一年生という事もあり、できる限り優しい口調と笑顔で話しかけてみた。後ろから聞こえる「幼女に話しかける誘拐犯みたい」という声は気にしないでおこう。


「なんであなたみたいなデブがこんな美人と!?」

「え」


 第一声がそれ!?薄々俺も感じてたけど、第一声にそれを言うか!?


「あ、間違えました」

だよな。それを言いに料理部の門を開けたわけじゃないよな。


「えっと、拒否権はないのですが、生徒会室に来てください。」


マジでなんなんだコイツ。

「マジでなんなのアンタ」


 俺の心の声をなぞるように緩羽が聞いた。こっちも敵意むき出しだ。


「何者かわからないやつをこの部室に入れる気はないんだけどー?」

 その言葉そのままお前に返してやりたいよ。よくそんな部員みたいなセリフが言えたな。


「申し遅れました。私は向上院こうじょういん 有亜ありあと申します。」


 少女は礼儀正しく一例をした。名前からしてお嬢様むき出しだ。さっきのお嬢様らしからぬ発言は抜きとして。…ん?名前?


「あ、生徒会長と同じ苗字…」

「はい。生徒会長の向上院朱里亜こうじょういん じゅりあ様の妹です。」


 生徒会長の向上院朱里亜と言えば、容姿端麗、文武両道、おまけに家柄もよしという、明らかに神様に贔屓されて生まれた人間じゃないか。そんな人の妹だなんて、この子もすごい子なのだろうか。


「ふーん誰の妹だとかはどうでもいいんだけど。何の用?見ての通り活動中なんだけど」


 なんでお前はそんなに攻撃的なんだよ。見ての通り活動中には見えない光景だからちょっと焦っているんだよこっちは。生徒会室に呼ばれるだなんてただごとじゃないだろう。


「どう見ても活動中には見えませんが…」


 ほら!寝転がってメロンパン食ってる姿は明らかに料理部の活動じゃないだろ!

 目的は不明だが、生徒会長の血縁者だぞ?うまく対応したら部費を増やしてもらえるかも!


 向上院有亜と名乗った少女は軌道修正をするように、ごほんごほんとわざとらしい咳払いをして言った。


「とにかく片貫東さん。朱里亜お姉さまがお呼びなので今すぐ生徒会室にいらしてください。」


「俺?」

「この料理部の部長はあなたと聞いているのですが?」

「そうだけど、そんな急に…」

「それに関しては申し訳ない事に料理部の存在を完全に忘れていまして…」


 そのまま忘れてくれててよかったのに…何か悪いことしたのだろうか。料理部の部長として生徒会長に会いに行くのははじめてだ。


「はぁ?私もついてく」

「部員ですらないのに…」

「まーくんおんぶ」

「しかもめっちゃ図々しいし…」

「すいません。今回呼ばれているのは部長の片貫先輩だけなので…」

 遠慮がちに生徒会長の妹はいう。

「なんで?」

「ぶ、部員に用があるからでは?」

「私天使なのに?」

「え?」


 それから「一緒に行くー」やら「なんかおもしろそーだからつれてけー」とゴネる緩羽をなんとかひきはがし、生徒会長の妹と共に生徒会室に向かった。

 生徒会室にいくまでの道のりは会話など全くもなくキビキビと姿勢よく前を歩く生徒会長の妹にひたすらドスドスとついていっていた。


 生徒会でお茶とかかつ丼とかでないかなーと淡い期待を抱いて

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