神頼み(※神様の頼み事)

 神を自称する男とは大きく出たものだと、遠巻きに見ていた陽瑠は目を見開いた。


 新世界の神だのなんだの、人が神を自称するのは烏滸がましいと陽瑠は考える。そもそも痛いし胡散臭い。もっとも、巷には訪問販売の神だの神絵師だのといった神が溢れているので、填武もその類なのかもしれない……イケメンの神とか、そんな所だろうか。


「神様? ガブリエルの受胎告知を通してます?」


「ごめんなさい、西洋の神様じゃないです……」


「おや残念です。新世紀の聖人誕生を御祝いしたかったのですけど」


「あなたのがよっぽど聖人っぽいと思いますよ」


 生粋のキリシタンは神の概念が違うようで、織也と填武では話がなかなか進まない。あわや宗教戦争勃発かと思われる状況の中、助け舟を出したのは蕗世だった。


「神様って、神社とかに祀られている神様かしら?」


「はいそうです。うわー! その御神刀凄い! 僕じゃここまで出来ないや。武神は強いねぇ」


 自称神様は緊張が解けたようで、自分のことや填武との関係を話し始める。


 何者かに呼び出された神であること。術者が未熟者だったのと、儀式が不安定だったので存在が曖昧であること。そのせいで自分が何の神かわからないこと。そのまま放っておくと祟りになってしまうので、近くにいた填武に取り憑いたこと。ーー以上を陽瑠たちに語った。


「どうして神代くんの体を乗っ取るのかな?」


「悪霊が狙ってて危ないんだよ。僕が降りちゃったせいで、才能が開花しちゃったみたいでさ……」


 神曰わく、本来填武は霊媒体質だったが、そのようなものに触れる機会が無く生活していたので、気がつかなかっただけらしい。今回の件で"あちらの世界"と繋がってしまったので、無防備な彼を狙う輩が出て来てしまったのだとか。


 ただし填武の魂は、例えるなら生まれたての赤子。守る術を持たないので、危ない時はこうして神が顕現して保護しているとのことだった。


 填武のように、霊媒体質に気がつかないまま過ごしている人は珍しくないという。そういう人が、何かのきっかけであちらの世界に触れてしまうと、最悪の場合精神を病んで連れて行かれてしまうのだ。


「祈祷師とかの家系なんじゃないかな。神様を降ろせるって、普通の人じゃ出来ないもの」


「それで神様、あなたはどうしたらこの人の体から離れられるの?」


 神の話によると迂闊に離れると互いに危ないようだ。ヘタレだろうが一応神様、無理に引き離すと填武の魂ごと持って行き兼ねないとのこと。


 この事態を引き起こした術者を探し出し、その人に解いてもらわないといけないらしい。


「それじゃあまずは、その術者とやらを探さなきゃね」


「一緒に探してくれるの?」


「勿論! だってこんなにおもしろ……困ってるのに放っておけないよ!」


「理由はどうであれ助かるよ。ありがとう」


 普段の填武からはおよそ想像つかない、人懐っこい笑顔を向けられる。硬派な路線でも魅力的だが、わんこ系男子でも有りかもしれない。


 憑きサーの当面の"暇つぶし"が出来て、陽瑠は上機嫌だった。明日から忙しくなるだろう。


 かくして神様からの頼み事、略して神頼みを叶えるため、謎の術者探しが始まったのだった。

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