ヘタレな神様

 待つこと二時間。それは突然やってきた。


「ここ一週間で寄った所は、近くの神社って事くらいですか……」


「でもあそこは稲荷を祀っていないですよ。狐に憑かれてる説は薄いと思います」


 宅配ピザを七人で囲み、填武の最近の行動をおさらいしていた時だ。


 伸びるチーズと格闘する恵理に、タバスコのかけ過ぎで悶絶する琉依、真剣に話し合う織也と椎音など、好き勝手自由気ままな空間が広がっていた。


 マルゲリータピザを片手に、陽瑠が填武に質問を投げ掛ける。


「神社で何かあった?」


「いや、友人たちと無病息災のお参りをして、それで終わりだった」


「本当に? 些細な事でも教えて欲しいんだ」


 とは言っても、神社の屋台で買い食いをして歩いたこと。社に続く階段を一気に駆け上がり息切れした事、近くの公園で休憩した事ーーこれといって思い当たることはなかった。


「あとは、公園で休んでいたらサッカーボールが転がっていたから、友人の一人がリフティングをしたら本を読んでいた女の子に当てて……」


 どんな女の子だったか、思い出そうと記憶を掘り返す。ベンチの端に座っていた。眼鏡を掛けた小さなーー


「あ、てて……」


「神代くん?」


 様子がおかしいと思った陽瑠が、填武に近寄ると顔を覗き込む。すると彼は勢い良く顔を上げると、思い切り陽瑠を突き飛ばしたのだ。


 いきなりの出来事に尻餅をついた陽瑠は、唖然として填武を見上げる。填武の表情はわからない。


 蕗世が声を荒げた。


「ちょっと神代くん危ないじゃない!」


「その人と僕を近付けないで!」


 ようやく顔を上げた填武は、先ほどまでとは打って変わって弱々しい表情だった。硬派な雰囲気はどこへ行ったのか、眉をハの字に歪めた顔は、ヘタレという言葉がよく似合う。


 起き上がった陽瑠が笑いかけた。


「突き飛ばしてしまったことは謝ります。あの……怒ってますか?」


「怒ってないよ」


「嘘です怒ってます! だってあなた禍々しいですもの! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい食べないでくださーい!」


 すっかり怯えてしまったので、陽瑠が填武と距離を置く。代わりに填武に近寄ったのは、愛嬌たっぷりの笑顔を作った恵理だ。


 これで魅了されない男はいないと言わしめる、とびきりの表情で恵理が話し掛ける。しかし填武の反応は全く変わらない。


「なんで鬼が居るんですか! 剥き出しの荒御霊といい、ここは地獄ですか!?」


「こんな可愛い子がいるのに地獄だなんて失礼しちゃう! 地獄はもっと鉄臭いわ!」


「恵理ちゃん落ち着けって」


「ぎゃー! 汚い! なんて汚い魂なんでしょう!」


「しばくぞお前!」


 結局、陽瑠と琉依と恵理は怖がらせてしまうので、織也と蕗世と椎音が話を聞くことになった。


「あなた、さっき荒御霊だとか言ってましたけど、人の魂が見えているんですか?」


 織也の問いに填武はゆっくりと頷く。出された昆布茶が気に入ったのか、彼は湯呑みを離そうとしない。


 一口お茶を啜ったところで填武は口を開くと、


「見えますよ。一応僕、神様ですから」


と言った。

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