罵倒(バト)って!逢間くん!

 憑きサーメンバーは次の日から早速行動を起こす。


 神様の話では、公園で本を読んでいた女の子が怪しいらしい。填武の証言と合わせると、眼鏡を掛けた小さな女の子という情報が得られた。


「公園に張り込むのと、聞き込み調査するのとで分かれよう。僕と琉依、それから鬼越さんが聞き込み調査。残りは張り込みで良いかい?」


「しつもーん! どういう基準で組み分けたんですか?」


「顔が良いことを最大限に利用して情報を聞き出せそうな人と、そうでない人で分けたんだよ」


「納得……」


 実際、陽瑠の采配は見事だった。特徴に合致する人物の情報提供者には陽瑠、琉依、恵理のいずれから、言ってもらいたいセリフのリクエストに応える企画というのを大々的に打ち出したところ、数多くの情報が寄せられたのだ。


 恵理の前には男子学生の長蛇の列が出来、ちょっとしたイベント状態であった。


 また、昨年のイケメンコンテスト優勝者である琉依の前にも女生徒の列が出来たが、隣で恵理が般若の形相で睨み付けていたので思った以上に集客は見込めなかった。


 面白いのは陽瑠の前に並んだ学生で、女性が多いものの中には男性もちらほらと見受けられたのだ。


「逢間くん、罵って!」


「こんな往来で罵倒されたいとか、君の性癖っておかしいんじゃない?」


「なんでも良いから罵ってください逢間さん!」


「はあ? なんでもってさ、ちょっとは自分で考えてよ。僕のことしか考えられなくなった?」


 ーーそして、気がつけば陽瑠の罵倒イベントになっていた。


 特にすることがなくなった琉依は、恵理に無体を働く輩がいないか目を光らせつつ、この馬鹿げた罵倒イベントを観覧していた。そして改めて陽瑠の魔王と呼ばれる由縁を再確認する。


 魔王の由縁は無駄な威圧感だけではない。人を惹きつけるカリスマ性も、彼が魔王と呼ばれる理由だった。


 もって生まれた才能か、それともいじめられっこであった彼が身に付けた処世術か。いずれにせよ、凄い能力であることは確かだ。


 結果的に読者モデルの恵理よりも、陽瑠の方に人が集まった。魔王の力は伊達じゃない。彼の逸話がまた一つ増えた瞬間である。

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