暇な日の来訪者

「暇だねぇ。琉依、一発芸やってよ」


「無茶ぶりだろ陽瑠さん」


「聖書の読み聞かせはいかがですか?」


「織也くんの声、アルファー波が出てるからパス」


「王様ゲームする? 負けたら女装して構内一周!」


「鬼越さん、宮比さんが負けたら面白みに欠けてしまうわ」


「それに私たちも負けたら男装しなきゃフェアじゃないわよ」


「……王様ゲームに勝ち負けって概念はいつ生まれたんだ?」


 その日の第四研究所は賑やかだった。そして、暇を持て余していた。


 こっくりさんをやろうと陽瑠が言い出すが、織也の「あなた絶対途中でうっかり指を離すので駄目です」という意見で却下され、心霊スポット行って動画撮ってネット配信しようという恵理の意見も、「洒落にならないものがあなたの彼氏のせいで映り込むので駄目です」という椎音の一言で却下された。


「なんか幽霊こないかなー。人間だけじゃ、つまらないよ」


「すげー事言い始めたぞこの代表者」


 そんなグータラした空間に割ってはいるように、コンコンと控えめなノックが響き渡る。


 どうせ美女三人を見に来たろくでもない男子だろう。そうアタリをつけて陽瑠は間延びした、やる気のない返事を返す。


「どこの誰だい? 悪いけど、うちのサークル女子が目当てなら一人あたり観賞代五千円払ってもらうよ」


 ふざけた陽瑠の返事に対して、返ってきた声は生真面目なものだった。


「いえ、女性に興味はないです。相談があってここへ来ました」


 ーー相談?


 興味を引かれた陽瑠が扉を開ける。するとそこに立っていたのは、たくましい体を持つ清潔感のあるイケメンだった。


「あれ? 神代くんじゃーん」


「琉依、知り合い?」


「知り合いってか、体育学部のイケメン君って評判だから知ってる。まあ俺のがイケメンだけど」


「……あなた一言余計ですよ」


 神代填武は困惑していた。自分はオカルトサークルに来たはずなのに、目の前に広がるのはモデル六人の座談会。顔面偏差値が軒並み高い。美少女読者モデルと言われる黒岩エリも、ここに混じるとごく普通の女の子に見えた。


 住む世界が違うと思い、引き返そうか本気で悩む。


「ここに相談? ってことは、幽霊関係だね!」


 引き返そうか悩む填武だったが、それは目を輝かせた陽瑠によって遮られた。促されるままに室内に入る。


 その足取りは重たいものだった。

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