3話「大学デビューってどうやんの?」
神代填武の二重人格疑惑
「憑きサーってイケメンと美女しか入れないらしいぞ」
「マジ? じゃあ俺は余裕だな!」
「は? 鏡見てから言えよ!」
食堂の片隅、体育学部の神代填武(かじろてんぶ)は友人二人と昼食を楽しみながら、憑きサーの話をする学生の話に耳を傾けていた。
「憑きサーかぁ……。最近すげー可愛い新入生が二人も入ったんだろ?」
「魔王が変な魔法でも使ってるんじゃね?」
「鶴木さんと付き合ってるって噂があるぞ」
「えーマジ? さすが魔王じゃん」
友人二人も会話が聞こえていたようで、魔王ーー三学年の逢間陽瑠について話はじめる。
彼の逸話は多岐に渡り、不幸伝説から実家の話、女遊びの激しさなど様々だ。兎にも角にも話題に尽きない人物である。填武もなんとなくだが、いくつか噂を知っていた。
ただ自分には関わりのない人だと思っていたし、オカルトにはこれっぽっちも興味がなかったので、大学のちょっとした有名人程度にしか認識していなかった。
「填武だったら入れそうだよな」
「は?」
昼食を食べていた手が止まる。
「お前学部で一番イケメンだろ? 顔だけならいけるって!」
「いや、俺はイケメンってわけじゃ……」
「謙遜すんなよ。去年の学祭で体育学部イケメン代表だったじゃん。優勝は経済学部の宮比だったけどさ」
「そういや宮比も憑きサーだったよな」
憑きサーの顔面の偏差値がおかしくないかと心の中でツッコミを入れつつ、この話題は流れてしまった。
その話をしたのがおよそ一か月前ーー
「なんなんだ一体……」
神代填武は途方に暮れていた。ここ最近、記憶が曖昧な時間が多発していたのだ。そしておかしなことに、記憶がない間の填武はまるで別人のようだと、友人が口々に言うのだ。
填武は硬派で真面目で、悪く言うとお堅い人間である。しかし与えられた課題はストイックにこなし、意外に面倒見がいい。目鼻立ちがはっきりした男らしい容姿と相まって、男女共に好感度の高い男だった。武道学科選考ということもあり、たくましい体も魅力である。
そんな彼がここ最近、"ヘタレ"になったと言うのだ。
つい先ほども意識が途切れたと思ったら、友人が神妙な面持ちで「お前がそこまで打たれ弱いと知らなかった……」と謝ってきたのだ。わけがわからない。
「これじゃあまるで二重人格じゃないか」
今までそんなことは一度もなかった。最近二重人格にデビューしたなんて、そんなカジュアル感覚でなれるはずがない。
ーーまさか、憑かれた?
そんな考えが頭を過ぎる。
「……」
自分とは無縁だと思っていた。しかしこの状況を放っておけるはずがない。
彼は意を決すると、構内の北の端、第四研究所を目指して歩き始めた。
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